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学術・研究

医科2023.08.19 講演

ステロイド内服の副作用と効果-実体験も交えて-
[診内研より540] (2023年8月19日)

大阪公立大学大学院 皮膚病態学 教授 鶴田 大輔先生講演

抄録
 私は臨床面、研究面の両者で自己免疫性水疱症である天疱瘡と類天疱瘡を専門としている。これらの治療のスタンダードは大量のステロイド内服療法である。
 ステロイドは細胞質内のステロイド受容体と結合後、核内に移行し、遺伝子発現を調節して、抗炎症作用や免疫抑制作用を発揮する1)。ステロイドは好酸球、リンパ球、マクロファージなどに強力に作用するだけではなく、様々な副作用を有する。
 これまで筆者は多数の患者に大量のステロイド投与を行ってきた。約4年前に筆者自身がネフローゼ症候群となり大量ステロイド内服を経験した。この際に、臨床医としては見えていなかったステロイドにまつわる注意点を発見したので、それを中心に述べた。
ステロイド総論
 そもそも内服ステロイドを処方する目的としては、1)不足分の補充、2)アレルギーが激しいので抑える、3)クリティカルな浮腫を改善する、4)炎症が激しいので抑える、5)免疫病なので免疫を抑える、が挙げられる2)
 もともと、免疫は異物や病原体を排除するために作られたシステムであるが、異物や病原体がないにも関わらずそれを攻撃する場合、免疫病となる。この場合、不可逆的な臓器障害を引き起こす可能性がある。主要なグルココルチコイドはコルチゾールである。これは副腎皮質でコレステロールから産生される。循環コルチゾールの5%以下が非結合型で、この非結合型が活性分子である。ステロイドは可溶性の細胞質内レセプターと結合し、核内へ移動する。そこで転写調節が行われ、サイトカインなどの産生が行われる。
 ステロイドにより、炎症メディエーターを直接抑制する機序と転写調節に関係するNF-κBなどのシグナルを間接的に抑制する機序とがある。一般的に抗炎症作用を期待する場合になぜステロイドがファーストチョイスになるかと言えば、可及的速やかという観点で最強であるからであろう。
 ただ、このすばらしい効果と引き換えに、長期使用では必ずと言って良いほど副作用が出現する。細胞レベルでのステロイドのターゲットは、好酸球〉リンパ球〉マクロファージ〉好中球と考えられている3)
 内服ステロイドの皮膚科学での適応疾患は、膠原病、血管炎、リンパ腫、重症の湿疹・皮膚炎、紅皮症、多形紅斑、結節性紅斑、重症薬疹、水疱症となろう。副作用としては、消化性潰瘍、精神神経症状、感染症、糖尿病、骨粗鬆症、副腎不全、無血管性骨壊死、筋症状、眼症などがある。
 大部分の副作用は用量依存的に現れると考えられている。無血管性骨壊死は頻度が低いとは言え、QOLを考えると見落とさない努力が必要である。単純レントゲンでは見落とされ、MRIが有用と考えられている。
 自覚症状としては原因不明の関節痛であるので注意が必要である。食事とステロイド投与についてはあまり議論になることはないが、アルコール、コーヒー、ニコチンは最小限にすることが推奨されるという論文があった4)
わたしとステロイド5)
 約4年前に微小変化型ネフローゼ症候群と診断された。診断された当時、かなりのハードワークで、暴飲暴食を繰り返し、何度も海外出張をしていた。
 頚椎症とも診断されており、NSAIDsも内服していた。突然の体重増加、下腿と上眼瞼の浮腫に気づき、内科受診した。血液検査にて肝機能異常、BUN35㎎/dL、Cre1.5 ㎎/dLと腎機能異常、Alb3.0g/dLと低下、コレステロール303㎎/dL、中性脂肪250㎎/dLと高脂血症、尿蛋白4g/日。
 以上よりネフローゼ症候群と診断され、腎生検のために入院した。結果に日数を要したがその間に高度の体重増加のために再入院し、腎生検の結果がでるまでアルブミン製剤の点滴を行って、いったん退院した。結果が微小変化型と判明したため、プレドニン50㎎/日から開始された。残念ながら通常の治療に反応が悪く、腎前性腎不全となった。
 結果的にはプレドニンを継続しつつ、グロブリン製剤とアルブミン製剤の併用、利尿剤の投与、透析の施行により改善し入院3カ月で退院となった。
 私自身は医師であり、ありふれた腎疾患でガイドラインもあるために、当初は標準治療で改善するものとばかり思っていたが、治療には難渋した。
 その間に自分自身の治療で疑問に思ったことは自ら調べて解決を図った。例えば、指の創傷治癒が遅延した。ステロイド投与と創傷治癒遅延についてはどこまでわかっているのだろうか? 論文によると、高用量ステロイド短期投与では創傷治癒には影響せず、慢性投与では感受性の高いヒトで創傷治癒遅延とあった6)
 このため、比較的早期から治癒遅延していたのは、ステロイドによるものというよりは、頻回の手洗いが過度であったためではないかと推測している。
 また、プレドニン内服で反応が乏しかった際に、プレドニン点滴に切り替え、やや改善した。プレドニン内服投与量と点滴の投与量は、自らが患者になる前は単純に1.5~2倍と思っていたが、最近の考えでは投与量についてはかなりの議論があり2)、単純には割り切れないことも調べていてわかった。
 入院中に不眠が高度で、ステロイドの影響によるものと、おそらく医療スタッフも私自身も思い込んでいたが、実際には医療スタッフの睡眠確認で使用するライトの眩しさで起きていることに途中で気づいた。ステロイド投与中には精神神経症状が出現するため、説明が難しい患者の症状は精神神経症状と考え、高度であれば神経精神科受診、軽度であれば投与量の減量に伴い改善すると私自身思い込んでいたが、そうではない可能性もあることを身をもって経験できた。
最後に
 患者になってみて初めて、医師としてのこれまでのあり方に反省点が多々あることを知った。今後はこの経験を踏まえ、患者に寄り添った医療をしたいと考えている。


参考文献

1)山本 一彦;ステロイドの選び方・使い方ハンドブック 改訂3版 羊土社 2018
2)國松 淳和;ステロイドの虎 金芳堂 2022
3)岩波 慶一;ステロイド治療戦略 日本医事新報社 2019
4)Cogan ㎎ et al. Ann Intern Med 95;158-61, 1981
5)鶴田 大輔.臨床皮膚科74;198-9, 2020
6)Wang As et al. Am J Surg 206;410-7,2013

(8月19日、第600回診療内容向上研究会より)

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