医科2023.11.04 講演
[保険診療のてびき]
2型糖尿病治療薬の展開~注射薬を中心に~
(2023年11月4日)
神戸大学大学院医学研究科総合内科学 診療科長 医学教育学分野 特命教授 坂口 一彦先生講演
GLP-1受容体作動薬
2022年日本糖尿病学会は2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズムを発表した。その中で、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬とならんでadditional benefitを考慮するべき併存疾患がある場合に使用を考慮する、という位置付けにある。これは特にGLP-1受容体作動薬においては動脈硬化性疾患のイベント発症率が少ないことが、大規模臨床試験のメタ解析でも証明されているからである(図1・2)。
このように、インクレチン関連薬のなかでもGLP-1受容体作動薬は日常臨床での使用頻度も増えつつある。一方、もう一つのインクレチンであるGIPに関しては、グルカゴンホルモンを増やす、脂肪の増加すなわち肥満を助長するなど、糖尿病に対してはむしろ好ましくない作用が報告され、インスリン分泌促進作用はあるものの治療薬にはならないのではないかと捉えられていた。
糖尿病治療薬Tirzepatideの作用
しかしながらpeptide engineeringでGIPの化学構造の中に、Extendin(GLP-1受容体作動物質)の配列を組み込み、結果的には一つの分子でありながら、GLP-1受容体にもGIP受容体にもいずれにも結合するUnimolecular CoagonistであるTirzepatide(商品名:マンジャロ)が開発された(図3)。Tirzepatideは、2型糖尿病患者さんの治療薬であり、1週間に1回皮下注射する製剤で、用いられる注射デバイスは、Dulaglutide(商品名:トルリシティ)の注射デバイスと同じくアテオスである。
GIPは上述のように生理学的量では脂肪蓄積を助長する働きもあるが、Tirzepatideにおいては薬理量のGIP作用をもたらし、食欲抑制を介してむしろ強力な体重減少作用を認める。またGIPは高血糖状態においてはブドウ糖応答性のインスリン分泌増強作用は弱いが、Coagonistにすることで血糖が高い時にはGLP-1作用でインスリン分泌を促進することで血糖を下げ、血糖が改善するとGIPのインクレチン作用も改善し、GIP作用もインスリン分泌を増強することになり、強力な血糖降下作用を発揮する。1日血糖で評価すると、低いレベルでの血糖の平坦化をもたらすこととなる(図4)。
また、Tirzepatideにおいてはグルカゴン分泌は抑制されると報告されている。日本人を対象とする臨床試験において、Tirzepatideは常用量のDulaglutideを上回る血糖降下作用、体重減少作用を認めた(図5・6)。海外の臨床試験ではSemaglutide (本邦における商品名:オゼンピック)1㎎/weekよりも優れた血糖降下作用、体重減少作用を認めた(図7)。
作用メカニズムとして、インスリン感受性改善を示唆するデータがあり、脂肪機能を改善することでadipocytokineの改善などのメカニズムが想定されている。
(2023年11月4日、薬科部研究会より)