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学術・研究

医科2022.11.05 講演

[保険診療のてびき] 
新型コロナワクチンの効果、有効性と副反応
(2022年11月5日)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授 大阪大学名誉教授 宮坂 昌之先生講演

 パンデミックとなった新型コロナ感染症に対して新たにmRNAワクチンが作られた。
 ここではmRNAワクチンの作用機序、有効性、安全性、副反応について解説する。

1.mRNAワクチンの開発とその安全性
 mRNAワクチン開発の歴史は今から10年以上も前にさかのぼる。海外では以前からジカ出血熱に対するmRNAワクチンが作られていた。また、ドイツのビオンテック社(ファイザーとともにコロナワクチンの共同開発をしたベンチャー)は2008年以来、ワクチンとしてmRNAワクチンの技術開発を続けてきた。
 ワクチンは健康人に接種することから、極めて高いレベルでの安全性が求められる。世界中から安全性データが集まった結果、副反応が懸念されていたが深刻なものはまれであり、このワクチンの安全性に大きな問題はないことがわかった。一方、脳内出血、肺梗塞、深部静脈血栓症などの重篤な病気は、ワクチン接種では増えず、コロナ感染後に発症頻度が著しく高くなっている(これが高齢者における新型コロナの重症化の大きな原因であり、気道感染が消えても合併症で亡くなることが多い)。
 ところが、反ワクチンの人たちからは、mRNAワクチン接種により死者が増えた、自分のからだを攻撃するので妊婦には危険だ、など、種々の情報が流されている。しかし、これまでのところ、ワクチン接種者群と非接種者群の間では死亡率に有意差はなく、妊婦へのワクチン接種で不妊、流産、奇形は増えていない。
2.mRNAワクチンはリンパ管に入り、リンパ節内で強い免疫反応を誘導する
 mRNAワクチンは、直径約100ナノメートルの脂質ナノ粒子の形状をとる。脂質成分はリンパ管に入りやすく、約100ナノメートルのサイズの粒子はリンパ管内皮細胞の間隙を通り抜けて管腔内に入りやすい。
 したがって、mRNAワクチンは投与後、主にリンパ管に入り、所属リンパ節内に流入する。所属リンパ節では種々の食細胞がワクチン成分を細胞内に取り込むが、ワクチンmRNAの転写が見られるのは主に樹状細胞である。これらの細胞では抗原提示に必要な分子群の発現が高まり、リンパ球に対して抗原提示を行う。
3.mRNAワクチンは自然免疫系を活性化するが、過剰な活性化は接種後の副反応をもたらす
 ワクチン接種後に自然免疫系の活性化が起きる。特にmRNAを被覆する脂質ナノ粒子にはアジュバント活性があり、IL-6をはじめとする炎症性サイトカインの産生を促す。この過程が過剰に進行すると、注射部位での強い痛み、腫脹、発赤などが誘導され、全身的には倦怠感、筋肉痛、頭痛、発熱などが起きる。
 しかし、ワクチンによる獲得免疫系の活性化には自然免疫の活性化が必須であり、このプロセスはバイパスできない。
 mRNAワクチンは、他のワクチンに比べて副反応が強いという欠点があるが、すぐには改善できない問題である。
4.mRNAワクチンは所属リンパ節で獲得免疫を活性化して、T細胞およびB細胞による特異的な免疫反応を誘導する
 ワクチン成分が樹状細胞に取り込まれると、細胞内でスパイク蛋白質が作られる。樹状細胞はそれをペプチドの形で細胞表面に提示することにより、T細胞、B細胞を活性化する。
 新型コロナに対する防御反応には、B細胞が産生する抗体とT細胞による細胞性免疫の両方が必要である。
 B細胞が産生する抗体は、ウイルスに対する初期防御に重要である。特に中和抗体は、スパイク蛋白質がヒト細胞上のACE2蛋白質に結合する部分に結合し、スパイク蛋白質とACE2の結合を立体的に阻害することにより機能する。これに対してT細胞はウイルスの細胞への感染プロセスは抑制しないが、感染成立後にウイルス感染細胞を認識し、感染細胞を傷害することにより、ウイルス排除に働く。
 一方、B細胞欠損者でもCOVID-19から回復する。また、中和抗体価が低くても回復が見られることから、抗体非依存性機構もウイルス排除に働き、特にT細胞による細胞性免疫が重症化の阻止と病気からの回復に関わる。
5.mRNAワクチンは所属リンパ節でメモリーT細胞、B細胞を誘導し、メモリー細胞は気道表面にも一部移動するが、局所での免疫反応が抗原と出会わないと減弱する
 ワクチン接種後、所属リンパ節ではメモリーB細胞が形成される。接種の回数が増えるにつれて、メモリーB細胞が産生する抗体の親和性のみならず変異株に対する中和活性も大きく上昇する。また、追加接種により種々の変異株に対する中和抗体量が生成され、既感染者ではこの傾向が強くみられる。
 ワクチン接種後にはメモリーT細胞も所属リンパ節で増殖し、その後、気道表面を含む局所にも分布するが、抗原と出会わないとその機能、数が低下する。このために、時間とともに局所免疫が低下し、これがワクチンの複数回接種をしながら感染を起こす原因となっている。
6.ワクチンの追加接種は、減弱した免疫を再度強化し、変異株に対応する免疫を生み出す
 SARS-CoV-2は、変異が進むにつれて、スパイク蛋白質の特定の領域に変異が多く入り、このためにウイルスへの結合性が低下し、変異株に対して中和抗体ができにくくなっている。すなわち、変異が進むほど免疫をすり抜ける力が強くなってきている。
 しかし、幸い、追加接種、特に3回目接種、4回目接種を行うことにより、これまでの変異種に対する中和抗体価が上がり、接種者のブレイクスルー感染のリスクが下がる。
7.さいごに
 今後は、感染予防効果が持続するワクチンの開発が必要である。その鍵の一つは、いかにしてSARS-CoV-2に対するT細胞免疫を効率的に誘導できるかである。T細胞はスパイク蛋白質以外にウイルスのN蛋白質やM蛋白質も認識できることから、今後はこれらのウイルス蛋白質も標的として用いることになるであろう。
 また、もう一つの課題は、いかにして副反応を今よりも低くできるかである。これについては脂質ナノ粒子の膜成分の改良が必要と思われる。

(2022年11月5日、北阪神支部第37回総会記念講演より)

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