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学術・研究

医科2024.08.24 講演

乾癬の鑑別と治療法
[診内研より549] (2024年8月24日)

西宮市・佐野皮膚科 院長 佐野 栄紀先生講演

はじめに
 乾癬は炎症性角化症で、おもに中年以降に発症する慢性皮膚疾患である。本邦では40万人以上が罹患し(人口比0.4%)、決して希な疾患ではない。体中どこにでも生じる分厚い鱗屑をつける紅斑であり診断は比較的容易である。しかし、ときに皮膚科専門医でも誤診する「乾癬様の」皮膚疾患があり、鑑別が必要である。
 基本的な治療法としては外用療法と光線療法であるが、近年、重症例や難治例には生物学的製剤やシグナル阻害薬などが使用されるようになった。この稿では、乾癬の鑑別疾患および日進月歩の治療法を紹介したい。
乾癬とは
①臨床症状と分類
 乾癬は、慢性の経過をとる炎症性角化症である。日本における疫学を表1に示す。分厚い鱗屑が付着する紅斑が特徴であるが、典型例は境界鮮明で、皮疹がない部分は正常皮膚である(図1)。爪や頭皮も冒されることがある。乾癬は以下のように病型分類されている。
・尋常性乾癬(およそ8割を占める。単に乾癬と呼称される場合が多い):体のどこにでも生じる、分厚い鱗屑が付着する紅斑であり、頭、爪なども侵すことがある(図1)。通常、湿疹皮膚炎群ほどのそう痒はない。掻爬など機械的刺激によって皮疹が新生することが多く、ケブネル現象と呼ばれる。鱗屑を剥がすと点状出血する(アウスピッツ現象)。
・乾癬性関節炎(15%):乾癬が先行し、手指足趾などの腫れや痛み、脊椎炎、仙腸関節炎を起こすこともある。付着部炎が本態。
・膿疱性乾癬:熱発、白血球増多など全身性炎症を伴って広範囲に紅斑および小膿疱が出現する重症型。汎発性膿疱性乾癬にはIL-36RN遺伝子変異が見つかることがある。
・滴状乾癬:比較的若年者に多く、細菌性咽頭炎などに続発して起こる小型の角化性丘疹からなる撒布疹である(図2)。抗生剤や扁桃摘出で治癒することも多い。
・乾癬性紅皮症:乾癬の皮疹が全身性に拡大、8割以上の皮膚が侵された状態。
②発症機序
 病理組織の特徴は、表皮の分化異常をともなった著明な肥厚と角層増殖、表皮内への好中球侵入、T細胞や樹状細胞など免疫系細胞の浸潤、毛細血管新生と拡張である。生来の遺伝的要因、それに薬剤や肥満など環境因子などが複合的に関与した結果、表皮?免疫系の病的クロストークが起こる。そこには、表皮炎症、自然免疫系賦活化、さらに獲得免疫、特にT細胞の活性化カスケードが重要な働きをしている(図3)。
鑑別診断(表2)
(1)悪性疾患:乾癬と同様、鱗屑性紅斑であるボーエン病は表皮内癌であり、単発性であるがしばしば乾癬と誤診される。また皮膚のT細胞リンパ腫の菌状息肉症も扁平浸潤期においては乾癬と酷似することがある。
(2)他の炎症性角化症:斑状(局面状)類乾癬、ジベルばら色粃糠疹、扁平苔癬
(3)湿疹・皮膚炎群:脂漏性皮膚炎は病初期の乾癬と区別が困難である場合がある。貨幣状湿疹、アトピー性皮膚炎、その他慢性湿疹なども鑑別が必要である。
(4)白癬:体部白癬いわゆる「たむし」は紅斑の辺縁に環状鱗屑があり、環状の乾癬と鑑別が必要なことがある。白癬はそう痒が強く、白癬菌が検出できる。
(5)その他:DLE(円板状エリテマトーデス)も角化性の紅斑として鑑別すべき例もあるが、これは主に露光部に好発するため乾癬とは異なる。皮膚サルコイドーシスも表皮直下型のサルコイド結節がある場合に乾癬と鑑別が困難なことがある。薬疹やGVHD(移植片対宿主病)では全身に乾癬様の角化性紅斑がおこる場合があり、乾癬と共通する免疫変調状態を示唆している。
治療
 飯塚旭川医大名誉教授の提案による「乾癬治療のピラミッド計画」を図4に示す。乾癬の治療はステロイドあるいは活性型ビタミンD3外用を基本として、その上の階層に光線療法さらにレチドイドあるいはアプレミラスト内服のアドオンが推奨される。
 シクロスポリン内服療法を選択する場合、光線療法は併用できないことより、ピラミッドの山が2峰に分かれる。さらに重症度などを考慮して、最後の切り札としてバイオロジクス(生物学的製剤)あるいは抗JAK阻害薬が選択される。2010年以降適用されたバイオロジクスは、その劇的な効果によって従来の乾癬治療にパラダイムシフトを起こしてきた(図5)。
 現在抗体のラインアップは10種を超え、標的はTNF、IL-23p19、IL-12/IL-23p40、IL-17A、IL-17RA、IL-17A/Fである。いずれも乾癬における炎症・免疫系サイトカインシグナルを遮断することにより効果を発揮する。
 さらに最近では細胞内サイトカインシグナルを阻害できるJAK阻害内服薬が登場した。バイオロジクスやJAK阻害薬は乾癬のみならず乾癬性関節炎にも有効であるものが多く、患者にとり利便性が高い。
おわりに
 乾癬の症状、鑑別疾患、そして治療法につきエッセンスを述べた。視診で乾癬と診断できることが多いが、菌状息肉症など悪性疾患との鑑別が必要な例もあり、生検による病理組織診断が必要となる。
 以前は、難治ゆえ「一生治らない」皮膚病、と言われていた乾癬が、現在では多くの新規の治療法によってほぼ完全にコントロール可能となっている。拙稿が先生方の日常臨床に少しでもお役に立てれば幸いである。

(8月24日、第612回診療内容向上研究会より)


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