医科2022.05.14 講演
貴方はどれだけ知ってる?尿試験紙法の意外な活用方法
[診内研より531] (2022年5月14日)
洛和会丸太町病院 救急総合診療科 上田 剛士先生講演
はじめに
尿試験紙からは実に多くの情報を読み取ることができます。製品によって異なりますが、pH、比重、ブドウ糖、蛋白質、ウロビリノーゲン、ビリルビン、ケトン体、潜血、白血球、亜硝酸塩などが判定できます。これほど多くの項目を迅速に、簡便に判定できる検査は他にはありません。それでは尿試験紙を「尿」以外に適応してはどうでしょうか? きっと貴方の診療の幅を広げてくれることになるでしょう。ここでは特に有用と思われる状況をピックアップしてご紹介します。髄液に尿試験紙
尿試験紙の白血球エステラーゼ反応を用いることで、髄液白血球≧10/μLを感度92%、特異度98%で予測できます1)。これは非常に高い診断特性と言えます。髄液蛋白、髄液糖も同様に試験紙により推測が可能です。これらを組み合わせれば細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎を鑑別することも可能であるという報告もあります2)。また潜血反応は感度97%で赤血球の混入(赤血球〉5/HPF)を検出できるため3)、潜血反応が陰性であればクモ膜下出血は否定的と言えます。もちろん正確な判断のためには検査室の測定結果を待たなければなりませんが、髄液を見た目で判定するよりは客観性に優れます。特に髄液中の白血球数は数時間室温で放置するだけで減少してしまうため4)、迅速に測定できない環境であれば積極的に試験紙を活用すべきと考えます。
涙液に尿試験紙
アルカリや酸による化学眼損傷の評価に試験紙を用いるのは救急ではよく知られた方法です。十分にpHが正常化したか確認できるまで十分な洗浄を行う必要があります。経管栄養中に尿試験紙
経鼻胃管の位置確認にリトマス紙を用いるのは古くから知られています。これは聴診法よりも信頼性が高いため、迅速な判断に役立ちます。吸引物のpH≦5.0ならば胃内留置の可能性が高く、Bil(3+)ならば十二指腸内に留置されている可能性が高いです。ただし、気管内迷入は致死的な肺炎を惹起する可能性があるため、レントゲン写真(あるいは超音波検査)による確認が望ましいです。経口摂取していない場合、唾液や喀痰の糖は陰性のはずです。経管栄養投与後に唾液の糖が陽性ならば胃内容物の逆流、気管吸引物の糖が陽性ならば誤嚥を疑います。ただし血性痰では糖が偽陽性となることがあります5)。診断特性を向上させるためには経管栄養にブドウ糖10gを加えることが望ましいです6)。
胸水に尿試験紙
多くの施設では血液ガスで胸水のpHと糖を測定し、ドレナージを要する膿胸/複雑性肺炎胸水の判定をしていると思われます。このような状況において尿試験紙はベッドサイドで迅速な判断に役立ちます。胸水のpH≦6.5や白血球エステラーゼ(3+)ならば複雑性肺炎随伴胸水/膿胸を考えます7)8)。胸水の糖が陰性の場合は複雑性肺炎随伴胸水/膿胸や結核性胸膜炎を疑います。腹水に尿試験紙
特発性細菌性腹膜炎(SBP)に対して、腹水の白血球エステラーゼ陽性(1+以上)は感度85~89%、特異度95~99%という高い診断特性があります9)。腹水の細胞数が検査室から報告されるのには時間がかかることが多いため、SBPが疑われる状況では試験紙を積極的に用いる価値が高いです。なお、腹膜透析中であれば腹水中好中球がより少なくても腹膜炎を疑わなければなりませんので、白血球エステラーゼが±でも有意と考えるのが良いでしょう10)。膣分泌物に尿試験紙
膣分泌物のpHはデーデルライン桿菌により低く保たれています。pH≧5.0であれば膣感染症や閉経を疑いますが、尿試験紙での判定は困難です。また白血球エステラーゼ反応が陽性であっても膣炎や子宮頸管炎とは言い切れず、やはり試験紙の役割は限られています。ただし、破水が疑われる場合はpH≧6.5であることが破水の診断に有用です11)。専用の破水診断用のキットも販売されていますが、非専門医が破水の判断を行う場合に尿試験紙を用いるのは理にかなっていると思われます。関節液に尿試験紙
化膿性関節炎の診断には関節穿刺が必要です。しかし関節液の検査結果は迅速には得られません。そこで尿試験紙の出番です。白血球エステラーゼ≧1+や糖(-)ならば化膿性関節炎を疑います12)。参考文献をいくつかつけてはおりますが、より詳細を知りたい方は拙著『内科医に役立つ! 誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活用術[医学書院]』を参照いただければ幸いです。
(5月14日、診療内容向上研究会より)
参考文献1)Bortcosh W, Siedner M, Carroll RW. Utility of the urine reagent strip leucocyte esterase assay for the diagnosis of meningitis in resource-limited settings: meta-analysis. Trop Med Int Health. 2017;22(9):1072-1080.PMID:28627004
2)Moosa AA, Quortum HA, Ibrahim MD. Rapid diagnosis of bacterial meningitis with reagent strips. Lancet(London, England).1995;345(8960):1290-1291.PMID:7746063
3)Marshall RA, Hejamanowski C. Urine test strips to exclude cerebral spinal fluid blood. West J Emerg Med. 2011;12(1):63-66.PMID:21691474
4)Steele RW, Marmer DJ, O'Brien MD, et al. Leukocyte survival in cerebrospinal fluid. J Clin Microbiol. 1986;23(5):965-966.PMID:3711287
5)Metheny NA, Clouse RE. Bedside methods for detecting aspiration in tube-fed patients. Chest. 1997;111(3):724-731.PMID:9118714
6)Young PJ. A spoonful of sugar-improving the sensitivity of the glucose oxidase test strip method for detecting subclinical pulmonary aspiration of enteral feed. Anaesth Intensive Care. 2001;29(5):539-543.PMID:11669439
7)Castellote J, Lopez C, Gornals J, et al. Use of reagent strips for the rapid diagnosis of spontaneous bacterial empyema. J Clin Gastroenterol. 2005;39(4):278-281.PMID:15758619
8)Porcel JM, Esquerda A, Bielsa S. A specific point-of-care screen for infectious pleural effusions using reagent strips. Eur Respir J. 2011;37(6):1528-1530.PMID:21632833
9)Nguyen-Khac E, Cadranel JF, Thevenot T, et al. Review article: the utility of reagent strips in the diagnosis of infected ascites in cirrhotic patients. Aliment Pharmacol Ther. 2008;28(3):282-288.PMID: 19086234
10)Akman S, Uygun V, Guven AG. Value of the urine strip test in the early diagnosis of bacterial peritonitis. Pediatr Int. 2005;47(5):523-527.PMID:16190958
11)Liang DK, Qi HB, Luo X, et al. Comparative study of placental α-microglobulin-1, insulin-like growth factor binding protein-1 and nitrazine test to diagnose premature rupture of membranes: a randomized controlled trial. J Obstet Gynaecol Res. 2014;40(6):1555-1560.PMID:24888915
12)Omar M, Ettinger M, Reichling M, et al. Preliminary results of a new test for rapid diagnosis of septic arthritis with use of leukocyte esterase and glucose reagent strips. J Bone Joint Surg Am. 2014;96(24):2032-2037.PMID:25520336