医科2024.01.27 講演
[保険診療のてびき]
ポイントで解説 喘息の薬物療法をマスターする
(2024年1月27日)
神戸大学医学部附属病院 呼吸器内科 講師 永野 達也先生講演
喘息患者は日本全国に約1000万人いるとされる。吸入ステロイド(ICS)と長時間作用型気管支拡張剤(LABA)の吸入合剤による喘息治療は喘息のコントロールを劇的に改善した。しかし、喘息の5~10%の患者は吸入合剤による治療にも反応が乏しく、重症喘息と言われる。吸入抗コリン薬(LAMA)を含めた3剤の吸入合剤が、近年上市され、重症喘息に著効例が現れるようになり、喘息治療は新時代を迎えた。本稿では、喘息の薬物療法をいくつかのポイントを示しながら、紹介していく。一般社団法人日本アレルギー学会の喘息予防・管理ガイドライン2021によれば、喘息の管理目標は「Ⅰ.症状のコントロール(増悪や喘息症状がない状態を保つ)」と「Ⅱ.将来のリスク回避」とされている。
ポイント① 症状を取るだけでなく、将来喘息で死なないようにすることが治療の目標である
また、喘息の治療はICSを基本として治療をステップアップさせていくことが推奨されており、治療ステップ2ではICS/LABAの吸入配合剤、治療ステップ3以上ではICS/LABA/LAMAの吸入配合剤が考慮される。最重症のステップ4では生物学的製剤を考慮し、副作用が少量でも認められる経口ステロイドを使用することを極力控える。ここで、治療をステップアップさせる際に、喘息の診断、吸入アドヒアランス、増悪因子や合併疾患について今一度、確認し対応することが重要である。
ポイント② 治療のステップアップの前にもう一度アドヒアランスと吸入手技を確かめる
吸入デバイスにはスプレー式のエアータイプと、粉を吸い込むドライパウダーがあり、患者に応じて使い分ける必要がある。
ポイント③ エアータイプが良いのは、吸う力が弱い女性と高齢者、さらに粉でむせる人、デバイスの操作が難しい人、嗄声になりやすい人
吸入ステロイドを使用している際に日常診療でしばしば遭遇する嗄声に対しては、以下に挙げる工夫により、ある程度の予防が期待できる。
ポイント④ 嗄声を防ぐためには、①うがいをする、②ホー呼吸、③吸入前に口を湿らせておく、④エアータイプに変える
喘息やCOPDに目覚ましい効果をもたらしたLAMAには、迷走神経や上皮から分泌されるアセチルコリンが、平滑筋のムスカリン受容体に結合して平滑筋が収縮するのを防ぐほか、上皮細胞の受容体に結合して粘液が産生されるのを防ぐ、炎症細胞に結合して炎症を起こさせるのを防ぐ作用がある。
ポイント⑤ LAMAは、平滑筋の弛緩、喀痰の減少効果、抗炎症効果を有する
ICS/LABA/LAMAには、IRIDIUM試験で早い呼吸機能の改善効果を示したエナジアと、CAPTAIN試験で同じく呼吸機能の改善効果を示したテリルジーの2剤がある。どちらもドライパウダー製剤に分類される。
ポイント⑥ エナジアは効き目が早く、呼吸機能を改善し、増悪も減らす
ポイント⑦ テリルジーも効き目が早く、呼吸機能を改善し、増悪も減らす
Busseらの報告によると、SITT(1製剤)の方がMITT(複数製剤)よりも継続率が有意に高いことが明らかになった(P<0.001, J Allergy Clin Immunol Pract. 2022 Nov;10(11):2904-2913)。即ち、ICS/LABA/LAMAの方が、ICS/LABAとLAMAを別に処方するより、継続率が高かった。
ポイント⑧ できるだけ吸入デバイスの数が少ない方が、継続率が高くなる
そして、上記の治療でも難治性の重症喘息患者に対して生物学的製剤を考慮する。Pavordらの報告をもとに臨床試験での生物学的製剤の有効性を表1にまとめる(表1、J Allergy Clin Immunol Pract. 2022 Feb;10(2):410-419)。
表1から明らかなように、生物学的製剤の有効性はほぼ横一線のため、付加価値で使い分けを考えていくのが合理的である。まず、薬価の面では、在宅自己注射がある製剤が患者負担を抑えることができ、適宜、高額療養費制度、付加給付制度、多数回該当、合算を利用する。
また、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に対するヌーカラや、好酸球性副鼻腔炎に対するデュピクセントなど、難病に適応のある生物学的製剤もある。この他、デュピクセントはアトピー性皮膚炎にも適応を有する(表2)。
ポイント⑨ 生物学的製剤の有効性はほぼ同じ。付加価値で使い分ける
ポイント⑩ 在宅注射は、自己負担を減らす重要な選択肢になる
以上、喘息の薬物療法のポイントを述べてきた。症状に困られている患者さん、先生方の診療の一助になれば幸甚である。
(2024年1月27日、薬科部研究会より)