医科2024.02.29 講演
[保険診療のてびき]
「医療者が知っておくべきLGBTQs(性的マイノリティ)の知識」㊦(2024年2月29日)
一般社団法人 にじいろドクターズ代表理事 坂井 雄貴先生講演
(9月25日号からのつづき)社会制度・法律を知る
最後に社会制度、法律を通して、LGBTQの方たちが置かれている状況や、社会の視点からどのようにアクションしていけばいいかお話していきたいと思います。兵庫県では、2024年4月1日からパートナーシップ制度が始まりました。パートナーシップ制度とは、各自治体の公的機関で、福利厚生、公営住宅、医療機関での対応等に関して婚姻と同様の対応を受けられるもので、2023年6月時点で人口カバー率は日本の約7割を超えています。一方で、法的な保護がなく、医療機関でも公的機関であればある程度の対応が求められるものの、私立の病院・診療所に関しては守らなくても罰則や制限もなく、実際には広く知られていないのが現状です。
2023年6月、「LGBT理解増進法」がニュースとして多く取り扱われたことをご存知の方もいるかと思います。この条文には「性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」と明記されました。様々な議論がある法律ではありますが、日本の法律で、性的指向、ジェンダーアイデンティティが定義づけられ、尊重されるべきであり、差別はあってはならないと明記されたことは日本社会においても非常に大きな変化であると考えています。
ケースを通した実践
ケース:肺がんの化学療法で通院中の70代の女性が緩和ケアについて相談することになり、「同性のパートナーがいます。一緒に話を聞いてもいいでしょうか?」と言われました。みなさんはどのように対応しますか?医療福祉現場の非常に大きな課題として、同性パートナーが医療機関で「家族」としてみなされず、同意や病状説明、付き添いの許可を得られない場合が多いということがあります(図1)。医療機関の立場からすると、同性パートナーに話していいかわからないという迷い、戸惑いの声も聞かれます。
日本の看護部長の方を対象に行ったアンケートでは、面会、看取りの対応については2~3割の病院が親族・異性パートナーのみに制限しています。手術の同意に関しては、その割合は半分を超えています(図2)。
医療現場では慣例的に、配偶者、子ども、親のいずれかを探して見つからない場合、親族を探すというプロセスを多くの場合とっていて、認知症や意識不明で本人の意思を確認できない場合は特に慣例が重視されている現状があります。訴訟トラブルを避けたいという背景、あるいは同性パートナーに同意や告知をとっていいのか、という病院内でのルールがないことが原因としてあり、担当者の知識や裁量に任されているのが現状だと思います。
厚労省では人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインで、「患者の意思確認ができない場合、家族等の推定意思を尊重する」と示しており、家族等というのは「法的な意味での親族関係のみを示さず、より広い範囲の人、親しい友人等を含むし、複数人いてもいい」とされています。つまり、親族でなくてもキーパーソンとしてよい、と理解できます。そもそもどのような医療を受けるかどうかを決めるのは本人です。本人の意思が確認できない場合は、推定意思を尊重する、つまり「本人だったらどういう判断をするかを誰だったら決められるのか」ということです。推定意思として適切な人は血縁のある人の場合もあれば、同性パートナーの場合もあるでしょう。
今回のように、「自分の同性パートナーに話してください」という場合は、本人の意思が確認できているので、全く問題はありません。
難しいのは本人の意思が確認できない場合、この「推定意思」を考える必要があります。患者の付き添いの人が同性パートナーであると話している場合、その人が本人の意思を尊重できる人だと医療者が判断できれば、キーパーソンとすることはなんら問題はありません(図3)。
一方で、LGBTQの方たちが置かれている状況として、社会的に関係性を証明する方法が少なく、客観的な判断が難しいということが問題としてあります(法的な関係性のない異性パートナーの場合は、現場としてはあまり躊躇なくキーパーソンとする傾向があることを考えると、LGBTQの方たちが置かれている不平等な状況が理解いただけると思います)。医療機関としては、その人と同居していた事実を確認したり、自治体のパートナーシップ証明を用いるといった対応ができます。また、日々診療をされているかかりつけの先生方が、患者さんが同性パートナーがいること、その人をキーパーソンにしたいことを話していたら、診療録に記載しておくことで(当然同意を得た上で)、公的な関係性を証明する記録として用いることができます。このように、医療者がパートナーシップ制度を知り、また当事者が抱える現場レベルでの課題を知ることで、できることがたくさんあります。
LGBTQの方々は、様々な健康のリスクや社会的な課題を抱える中で生活をされています。同時に、共に社会で生きている人であることを忘れてはなりません。LGBTQの方たちが適切に医療にアクセスできる、あるいは結果として健康を享受できるために、私たち医療者が配慮したり工夫することは、医療の公平性を担保する、つまり結果として皆が健康を享受することであり、非常に重要なことです。
皆さんには医療従事者として、ぜひ「アライ」になっていただきたいと思います。全ての人が必要なケアを受けられるよう公平・平等なケアを提供することが、皆さんのプロフェッショナリズムだと私は信じています。
(2024年2月29日、女性医師・歯科医師の会研究会より)
「にじいろドクターズ」監修 書籍紹介
『医療者のためのLGBTQ講座』
総編集 吉田絵理子
編 集 針間克己、金久保祐介、久保田希、坂井雄貴、山下洋充
南山堂 2022年5月発行 定 価 3,300円(税込)
図1 同性パートナーにおける医療福祉現場の課題
図2 「LGBTの患者対応についての看護部長アンケート」報告書
図3 本人の意思を確認できない場合は?