兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2023.03.11 講演

[保険診療のてびき] 
新時代を切り拓く片頭痛新規治療のすべて
(2023年3月11日)

甲南加古川病院・脳神経内科部長 甲南医療センター・頭痛外来 北村 重和先生講演

はじめに
 2000年にトリプタン系薬剤が日本に上陸して以来の"片頭痛治療パラダイム・シフト"第2波が現在到来している。
 片頭痛予防療法においては、初の特異的治療薬である抗CGRP関連抗体製剤が2021年に相次いで3種類上梓され、その有効性は片頭痛患者の生活・人生を大きく変えている。
 また、世界初の5-HT1F受容体選択的作動薬(Ditan系薬剤)であるLasmiditanも2022年6月に承認された。
 そして内服薬のCGRP拮抗薬であるGepant系薬剤は、現在日本でPhaseⅢの治験が進行中である。
 さらに成人にとどまることなく、小児・思春期対象の治験も日本を含めたGlobalで進捗し、片頭痛新規治療薬が次々と登場し、治療選択肢の拡がりは一昔前とは雲泥の差である。
 本研究会では、以下のような流れで講演を行った。
片頭痛の基本
・日本における片頭痛の有病率は約8.4%と多く、成人においては、女性が男性に比して3.7倍であり、20~40歳台の有病率が特に高い
・日常生活、社会生活の支障度が高く、社会の労働生産性の低下をもたらすことが大きな問題となっている
・片頭痛の臨床像は幅広く、その診断は容易ではない。ICHD-3(国際頭痛分類第3版)に準拠して診断を行うことが肝要であるが、片頭痛と緊張型頭痛の見極めで最も有用なのは、「体動時増悪」の有無である。これがあれば片頭痛の可能性がより高まると考えてよい
・2018年になって「慢性片頭痛」が独立した疾患と位置づけられるようになった。反復性片頭痛からの慢性化をいかに食い止めることができるかが、臨床的には重要と考えられている
片頭痛の急性期治療
・片頭痛のメカニズムとして広く受け入れられている三叉神経血管説の概要を説明した
・化学伝達物質のCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)と片頭痛の関連性、CGRPをいかに抑え込むかという観点から、片頭痛特異的薬物が開発されてきている
・片頭痛急性期治療薬の立ち位置を、頭痛の診療ガイドライン2021を用いて解説した。トリプタンに加えて、ジタン、Gepantが登場し、NSAIDsとの組み合わせ治療が有効である
・ラスミジタン(レイボー)が世界初の5-HT1F受容体作動薬として、昨年承認された。2時間後の頭痛消失率が高く(切れ味が期待できる)、飲み遅れても有効性が保持される、月経時片頭痛に対しても有効であり、血管に作用しないため心・脳血管障害のリスクがあっても安全に使えるというストロングポイントを有している。めまい、眠気等の副作用が少なからず出やすいという懸念点があるが、飲み方の工夫で克服可能である
片頭痛の慢性期予防療法
・頭痛の診療ガイドライン2021における、片頭痛の予防療法の必要性を解説した
・月に3日以上生活に支障をきたす片頭痛発作があれば、慢性予防療法の導入を検討してもよく、既存の予防薬に加えてCGRP関連抗体製剤が新たに選択肢として加わった
・既存の予防薬は、有効性が乏しく、忍容性が低く、効果発現までに時間がかかる点が臨床上大きな問題点であった
・CGRP阻害薬登場により、これらの問題点が解決され、限界点が突破できるようになった
・日本で3種類の抗CGRP関連抗体製剤が発売され、自験例を用いてその有効性と、安全性のデータを紹介した
・これらの薬は、在宅自己皮下注射を活用でき、付加給付制度の利用(一部の適用患者のみ)、患者用資材の充実により、患者自身の通院負担、経済的負担も軽くなり、何よりも有効性が高い薬剤であるため、適応患者には積極的導入が望まれる
・1カ月10日以上の急性期治療薬の内服を行い、3カ月を超えて定期的に乱用していると、「薬剤の使用過多による頭痛(MOH:薬物乱用頭痛)」に陥る危険性があるので注意が必要である
・MOHに対する抗CGRP関連抗体製剤の有効性に関するエビデンスが多数報告されており、MOHに罹患してしまっても、これらの薬剤を積極的に導入することにより、外来にて容易に治療が可能な時代となってきている
Gepant系薬剤
・非ペプチド系で小分子のCGRP受容体拮抗薬であるGepant系薬剤の開発が進んでいる
・現在第2世代の製剤が3種(Ubro-, Ato-&Rime-gepant)、第3世代の製剤が1種類(Zavegepant)実用化されている。欧米では第2世代が承認され、第3世代が申請中であり、本邦でもAtogepantとRimegepantの第3相試験が進捗中であるし、近々小児思春期患者を対象としたAtogepantの治験も始まる予定である
・急性期治療薬と慢性予防療法薬の2面性を有したユニークな薬剤であり、システマティックレビューによると、有効性はジタン系と同程度、忍容性はジタン系より高いとされている
・トリプタンとの併用も可能であり、今後治療選択肢の幅を拡げてくれる薬剤であることは間違いない
片頭痛診療における薬剤師の果たすべき役割
・薬局における頭痛の判別:自覚症状を確認する、頭痛間の判別に有用なツールを活用する
・セルフメディケーションのサポート:頭痛ダイアリーを用いて、OTCや処方薬のNSAIDs、トリプタンで確実にコントロールできているか、服用日数が多くなっていないかの観察を行う
・受診勧奨:内服日数が多くなりMOHの恐れのある患者や、既存の急性期治療では日常・社会生活支障度が高い患者に関しては、頭痛専門外来へ積極的に紹介する
・医療連携パスの必要性、患者情報の共有が重要となってくる
・頭痛外来へ紹介するタイミング:いつもの薬がイマイチ効かない、だんだん効かなくなってきている、頭痛の回数がだんだん増えてきている患者(月10日以上は絶対適応、月5日以上が相対適応)

 以上、片頭痛臨床の基本から始まり、新規治療薬の作用メカニズム、臨床的特徴、各種薬剤の位置付けを概説した。また片頭痛診療における薬剤師の果たすべき役割についても触れた。薬剤師は今後ますます頭痛診療において重要な役割を果たすことが期待されており、それに応えられるよう今後も研鑽が必要である。

(3月11日、薬科部研究会より)

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