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学術・研究

医科2022.04.16 講演

[保険診療のてびき] 
超高齢化社会における脂質異常症治療の最新知見(2022年4月16日)

神戸大学大学院保健学研究科 教授  石田 達郎先生講演

はじめに
 アテローム性動脈硬化性疾患を予防する上で、血清脂質を適正に管理することは極めて重要であり、新たなエビデンスに基づいて2022年に動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂されることとなった。本稿では、新しいガイドラインに基づく脂質異常症の治療方針について概説する。
LDL-C低下療法
 LDL-C値は、動脈硬化性疾患の発症頻度と最も強く相関していることから、新しいガイドラインでは個々の患者におけるリスクにおけるLDL-Cの管理目標値が改訂されている。動脈硬化性疾患の一次予防群であっても、糖尿病にPAD、細小血管症、喫煙などを有する場合は高リスクと考えられ、管理目標値は二次予防群と同じ100㎎/dL未満に設定されている。また、二次予防群でも急性冠症候群、FH、糖尿病、アテローム性脳梗塞の合併の四つの病態は、とくに高リスクと判断され、管理目標値は70㎎/dL未満に設定されている。すべての脂質異常症患者において生活習慣の是正は必須であるが、100㎎/dL未満のLDL-C値を達成するには薬物療法が必要となる場合がほとんどである。
 LDL-C低下療法における第一選択としては、スタチンを十分量投与し、エゼチミブを併用することにより、管理目標値を達成することが推奨されている。それでも管理が不十分な場合はPCSK9阻害薬の使用を考慮する。実際に、CCT collaboratorsによるメタ解析(Lancet. 2008;371:117-25)では、スタチンを中心としたLDL-C低下療法によって一次予防・二次予防ともに心血管疾患リスクは約30%減少する。一方、予想以上にLDL-Cが低下した場合(50㎎/dL以下など)でも、安全性において重篤な問題は認められないことが報告されている。すなわち、LDL-C低下療法の有効性と安全性は今や確立したと言ってよい。
高トリグリセリド血症と外因性脂質の管理
 スタチン投与中であっても心血管疾患のリスクは残存すること(いわゆる残余リスク)が問題になっている。その中で高トリグリセリド血症の重要性が認識されてはきたが、これまでは適切に管理されていないことが多かった。それどころか、食後にトリグリセリドが高いのは生理的であると誤解されることもあった。
 しかし、大規模臨床研究やそのメタ解析によって、高トリグリセリド値は空腹時でも随時(食後)でも心血管疾患のリスクであると認識されており、2022年のガイドラインでは、血清トリグリセリド値の管理目標値として空腹時は150㎎/dL未満、随時で175㎎/dL未満が推奨されている。
 肝臓由来のLDLを内因性脂質と捉えると、食事由来の外因系脂質は、コレステロール、脂肪酸、リン脂質、中性脂肪など多彩であり、その中には動脈硬化惹起性成分も多く含まれている。冠動脈疾患患者やスタチン投与患者では、LDL-C値が適正に管理されていても外因系脂質のマーカー(アポB48、レムナント、トランス脂肪酸、コレステロール吸収等)も上昇し、ステント治療後の病変の進行と関連している。
 高トリグリセリド血症は、small-dense LDLや酸化LDLなどの悪いLDLの亜型の増加と関連しており、血清LDL-C値のみでは評価できない残余リスクを形成している。糖尿病やメタボリックシンドローム、高トリグリセリド血症の患者さんでは、レムナントの代謝分解が遅れて血中に停滞するが、レムナントの問題点は、LDLが酸化修飾されて酸化LDLになって動脈硬化巣に停滞するのに対して、レムナントは酸化されなくてもそのまま動脈硬化巣に入ることである。
 現代人では、朝食を食べる前の数時間だけが空腹時であって、ほとんど1日中、非空腹時であると考えられる。したがって、レムナントや外因性脂質の悪影響は1日中存在している。とくに糖尿病患者では、高トリグリセリド血症や外因系脂質の影響が強く、患者のリスクに応じて積極的に指導・介入する必要がある。
 単独の高トリグリセリド血症に対する第一選択はフィブラート系薬剤である。古典的なフィブラートはスタチンとの併用に支障があったが、最近発売されたペマフィブラートは安全性が改善したと報告されており、大規模臨床試験によって有効性と併せて証明されることが期待されている。また、血管への直接の抗炎症効果を期待してオメガ3系多価脂肪酸製剤も併用されることが多い。
低HDL-C血症についての考え方
 高トリグリセリド血症には高率に低HDL-C血症を合併する。血中HDL-C濃度は、多くの観察・疫学研究において心血管病の発症と逆相関することから、「善玉コレステロール」と呼ばれてきた。実際に、糖尿病や肥満、喫煙などに伴う低HDL-C血症は心血管病の危険因子であると証明されている。
 しかし、HDL-Cは高ければ高いほど良いわけではなく、HDL-Cと死亡率とはUカーブ型の関係を示すことも報告されている。また、HDL-C値を上昇させるCETP阻害薬やナイアシンを用いた臨床試験も期待された有効性を証明できなかった。そもそもコレステロールには善玉も悪玉もなく、HDL-C値とはHDL粒子の一構成成分の量的指標に過ぎない。
 したがって、抗動脈硬化作用を議論するにはコレステロール逆転送系が活性化されたかどうかを評価する必要がある。コレステロール逆転送の第一段階は、HDL粒子による血管などからのコレステロールの引き抜きであるので、近年注目されているのがHDL粒子によるコレステロール引抜き能(CEC)である。従来のCECの測定には、培養細胞やアイソトープが必要であったが、それらを必要としないコレステロール取込み能(CUC)なども開発されている。
 CECもCUCもHDL粒子の機能を反映し、HDL-C濃度以上に心血管病リスクの層別化に有用であることが示されている。今後、病態や予後における意義が明らかになることが期待される。
超高齢化社会における脂質異常症治療のあり方
 我が国の若年者の脂質摂取量は欧米並みに増えてきており、国民の半分は「脂質の摂り過ぎ状態」にあると言っても過言ではない。これまで脂質異常症に対しては、コレステロールなどの脂質の摂取制限を指導してきた。しかし、一般に肉類や卵、乳製品などコレステロールを多く含む食品は蛋白質などの他の栄養素に富むものが多い。したがって、行き過ぎた脂質制限によって他の栄養素の制限をきたす可能性も念頭において指導する必要がある。
 超高齢化社会においては低栄養やフレイルは深刻な問題である。高齢者では脂質のみならず蛋白質やミネラルの摂取量が少なくフレイルの増悪要因になりうる。
 したがって、脂質制限やコレステロール制限などの生活習慣の改善の際には、画一的で一方的な指導にならないように注意し、できるだけ多職種連携を利用して、個々の患者に合わせて細かく管理・介入する必要がある。場合によっては、食事摂取量を減らさずに薬物療法を併用することも念頭におく必要がある。
おわりに
 心血管イベントの発症抑制のためには、LDL低下療法に加えて、外因性脂質を含めた包括的な脂質管理と、生活習慣の改善は極めて重要である。近年、薬物療法の選択肢が広がってきた中で、栄養指導や運動指導の意義は軽視されるべきではない。しかし、食事摂取に関しては、脂質制限のみならず蛋白質を含めた他の栄養素について総合的な栄養指導も重要であり、症例によって多職種連携を利用して適切に介入する必要がある。とくに、高齢者に対しては、疾患を治療対象とした過栄養・メタボ対策ではなく、低栄養・フレイル予防のための適切なエネルギーと栄養摂取を指導するべきである。

(4月16日、薬科部研究会より)

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