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学術・研究

医科2024.10.19 講演

皮疹が出る感染症とその周辺
[診内研より551] (2024年10月19日)

大阪大学医学部附属病院 感染制御部 感染症内科 山本 舜悟先生講演

なぜ皮疹の鑑別は難しいのでしょうか
 内科医にとって皮疹の鑑別は難しい問題です。系統だった教育を受けた人は必ずしも多くないせいか、皮疹を正確な用語で表現するのが難しいこと、皮疹を表現できても、そこから鑑別診断を挙げるのが難しいこと、アトラスと照らし合わせて似ているか似ていないかを比べるくらいになりがちかもしれません。松田光弘先生の『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(医学書院 2021)はとてもお薦めの入門書です。
 これによると、皮疹の表面性状から病変の深さがわかり、病因が推測できます。表面がザラザラの紅斑であれば表皮の病変として、?①湿疹、②感染症、③悪性腫瘍、④その他の炎症性皮膚疾患(炎症性角化症)を考えます。表面がツルツルの紅斑であれば、真皮の病変として、①薬疹、②感染症、③膠原病(自己免疫疾患/自己炎症疾患)を考えます。ただ、皮疹だけ見ていても、原因は必ずしもわかりません。病因や病態が異なっても、皮疹を作る生体反応は同じになり、表現型で区別することが難しいからです。
「中毒疹」とは
 「中毒疹」という用語があります。英語の教科書にはあまり出てこない表現で、今ひとつどういった病態なのかがわかりにくいものです。松田先生の著書によれば、中毒疹とは、「体外より体内に入った物質、あるいは生体内で産生された物質により誘発される反応性の皮疹」のことだそうです。要は見た目で鑑別できない内因性の皮疹をまとめて「中毒疹」と呼ぶようです。そう、見た目だけでは鑑別が困難なのです。そこで、これらの鑑別のために病歴や皮膚以外の症状、所見が大事になるわけで、ここに内科医でも皮疹を伴う感染症に対応する意義があると思います。
皮疹の鑑別診断の考え方
 全身性の表面がツルツルした紅斑を見た時、真皮の病変を考えるのでした。皮疹に限らず、どのような病態もコモン(頻度が高いもの)とクリティカル(致死的なもの)から考えていきます。外来でみる急性の発疹なら感染症の頻度が圧倒的に高く、その他薬疹や膠原病によるものが頻度は低いながら鑑別に挙がります。入院中に起こる皮疹は、「入院中に新たに起こる問題は常に医原性(iatrogenic)から考える」という原則から、「薬疹」をまず考えたいです。
 クリティカルな発熱、皮疹の鑑別診断は、"SMARTTT"Killerという憶え方があります。
1. Sepsis:敗血症
2. Meningococcemia:髄膜炎菌菌血症
3. Acute endocarditis:急性心内膜炎(特に黄色ブドウ球菌)
4. Rickettsiosis:リケッチア感染症(つつが虫病、日本紅斑熱)
5. Toxic shock syndrome:トキシックショック症候群
6. TEN(Toxic Epidermal Necrolysis):中毒性表皮壊死融解症、その他の重症薬疹
7. Travel related infection:ウイルス性出血熱(エボラ、ラッサ、クリミアコンゴなど)
 また、緊急性のある皮疹かどうかの判断には、以下の項目を確認します。
・バイタルサインは安定しているか?
・粘膜病変(目、口、陰部)はないか?
・表皮剥離(皮膚びらん)はないか?
・最近の海外渡航歴は?
 どれか一つでも異常があれば、要注意です。
症例から見る皮疹が出る感染症
 次に、各論的に見ていきましょう。
 りんご病はパルボウイルスB19が起こす感染症です。免疫正常者では、25%が無症候性とされます。成人ではレース状皮疹が典型的ですが、関節痛を伴うことがあります。リウマトイド因子や抗核抗体が陽性、補体が低下することがあるため、関節リウマチやSLEの初発と間違えられることがあります。このフェーズは免疫反応によるものが主で、ウイルス血症は軽快していて、感染性はないと考えられます。ウイルス血症の時期に起こり得る発熱を伴う病態に、papular-purpuric "gloves-and-socks" syndrome(PPGSS)があります。手袋、靴下の領域に非血小板減少性紫斑が出現し、口腔内病変を伴いやすいのが特徴です。1~3週間で軽快することが普通です。パルボウイルスB19感染症を疑ったら、「最近、近くにりんご病のお子さんがいませんでしたか?」など確認することが大切です。一般の方でも「りんご病」の病名はよく知られているようで、結構な割合で、曝露歴を確認することができます。パルボウイルスB19のIgM抗体は、以前は妊婦のみ保険適用でしたが、2018年春から15歳以上の成人に適用になりました。
 輸入症例を中心に、時々、麻疹患者さんの発生がニュースになります。麻疹の潜伏期間は平均14日間(7~21日間)で、感染性を有する期間は発疹出現4日前から出現後4日間までとされます。カタル期には、咳嗽、鼻汁、結膜炎の三つ(3C)?Cough、Coryza(鼻風邪)、Conjunctivitisを伴います。発疹はカタル症状が2~3日続いた後、12~24時間解熱後に発熱と同時に出現するのが典型的です。顔面、耳の後ろから始まり、体幹、四肢へ広がります。皮疹のない前駆期に医療機関を受診すると、風邪と区別がつかないため、風邪だと思って投薬され、その後、皮疹が出現すると、薬疹かも?と誤診されかねません。昔は薬疹の表現として、麻疹様皮疹という言葉が用いられましたが、現在は頻度が逆転しているので、薬疹かな?と思ったら麻疹や風疹の可能性を少し頭の片隅に思い浮かべるとよいかもしれません。

 その他、講演では風疹や日本紅斑熱、つつがむし病、Capnocytophaga canimorsus菌血症、帯状疱疹、播種性帯状疱疹、梅毒、手足口病、薬剤性過敏症症候群(DIHS)、スティーブンス-ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症、急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)などの診断について概説しました。本紙面上では語り尽くせないことがありますので、もう少し学びたい方は拙著『かぜ診療マニュアル 第3版』(日本医事新報社)をご参照ください。

(2024年10月19日、第614回診療内容向上研究会より)

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