兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2023.10.29 講演

日常診特別講演より
「人類生存への脅威とその処方箋」より
沖縄が経験してきた「人類生存への脅威」
(2023年10月29日)

群星むりぶし沖縄臨床研修センター センター長 徳田 安春先生講演

Atomic危機
 私が「ABCDE」と名付けた脅威の序曲は沖縄で現実に発生している。
 まずはAtomic危機だ。これは、沖縄に1400発もの核兵器が装備されていた背景から起きた。1960年代のキューバ危機の最中、那覇の米軍基地から核ミサイルの誤射があり、米兵が死亡した。また、核爆弾を積んだ戦闘機が沖縄近海で空母から転落するという事故もあった。これらの核ミサイルと核爆弾は、撤去されることなく、いまだに沖縄の近海深くに沈んでいる。
 さらにはイラク戦争当時、米軍は沖縄の久米島近くの無人島で劣化ウラン弾を千発以上打ち込む訓練を行った。しかし、そのエリアでの放射能被曝の調査は不十分であり、その実態は不明である。
Biological危機
 沖縄で起きたBiological危機は先天性風疹症候群と新型コロナの感染拡大である。
 今回の新型コロナウイルスの起源に関して、WHOは武漢ウイルス研究所からのリークの可能性を排除していない。研究所リーク説だ。中国と米国を含む大国が、生物兵器への予防対策研究と称して生物兵器そのものを製造する実験を行っているが、遺伝子でのgain of function操作など、研究者の実験での逸脱行為を規制する国際的ルールが整備されていない。
 旧日本軍の731部隊から生物兵器情報を独占的に引き継いだ米軍は、生物兵器についての開発実験競争の先頭に立つ存在だ。とすれば、海外の米軍基地のうち、日米地位協定で囲まれた在沖米軍基地への搬入や貯蔵が行われるリスクは高いとみるのが当然だろう。
Chemical危機
 次にChemicalである。1969年、沖縄の知花弾薬庫(現・嘉手納弾薬庫)内でVXガス放出事故が起き、米軍人ら24人が病院に収容された。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたため、沖縄の住民も知ることになり、VXガスが全面撤去された。
 ベトナム戦争当時、ダイオキシンなどの環境汚染物質を基地の土壌内に埋めたことも、のちに返還された跡地での発見が頻発している。
 最近の沖縄で問題のあるChemicalはPFASだ。PFOSやPFOAなどを含む複数の種類からなる有害性残留フッ素系有機化合物であり、分割されにくくforever chemicalとも呼ばれる。これらは泡消化剤として軍事基地で使用されることが多く、安全に処理されずに放出され、基地周辺の地下水や土壌が極めて高濃度で汚染されている(図1)。
Digital危機(図2)
 デジタル兵器とサイバー戦争も深刻な問題となってきている。Digital危機だ。最近の世界的武器マーケットでは、AI式自律型兵器に注目が集まってきている。このタイプの兵器は、所有者の監視がなくても、人間の標的を見つけて殺害することができるからだ。懸念すべきは、独裁者、傭兵、テロリストに売られることである。
 AI式自律型兵器は、遠隔操作型武器とは異なる。遠隔操作型武器には、アラブ地域などで米軍が使っているドローンなどがある。遠隔操作型武器は、人間によるコントロール下に置かれているので、自律型ではない。偵察用ドローンも、攻撃機能がないので、自律型兵器ではない。対ミサイル防衛システムとも異なる。
 現在開発中のAI式自律型兵器は、ミッションの計画、3Dマッピングを含むナビゲート、ターゲット顔認証、ビルや家屋の部屋の中の飛行、攻撃の遂行ができるようになってきている。サイズもさまざまだ。数センチから数メートルのものがある。
 形状は、ヘリ、飛行機、トラック、戦車、スピードボート、戦艦、潜水艦、人型ロボットなどがある。移動スピードが速いものもあり、超音速戦闘機もある。圧力に耐えて、水中に潜り、深水にも移動可能なものもある。
 攻撃様式には、自爆式や、マシンガン装着式、爆弾搭載式のものもある。これらは、自律型と遠隔操作型の両方のモードを備えている。ある攻撃が人間のオペレーターによって行われたかどうかを知ることは困難であるので、軍事責任の所在が不明瞭ともなる。
 AI式自律型兵器は、火薬や核兵器の開発に続く「第3の兵器革命」とも呼ばれるようにもなった。これらは、それ自身が自律しており、電子通信が不可能な状況でも機能するので、電波妨害にも耐えることもできる。
 ウクライナ戦争で使われた最新のAI式自律型兵器による攻撃では、民間人の死者も膨大な数となっている。弾圧、内戦、テロなどの不規則な目的を持ったグループによって頻繁に使われるなら、民間人の犠牲を減らすためのアルゴリズム導入への優先性はなくなる。
 これらの殺傷兵器が紛争や戦争で当たり前に使われるようになると、大量殺戮による人類生存への脅威になりうる。危険な世界になる前に国際社会はこれを禁止する条約を締結すべきである。
Environmental危機
 最後は環境Environmental危機だ。沖縄に住んでいる私は、台風が来て停電し、電気が使えなくなることを何十回も経験していた。2023年には非常に強力で大きい台風が襲った。風速50メートル以上の暴風雨が吹いたことで、無数の倒木が発生した。
 このような強力な台風が日本を襲うことが最近頻繁になったが、今後その可能性はますます増えていくだろう。近年の巨大台風襲撃の根本原因は地球温暖化だからだ。
 台風による暴風雨、洪水、そして土砂崩れによる被害は確実に増えていく。また、熱帯地域のスコールのようなゲリラ豪雨や突風、竜巻に襲われることが多くなる。2023年は日本を含む世界各地の気温が40度を超えた。
 最近の国際機関のデータによると、温暖化ペースが予想以上に進んでいることがわかった。石油・石炭などの化石燃料を太陽光・風力のクリーン発電に切り替えること、畜産を減らすこと、ガソリン車は電気自動車に切り替えることが求められる。それができずに、この温暖化ペースが続くと、今世紀中に、島や海岸に住む何億人もの人々が難民となり、内陸へ移動せざるをえなくなる。
 加えて、温暖化による干ばつでの農作物不足と魚介類の死滅による食糧危機が深刻となり、資源の奪い合いや国境での紛争や戦争が起こる。また、大規模森林火災が地球規模で頻繁に起こっている。
 これにより、微粒子汚染が拡大し、心臓や肺の病気、認知機能の低下、うつ病、妊婦の早産等を引き起こしている。温暖化を予防することは山火事の予防にもなる。温暖化対策も加速すべきだ。

 私が診断したこれらのABCDE脅威に対して、われわれ医療者ができる行動は何か? それには処方箋がある。次の保険医協会での機会にこの処方箋の中身を紹介するので、しばし待たれたい(※)。


(10月29日、第32回日常診療経験交流会特別講演より)
※(編集部注:特別講演の詳報パンフレットを近日発行予定です)


図1 沖縄県の有機フッ素化合物(PFAS)汚染状況
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図2 米軍無人偵察機が嘉手納基地に配備されている
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