兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2022.11.19 講演

[保険診療のてびき] 
ママに優しい漢方薬
(2022年11月19日)

大阪市・さかざきこどもクリニック院長 坂﨑 弘美先生講演

はじめに
 子どもの診察の際に、母親自身の体調不良について相談されることが多い。育児や家事には休みがなく、さらに仕事をしている方も多く、母親のストレスははかりしれない。また、コロナ禍において、母親の負担はさらに増え心身ともに疲れ切っている方が多い。
 子どもの健やかな発達のためには、母親の心身の健康も必要である。また保護者だけでなく、心のトラブルを抱える子どもが増え、その対応に母親の負担がさらに増えるという悪循環が起こっている。
 母親は新型コロナウイルスへの感染の不安を抱えながら、子ども、家庭を守っていかねばならない。小児科医はそんな母親のSOSに気づき、声かけをすることも大切かと思う。その際、漢方薬というアイテムがあれば、母子ともに対して柔軟な治療が可能となる。
母親への漢方薬のアプローチについて
 月経関連症状、精神症状、倦怠感にわけて選択する漢方薬について説明する。

1)月経トラブルに対して
 子育て中の女性は、妊娠、出産、更年期と大きくホルモンバランスが変化する時期にいる。さらに小さいサイクルとして、月経とそれによる周期的な体調変化があり、それらに伴う症状もさまざまである。
 まず女性3大漢方である当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、さらに桃核承気湯を加えてこの四つから処方を選択している(図1)。
 当帰芍薬散は、華奢で色白の女性で、むくみと冷えがある場合に有効である。構成生薬は(四物湯-地黄)+(五苓散-猪苓-桂皮)で、血の巡りを改善し身体の水分バランスを調節する処方であると言える。
 加味逍遥散は、不定愁訴が多い場合のファーストチョイスである。また更年期障害にも有効であることが多い。仕事と育児でストレスまみれの母親にとって、救世主のような処方であると言える。
 桂枝茯苓丸は、比較的体力がある女性で、月経関連トラブルや冷えのぼせを訴える場合に有効である。
 桃核承気湯には、下剤作用がある大黄と芒硝が含まれる。これを含む方剤を承気湯類と呼び、便秘だけでなく気のめぐりも改善する作用がある。頑固な便秘の症状がある母親にはまず桃核承気湯を処方することが多い。

2)こころのトラブルに対して
 情報化社会の中で、どうしても自分と他人を比較してしまいがちである。できるだけパーフェクトに育てなければと強いストレスがある母親が多い。育児はこうあるべきだと考えるが、なかなか思い通りにいかない。仕事での疲れもあり、働く母親のストレスははかりしれない。夫が協力的でない家庭もあり、コロナ禍で実家にも頼れず、母親ひとりで問題を抱えている場合も多い。それらに対して、上述の加味逍遙散、抑肝散、半夏厚朴湯、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯から処方することが多い(図2)。
 抑肝散の処方のポイントは、どこかに怒りがある場合である。また、自分自身が悪いと思いこみ、自責によるイライラ感、その結果クヨクヨしてしまうタイプに有効である。イライラ、クヨクヨが続き、その結果、胃腸が弱り、消化機能が低下してしまう場合は、抑肝散に陳皮と半夏を加えた抑肝散加陳皮半夏が適切である。
 半夏厚朴湯は、精神症状があってのどが詰まるという症状があるときに処方している。「のどが詰まる」というのを主訴として、来院されることは少ない。他に色々な症状を訴える場合でも、必ず「のどのあたりが詰まりませんか?」と聞き出すことも大切である。ほかにも咳チックなどにも有効であることがある。
 加味帰脾湯の処方のポイントは、不安に押しつぶされて、身体も心も弱っている場合である。
 柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的体力があり、ストレスで交感神経過緊張状態となり動悸する場合に処方する。腹部診察のポイントとしては、胸脇苦満と臍上悸である。

3)倦怠感に対して
 とにかく疲れるという場合には、補中益気湯を処方すると効果的であることが多い。
 補中益気湯は、身体的精神的エネルギーが低下しているときに、それを補う作用がある。
 他にも十全大補湯、半夏白朮天麻湯、六君子湯なども同様の作用があり、その鑑別点を図3に示す。また、上記の月経トラブル、こころのトラブルに使用する漢方薬と併用することもある。
おわりに
 子どもを育てるということは、当たり前のようだが、とても大変であり尊い仕事である。
 一生懸命に育児をしても、子どもはなかなか親の思い通りにならないことも多い。母親だけでなく、父親もストレスや苦労が絶えない。そんな、母親または父親にもメンタルを含む体調管理に漢方薬は非常に役に立つと考える。
 また、通常の診察に来院された子どもの母親のストレスの存在に気づき、声をかけることが必要である。まずは、話を聞くこと、母親の頑張りを認めて褒めること、その上で母親の心身状態を考慮して漢方薬の内服を勧めることが大切である。
 多くの小児科医が保護者の訴えにも耳を傾け、漢方薬が処方できるようになればと思う。

(2022年11月19日、薬科部研究会より)


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