医科2024.05.18 講演
食事性肝障害2024
[診内研より546] (2024年5月18日)
岡山市立市民病院 副院長 狩山 和也先生講演
脂肪肝になりやすい人の食生活
近年、ウイルス性肝疾患がないにもかかわらず、肝細胞癌(HCC)を発症する患者さん(NBNC-HCC)が増加傾向です。さらに、NBNC-HCC患者さんは適切なサーベイランスができていないため、発見時に進行癌として診断されることも多く、予後不良となる方も多々おられます。また、今までには見られなかったような若年におけるNBNC-HCC発症例も散見されます。このような状況から、なぜNBNC-HCCが発症するかを考えるようになりました。一方、2020年に始まったコロナ禍では多くのことが判明しました。栢孝文氏が書かれた『新型コロナ・発症した人しなかった人』では1万人の食生活を追跡し、AIによる解析結果から以下のように結論付けています。「新型コロナにかかりやすい人は①甘いもの・人工甘味料を摂取する人、②悪い油を多くとる人、③乳製品を多くとる人、④小麦製品を多くとる人、⑤添加物を多くとる人であり、逆にかかりにくかった人は、①食物繊維を多くとる人、②発酵食品を多くとる人、③ω-3脂肪酸(魚)を多くとる人であった」。これはそのまま脂肪肝になりやすい人となりにくい人に当てはまります。
leaky gut syndromeとは
肝臓は腸との関係を無視することはできません。腸管軸という言葉で示されているように、腸から吸収され門脈を介し肝臓に流入する各種物質が肝の状態に大きく影響します。脂肪肝とは単に肝臓に脂肪が沈着しているのではなく、肝臓が常にストレスにさらされていることを意味します。すなわち、腸から肝にストレスフルなものが流入し、肝障害をきたす、これこそが「leaky gut syndrome:漏れる腸症候群」です。leaky gut syndromeを引き起こす食品
前述の新型コロナになりやすい食品群は、そのままleaky gut syndromeをきたす食品と言えます。脂肪肝は質と量の問題で発生します。質的に脂肪肝を引き起こすものとして①砂糖(果糖)、②小麦、③乳製品、④悪い油、⑤添加物、そして、⑥抗菌薬やPPI/PCABなどの薬物があげられます。量的な問題の根本には「依存」が関与しています。砂糖は消化・吸収されるとブドウ糖と果糖に分かれます。果糖は開環率が高いため血中ですぐに鎖状になりケトン基を有するようになります。ケトン基はケト-エノール返還を経てアルデヒド基となります。すなわち、果糖はグリセルアルデヒドとして毒性を有するようになります。また、果糖はブドウ糖の2倍以上甘く、依存をきたしやすい一面も持っています。さらに、果糖はleaky gut syndromeの原因にもなります。
小麦に含まれるグルテン(グリアジン+グルテニン)は消化管内でグルテオモルフィン(グリアドーフィン)というモルヒネ類似の物質に変換されます。これが依存の原因となります。皆さんはパンが好きなのではなくて、パンに好きにさせられているのです。また、グルテンの成分のグリアジンは腸管上皮細胞の受容体に結合するとシグナルが伝わり、ゾヌリンというたんぱく質を分泌します。隣り合う腸管上皮細胞にゾヌリンが結合すると、腸管上皮細胞間のタイトジャンクションは乖離しleaky gut syndromeを引き起こします。健康な人であっても小麦摂取は、大小差はあれ、全ての人にleaky gut syndromeをきたし、健康を損ねる原因となります。
悪い油については植物油作成時にすでにヒドロキシノネナール(HNE)という毒物の産出が考えらえます。さらに、高温の揚げ物油はリノール酸の一部が変化してHNEに変わります。HNEはアルデヒド基を持ち、それ自体が毒であるとともに、leaky gut syndromeの原因となります。
乳製品、特に牛乳についてはカゼインの問題、乳糖の問題、カルシウム/マグネシウム比(牛乳中では11:1、血中では2:1)の問題があります。現代日本人の食事はマグネシウム不足が常態化しており、このため、牛乳を飲むと逆に骨粗しょう症悪化をきたすカルシウムパラドックスの問題があります。これを解消するためにはわかめ、あおさ、もずくなど海藻をはじめとするマグネシウムを多く含む食品を摂取する必要があります。さらに、牛乳のたんぱく質の約8割を占めるカゼインは、人間の消化管内では十分に消化しきれずleaky gut syndromeの原因となります。さらに、日本人は乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が少ないことも関与します。
食事の「質」と「量」を見直し
食品添加物に関して、日本は世界で最も多くの添加物が認められ、人は毎日気づかないうちに多くの添加物を摂取しています。一例として「乳化剤」という添加物が挙げられますが、チョコレートや各種スイーツのみならず、多くの加工食品に使用されています。ただし、乳化剤にも種類があり、天然のものと合成のものがあります。われわれ自身が肝臓で産生する胆汁酸も乳化剤の一種ですが、胆汁酸は回腸末端までで95%再吸収され大腸にはほとんど流入しません。天然の大豆レシチンや卵黄レシチンも同様です。一方、ポリソルベート80やカルボキシメチルセルロース(CMC)といった合成乳化剤は小腸で吸収されず、大腸まで流入することで、大腸内の腸内細菌叢に影響を与えleaky gut syndromeをきたします。乳化剤が引きおこす疾患として、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、代謝障害関連肝疾患、結腸癌など多々報告があります。
これら食品中の「毒」を減らすとともに、「毒」の解毒力を上げることが健康に生きる秘訣となります。
毎日の食事における「質」と「量」をしっかり見直し、各種疾患予防、ひいては発癌予防に繋げていくことが肝要です。
(5月18日、第609回診療内容向上研究会より)