医科2024.11.16 講演
プライマリケア医として、脳梗塞診療を一通り学びなおそう!
[診内研より552] (2024年11月16日)
湘南鎌倉総合病院 脳神経内科 山本 大介先生講演
はじめに
このたびは講演の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございました。湘南鎌倉総合病院、脳神経内科の山本大介と申します。今回は、「プライマリケア医のための脳梗塞診療をゼロからマスターする2時間レクチャー」のタイトルでお話させていただきました。私の仕事における一つのテーマは、ややとっつきにくい脳神経内科診療を、プライマリケア領域に携わる方々に、より分かりやすく伝えていくことです。脳梗塞診療の指針となる脳卒中治療ガイドラインは2021年に改訂されています。時代とともに診療内容には変化があるわけですが、なかなかすべてのことを理解しながら知識をアップデートしていくことは困難です。今回のレクチャーは、急性期病院で行われた診療内容を、クリニックでどのように引き継いで行っていくか、また、急性期病院へ患者さんを紹介するときのポイントなどにフォーカスした内容でお話させていただきました。CareNeTVでのオンライン動画コンテンツとして、「内科的脳梗塞診療をゼロからマスターする!」という番組がございます。こちらのレクチャーを改変し、プライマリケアに携わるクリニックの先生方に役立つような内容でお話させていただきました。
脳梗塞二次予防における脂質異常症の治療
ここでは内容すべてのレビューはできませんので、脳梗塞の二次予防(脳梗塞発症後の再発予防)の内容について書かせていただきます。まずは脂質異常症からです。脳梗塞二次予防における脂質異常症への介入は言わずもがなですが重要です。高LDL血症につきましては、スタチンによる治療の有効性は十分なエビデンスがあります。the lower, the better. を合言葉に、患者さんの年齢、性別、治療前LDL値に関係なく、LDLコレステロール降下療法の有効性があります。ガイドラインでは、脳梗塞後のLDL治療目標値は100㎎/dLと示されています。また、冠動脈疾患の合併がある場合は、70㎎/dL以下を治療目標とします。これらの目標値は時代とともに変化があります。またいずれかでガイドラインが改訂される場合には変更があることが予想されますのでご留意ください。まずは、LDL値の具体的な降下目標を理解していただければと思います。
脳梗塞二次予防における中性脂肪の治療
中性脂肪に関しては、降下療法のエビデンスは限定的です。まずは、ライフスタイルの変更指導が重要です。中性脂肪については運動・食事療法によって改善が期待されます。脳梗塞後の症例ではスタチンが使用されることが多いですが、スタチン導入後も中性脂肪が高値である場合には、EPA製剤追加のエビデンスがあります。すなわち、エパデール®の使用が選択肢になることも知っておいてください。脳梗塞二次予防における高血圧症の治療
次いで高血圧症についてです。高血圧症の治療についても、ライフスタイルの変更は重要です。食事療法、運動習慣を作る、アルコール摂取の減量は治療的なアクションです。脳梗塞二次予防の血圧降下目標は130/80mmHg以下です。比較的低い目標値ですよね。LDL値同様、このような治療目標は時代とともに変化があります。また、高度頸動脈狭窄症がある場合、主幹動脈閉塞がある場合、また血管系未評価の場合には、140/90mmHg以下を目標としてください。レクチャーにおいてもご質問いただきましたが、超高齢の患者さんにおいては血管系の未評価状態と同様と理解して、ここまでの厳格な降圧治療は不要であると考えます。
脳梗塞二次予防における糖尿病の治療
糖尿病の治療につきましては、目標となるHbA1Cの値はガイドラインでは示されていません。治療目標の目安は7.0%以下として対応してください。糖尿病は脳梗塞発症リスクを2倍にします。糖尿病治療は脳梗塞予防に重要なことに異論はなく、患者さんに治療の必要性についてご説明してください。健康なライフスタイルを送るためのポイント
最後はライフスタイルについてです。最小限の説明がご自身でできるようになってください。喫煙については、言うまでもなく脳梗塞の強いリスクとして知られています。禁煙を強く推奨してください。電子タバコについて聞かれることもあると思いますが、こちらは低リスクである可能性はあるものの、現時点ではエビデンスに乏しく非推奨である、とガイドラインに記載されています。飲酒はどうでしょうか? 飲酒は体にいいかどうか?という問いの答えは、仕方ないですが「悪い」と答えるしかありません。少なくとも、大量飲酒は避けることが勧められています。
運動療法については、次のような要素を含んだものが推奨されます。①週の半分以上の実施、②低負荷の有酸素運動(ウォーキング・エアロバイクなど)、③最低10分以上、これら条件を満たす運動の実施を説明してください。私は、「30分の早歩きのウォーキングを週半分以上できるといいですね」と説明しています。これは認知症予防の話題においても同様の説明でよいです。脳梗塞の予防、認知症の予防における運動療法の有用性について、異論はありません。具体的な運動の推奨を患者さんに説明してください。
食事についてですが、摂取を減らすべきものは、肉・アルコール・菓子・砂糖入りの飲み物などがあげられます。摂取を増やすべきものは、野菜・果物・鶏肉・魚・豆類・植物油・ナッツ類・低脂肪乳製品などです。私はシンプルに、「食事はバランスよく摂取する、肉より魚を食べましょう、野菜・果物を意識して多く摂取しましょう」と説明しています。
終わりに
さて、ここで記載させていただいた内容は基本的な内容です。最低限、この内容はしっかり押さえていただき、患者さんにご自身の言葉で説明できるようになってください。そして、「これら脳梗塞の原因リスクにすべて介入すると、脳梗塞の再発リスクを80%軽減できる」という研究もあります。患者さんの治療意欲を高めながら、脳梗塞の再発予防をぜひ語れるようになっていただければと思います。拙著の紹介で大変恐縮でございますが、『みんなの脳神経内科ver.2』(中外医学社)では、平易に脳神経内科診療をプライマリケアの先生にも届けたい、というコンセプトで書かせていただいております。またお手に取っていただければ幸いでございます。また講演の機会を頂ければ幸甚でございます。(2024年11月16日、第615回診療内容向上研究会より)