兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2022.11.05 講演

国際部研究会より 4
在日ベトナム人の診療に関するコツ
~ベトナム人医師として外国人へのコロナ支援の経験から~
 (2022年11月5日) 

京都民医連中央病院 腫瘍内科医長 ファム グェン クィー先生講演

1.はじめに
 在日ベトナム人は約45万人に上り、国籍別では第2位になってきた。この9年間で16.5倍も増加してきたが、留学生と技能実習生の急増がその背景にある。日本で働く外国人の25.7%がベトナム人という状況になったが、それに伴う言語サポート体制が十分に整っていないため、健康問題も増えている。日本語が不慣れのため受診しにくく、医療従事者と会話できないため診断と治療が難渋することもしばしばみられる。
 著者はベトナム出身医師として病院で勤務しながら、Facebookと連携ネットワークで無料健康相談を行っているので、在日ベトナム人の診療に関する注意事項とその対応策を紹介したい。
2.在日ベトナム患者に関する健康の社会的決定要因
 在日ベトナム人における新型コロナ予防接種の障壁について調べるために、2021年3月に京都府保険医協会と在日ベトナム大使館や20以上の在日ベトナム人コミュニティーやネットワークと連携し、オンライン調査を実施した。全国から2062人の回答が集まり、20歳代と30歳代が97%を占めた。日本語能力については試験で分類される5段階の1級~2級レベルが約34%だったが、資格がない・ほぼ分からないと答えた人は25%もいた。
 「予防接種を受けたいかどうか」との設問では、93.5%が「受けたい」と答えたが、6割が無料で接種できることを知らなかった(図1)。外国人向けの予防接種の情報不足について、「とても心配」と「心配」が合わせて66%で、「自宅へ郵送される案内が読めない」や「接種の予約ができないのではないか」などの回答が多かった(図2)。アンケート回答者の世帯年収は、年収200万円以下が6割弱を占めたため、「仕事が中断される」など接種の収入への影響を心配する方も多かった。
 この調査結果から在日ベトナム人には言語の壁、情報弱者、低所得という独特な健康の社会的決定要因(SDH)があると分かった。新型コロナワクチンのアクセス不良だけでなく、他の健康問題に関する受診困難も予想される。
 ベトナム患者にとってやさしい診療を提供するために以下のような工夫を提案したい。
(1)患者の言語能力の確認

□完全に意思疎通が可能の場合、通常どおりの問診、診察を行う。
□ある程度コミュニケーションが取れる場合、通常より時間をかけてやさしい日本語で丁寧に説明するように心がけるが、必要に応じて通訳サービスを利用する。
□全くコミュニケーションがとれない場合、日本語を話せる知人がいないか確認し、適切な通訳サービスを利用する。AMDAベトナム語無料電話通訳は水・金曜日(10:00~15:00,050-3405-0397)に利用できる。
(2)患者情報と受診目的の確認

 受診希望に応じて対応が異なるので、最初から確かめる方が望ましい。
□健康診断
□急性疾患の診断・加療
□慢性疾患の診断・加療
□常備薬の継続処方
 入職にあたり健康診断書が求められる人もいるが、受付で伝えることができず、人間ドックを受けてしまったこともあった。
 一方、症状があるものの、受付で伝えることができず、「総合的に評価してほしい」と言ったために診療を断られた人もいた。
 ベトナムでは健診を受ける機会が少なく、日本の健診と保険診療が区別しにくい。採血、単純撮影、超音波検査等を一通りに「総合的に」評価すればなんでも分かると勘違いするベトナム人もいるので問診票で確かめた方が望ましい。
 もう一つの注意事項は、"グエンさん問題"である。ベトナムでは"グエン"(阮)との名字が全人口の約40%を占めているため、名前で呼ぶことが多い。
 例えば:Nguyen Thi Lan/グエン ティ ラン→「ランさん」と呼ぶ。
 Nguyen Van An/グエン バン アン→「アンさん」と呼ぶ。
 フルネームでゆっくり呼びかけるのが一番よいが、「グエンさん!」と呼ぶと隣のグエンさんと誤認する可能性があるので、注意が必要である。ちなみに、ミドルネームの「ティ」は女性を、「バン」は男性を指すことが多いので、患者の識別に役に立つこともある。
(3)説明文章の工夫

 外国人患者が診療所や病院の中で戸惑わないように以下の工夫が望ましい。
✓受診順番の案内(ケアパスの配慮)
✓検査・処置に関する説明文章の翻訳
✓指差し表やピクトグラムの活用
✓説明用紙への記載(英語表記も)
 受診しても何の病気か分からず、どのように治療するかも分からないと訴えるベトナム人が多いようで、日本語の病名(できれば英語も)を記載して渡した方が望ましい。
 グーグル翻訳機能を用いて英語の病名→ベトナム語の病名へ翻訳し、自分で検索して関連記事を読むことができるので、口頭で説明するよりも記述の方が効果的である。翻訳機能付きの「グーグルレンズアプリ」を使用すれば日本語の案内がすぐに読めることも多いので通訳サービスがない場合、患者に提案してもよいと思われる。
 病気がはっきり診断できないこともあるが、「危険な疾患の可能性は除外されたか」と「どうなったら再受診するべきか」を説明した方が望ましい。自分の症状についてインターネットで先に調べる方が増えているが、逆にがんや心筋梗塞などについて過剰に心配する人が増えている。医師とコミュニケーションできず、何も説明されずに「大丈夫」としか言われないために不安が続いているベトナム人が多いと言われている。
 多言語音声翻訳アプリ "VoiceTra"(ボイストラ)が自動で言語を識別することができるので活用してほしい。
 このように在日ベトナム人は言語の壁、情報弱者、低所得というSDHで医療アクセス不良になりやすい。誰もが平等に医療にアクセスできるはずの日本で、大勢の外国人が受診遅延して生命の危険にさらされないように適切な支援が必要であり、外国人が社会的に弱い立場で放置されるような状況を作らないことも重要である。受診障壁を少しでも緩和するには医療従事者は外国人患者の諸問題を意識し、コミュニケーションスキルとチームワークを高める必要がある。参考資料は以下にまとめたのでお役に立てば幸いである。
 追加質問やベトナム語の翻訳書類があれば、beequy@kuhp.kyoto-u.ac.jpまで遠慮なくご連絡ください。

(2022年11月5日、国際部研究会より)


〈問診票の参考資料〉
・受付の問診票
 個人情報と受診動機を確認することができます。

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・内服内容の指差し票
 指差し票で処方箋を分かりやすく伝えることができます。
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 ・https://kifjp.org/medical/
 ・https://www.mhlw.go.jp/content/000793422.pdf

〈ベトナム語や英語の医療説明資料〉
 ・https://medlineplus.gov/languages/vietnamese.html
 ・https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions
 ・https://yhoccongdong.com/(←著者の慈善活動で管理しているホームページ)
 ・https://vinmec.com/vi/

〈やさしい日本語のコツ〉
 https://easy-japanese.info/archives/589

〈AMDA多言語各種書式〉
 https://www.amdamedicalcenter.com/usefulinformationviet

〈指差し表〉
 ・https://www.tabunka.jp/hyogo/119/sheet/vi.pdf
 ・https://medical.mt-pharma.co.jp/articles/foreign/hospital/eng-reception.shtml

〈薬の説明(英語)〉
 ・https://www.rad-ar.or.jp/siori/english/index.html

図1 "情報弱者"に注意すべき
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図2 コロナワクチンの具体的な心配やバリアについて
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