兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2023.09.30 講演

[保険診療のてびき] 
AI画像診断支援の現状と課題~放射線科医は絶滅危惧種か??~
(2023年9月30日)

神戸大学医学部附属病院 放射線部 特命准教授
福井大学 高エネルギー医学研究センター 准教授 野上 宗伸先生講演

放射線科医は不足
 人工知能(AI)に関する第一人者であるジェフリー・ヒントン博士が、今後画像診断はAIが担うことになるので、放射線科医の育成はやめるべきと語ってから、すでに7年が経過している。しかし放射線科医が余っているというデータは世界的にも存在せず、特に本邦は欧米と比して人口当たりの放射線科医が不足している。
 AI画像診断の医療現場への適用は自動車の自動運転技術に似た課題が存在し、むしろ放射線科医の役割が重要視されている。本講演では、AI画像診断支援の現状と課題を紹介するとともに、臨床医がどのようにAIと関わるべきかについて述べた。
画像生成(再構成)系のAIと診断支援系のAIの普及
 画像診断におけるAIは画像生成(再構成)を行うためのものと、診断支援を行うものの二つに大別される。いずれも2000年頃からその初期型といえるコンピューター支援アプリケーションは開発や臨床応用が進められていたが、近年は特に深層学習や機械学習を用いた、いわゆるAIを用いた画像診断が急速に普及している。
 画像生成(再構成)系のAIの目的は、診療放射線技師の手順を減らすための半自動撮像、検査効率向上のための高速撮像や、検査による被ばくを低減することが主である。半自動撮像の一例として、横断像であるCTを半自動的に適切な冠状断像や矢状断像に画像再構成するアプリケーションが挙がり、これにより人間が手動で行う場合と比して4~8倍の処理速度が得られ検査時間の短縮が可能となった。高速撮像法は特にMRIで広く普及し、画質を維持したまま短時間で撮像したり、あるいは撮像時間を延長せず画質を向上させたりすることが可能となった。CTでは、照射線量を低下させることで劣化した画像をAIで標準線量と同等の画質まで引き上げることが可能となり、患者被ばくの低減に広く用いられている。
 診断支援系のAIはここ数年で急速に普及した(図1,2)。厚生労働省は保健医療分野AI開発加速コンソーシアムの中で、画像診断支援をその項目の一つとして挙げており、2022年の診療報酬改定では他に先駆けていち早く「AI画像診断支援」が画像診断管理加算3の算定のための一要件として挙げられた。この算定のためには、各施設は関係学会の定める指針に基づいて、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理を行うことが求められ、具体的には画像人工知能安全精度管理責任者研修会の受講義務や安全管理者の設定義務が課せられるとともに、施設が学会の認証を受けることが求められた。用いるAI診断支援ソフトウェアは薬事承認されたものに限定され、学会で定義された。2023年時点、兵庫県内で認証を受けている施設は2施設にとどまるが、今後認証施設は増加していくものと考えられる。
AI診断支援システムの開発と課題
 診断支援系のAIは、セカンドリーダー型、コンカレントリーダー型、ファーストリーダー型に大別される。現時点で薬事承認されているAI診断支援ソフトウェアはほとんどがセカンドリーダー型として認証されており、まず医師が読影し、その後医師がソフトウェアの診断支援結果を参照して読影結果報告をする必要がある。医師が読影をしながら同時にソフトウェアの診断支援結果を参照するコンカレントリーダー型の認証ソフトウェアは現時点でほとんど存在せず、診断支援ソフトウェアが読影したものを医師がダブルチェックする形のファーストリーダー型のソフトウェアは薬事承認が得られていない。段階的なソフトウェアの利用方法は、自動車の自動運転レベルの違いに類似していると考えられ、いまだに人間の補助なしに自動運転ができるシステムが確立されていないのと同様、完全にAIに読影を任せることのできるシステムはまだ存在しない。現在、学会を中心として日本全国の画像データと診断レポートを蓄積しナショナルデータベースを構築し、ビッグデータとして用いることでAI診断支援システムの開発を加速させる取り組みが進められている。
 AI診断支援システムの課題として、それ単独で医師の読影の代替となる程度の診断能を有しておらず、依然として偽陽性、偽陰性が多く存在する点と、AIによる診断結果を放射線科医以外の医療従事者が参照可能なシステムとすることの是非が十分検討されていない点が挙がる。AI診断結果の公開範囲を広げれば広げるほど、診断結果が独り歩きする危険性が増すとともに、認められていないにもかかわらず医師がファーストリーダー型のような利用を行う可能性があり、結果的に医療過誤につながり得る。画像診断管理加算の対象であるCT、MRI、核医学検査については、必ず放射線科医の目を通るため、AI診断支援結果を放射線科医のみに限定することでセカンドリーダー型の使用法が担保される。一方救急現場では放射線科医の読影を待たず診断を下したいケースが多いため、上記画像検査においてもAI診断支援システムが有用な可能性があるが、システム的にどのように公開範囲を切り分けるかが課題である。
放射線科医は絶滅しない
 このように、将来的に放射線科医が不要となるまでには多くの課題が残されている。自動車の自動運転における議論と同様、いくら技術が発達したとしても責任は医師(ドライバー)が負う必要がある。昨今増え続ける画像検査数と画像データ量による大量の情報を用いた診断の質と安全を担保するためにはAI診断支援システムは必須であるが、そのシステムの質と安全を担保するためには専門家(放射線科医)が必須となる。このため、AIの普及により放射線科医が絶滅することはないと考えるが、逆にAIを利用できない放射線科医は淘汰される可能性があり、そう遠くない将来には、AIを利用できないあらゆる医師は淘汰される時代が来るかもしれない。

(9月30日、姫路・西播支部総会・記念講演より)


図1 胸部単純写真肺結節検出AIシステムの例。胸部単純写真(A)にてみられる左上肺野の結節状陰影をシステムは自動検出している(B、四角マーク)。心胸郭比も自動計算する。システムが検出した部位に一致して、CT上結節性病変が見られ、正しく診断されていることがわかる(C)
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図2 胸部CT肺結節検出AIシステムの例。小さな肺結節であっても正確に検出可能である(矢印)
2054_02.jpg

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