医科2024.02.29 講演
[保険診療のてびき]
「医療者が知っておくべきLGBTQs(性的マイノリティ)の知識」㊥(2024年2月29日)
一般社団法人 にじいろドクターズ代表理事 坂井 雄貴先生講演
(前号からのつづき)医療現場での実践
実際に医療現場でLGBTQの方たちへの配慮、あるいは関わり方はどのようにしていけばいいのでしょうか? いくつかの具体例を示します。①LGBTQの利用者をケアするというサインを出す(推奨1)
例えば、性のあり方についての相談窓口のポスター(地域のNPOや自治体が運営していることがあるため、ぜひ調べていただきたいです)を院内に掲示したり、チラシを情報資材として置いておいたりすることも良いでしょう。また、LGBTQの方たちへの支援・理解を示す6色の虹のモチーフを身につけることで、サポートしたいという姿勢を示すことができます。
また、「だれでもトイレ」のように、多目的トイレを必要な人がアクセスしやすいような表記にすることも重要です。身体に障害を持っている方はもちろんですが、妊婦やご高齢の方、ジェンダーの多様性も含めて、使いたい人が使ってもいいと示すことができます。表示を変更することは、様々な病院でもすぐにできるアクションなのではないかと思います。
②書類をLGBTQの方にも適したものとする(推奨2)
医療機関で使っている同意書、あるいは問診票の表現について、不要な性別欄がないかをぜひ見直していただきたいです。性別欄について男・女から選ぶのではなく、記述式にする、不要なものを削除する、確認する目的を併記するといった取り組みが望ましいです。
③コミュニケーションの中で適切な言葉を用いる(推奨3)
相手の家族、関係性、身体のことについて勝手に推測をしないことが重要です。「開かれた質問」を用いて質問をしてみましょう。
例えば、40代くらいの男性の方に「奥さん/お子様はいらっしゃいますか?」と質問してしまうことがあるかもしれません。その方は独身かもしれませんし、身体的に子どもが持てない事情があるかもしれませんし、あるいは同性のパートナーがいるかもしれません。関係性や家族について決めつけることは、信頼を失い、コミュニケーションを阻害する要因となります。「ご家族についてお伺いしてもいいですか?」「ご同居されている方はいらっしゃいますか?」など相手の関係性や状況を決めつけないような質問をするということが非常に重要です。また、男性が2人で医療機関に来た時に、勝手に「お兄さんですか?」などと決めつけてはいけません。兄弟かもしれませんし、友人かもしれませんし、同性パートナーかもしれません。決めつけられると、医療者に「実は同性パートナーです」とはなかなか言い出せないでしょう。
あるいは、「夫・妻」のような表現についても、本人が使わない限り使わないことも重要です。まず「パートナーの方」「配偶者の方」「お連れ合いの方」のようなジェンダーニュートラルな表現を用いて、ご本人の使う言葉に合わせて切り替えていくのがよいでしょう。トランスジェンダーの方は戸籍名を呼ばれることに抵抗を感じる方がいらっしゃるので、番号や通称名を使えるような環境を作ることも重要です。
④多様な性のあり方を支持していることを表現する=「アライ」であることを伝える(推奨4)
"Ally"というのは英語で「同盟」という意味があり、LGBTQの方たちの支援者、味方であることを「アライ」と言います。「そんなに詳しいことまで分からないから、できない、不安だ」という風に思われる方もいるかもしれませんが、「関わりたい」「支援したい」という姿勢・態度こそが重要です。
⑤個人情報をどのように扱うか話し合う(推奨5)
性的指向や性自認に関する情報は非常にプライベートな情報であり、本人の同意なしに他者に共有しないことが重要です。医療上必要な場合はどのような情報が記録され、誰が見るような記録に書くか、事前に同意を得る必要があります。
医療者は、職務上患者さんから「カミングアウト」を受けることがあります。カミングアウトとは自身のセクシュアリティを他者に明かすことですが、皆さんがカミングアウトを受けた場合、患者さんが医療者として信頼しているということになります。カミングアウトを受けた場合の姿勢としては、最後まで耳を傾け、相手の話を遮ったり、本人の話を途中で決めつけないこと、その上で信頼をして話してくれたことに対して、感謝を伝えてほしいです。
その上で、アウティングをしないということも非常に重要です。アウティングとは、セクシュアリティについて当人の許可なく勝手に他の人に伝えてしまうことです。カンファレンスや休憩室で「あの患者さんは実はゲイで」などと雑談のように言ったり、冗談の対象にするといったことは残念ながら医療現場でも見かけることがあります。
繰り返しになりますが、セクシュアリティの情報は個人情報であり、絶対に本人の許可なく話してはいけません。実習に来る学生などにも丁寧に指導する必要があります。
⑥クリニカルバイアスを意識する
ここまでお伝えしているなかで、LGBTQに関してこれから関わりたい、サポートしたいという方もいれば、頭では理解しても感情的にネガティブに感じてしまうという方も、もしかしたらいるかもしれません。個々人がどのような感情を持つかは、それぞれが生まれ育ってきた環境や時間が様々に影響しており、それ自体は自然なことです。
重要なのは、医療者として患者さんに関わる、あるいは同僚として同じ働き手として関わる上で、医療者の個人の感情が患者さんにとっての医療や健康への障壁には決してなってはならないということです。個人の感情として抱く心情・感情と、医療者としてのプロフェッショナリズムは分けて考えること、性に関することに関わらず、自身がどんなことにネガティブな感情を抱きやすいかについて俯瞰的に振り返ったり、自身の癖を知っておくことも医療者として重要です。
(次号につづく)
(2024年2月29日、女性医師・歯科医師の会研究会より)
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