歯科2011.01.05 講演
成長を理解して口腔の健康を考える [歯科定例研究会より]
東北大学歯学部臨床教授・いさはい歯科医院 佐藤 亨至先生講演
全身の成長の理解が必要
成長期にある子どもに対して、咬合誘導や矯正歯科治療を適用しようとする場合は、歯列の土台となっている顎顔面骨に生じる成長現象を知る必要があることは言うまでもない。
しかしその前に、まずは全身の成長から理解しなければならない。特に、思春期のタイミングや成長量のバリエーションが大きいことから、個体の成長を意味する「個成長」の客観的評価が重要となる。これは、日本人という集団に見られる「平均成長」との比較によって明確になるものであり、したがって、平均成長についての正しい理解も必要である。
平均成長では、評価の基準軸が「暦年齢」であるのに対して、個成長の基準軸は「生理的年齢」となる。生理的年齢の代表的なものが、骨年齢である。
本講演では、楽しみながら成長を理解するために、すべてクイズ形式にして進めた。全身成長に関する基本編と、顔面と口腔に関する応用編に分け、合計25問とした。
日本人と欧米人の全身成長の違い
全身成長に関する基本編の中から、一問だけを例としてここに紹介する。
質問「日本人と欧米人の全身成長はどのように違うのでしょうか?」(表1)。
解答肢は三択となっているので、A・B・Cから一つ選択することになる。A「日本人は早熟である」、B「日本人はおくて(晩熟)である」、C「日本人は思春期が長い」(表2)。
本問の答えは、A「日本人は早熟」となる(表3)。日本人は欧米人と比較して、男女ともほぼ1年成熟が早いことが知られている。身長増加速度曲線を欧米人(この例では英国人)と比較することによって、日本人の成長の特徴を理解することができる。身長の増加速度のピーク(PHV:peak height velocity)は、日本人が約1年も早いことがわかる(図1)。
さらに、身長増加曲線で比較してみると、思春期の増加ピーク前では日本人も英国人も体格にはほとんど差がない。しかし、日本人は早熟なため増加ピークを過ぎて急に身長の増加が止まりだすのに対して、英国人は晩熟なために身長がぐんぐんと伸び出して日本人と大きな体格差となってしまう(図2)。
すなわち、日本人は欧米人より早熟なために早く身長の増加が止まってしまって平均的に低身長になると考えられる。しかし、思春期の長さ自体はほとんど変わらず、日本人は欧米人より思春期が1年早く始まり、1年早く終わる。
なお、日本人の身長の増加速度のピークは男子が13.0歳、女子が11.0歳なので、男女の差がちょうど2年である。女子は男子と比べて2年も早熟なので思春期が早く終了してしまい、平均的に低身長に終わるとも考えられる。
全身成長から顎顔面の成長と歯列の変化を予測
全身の成長を正しく理解することによって、顎顔面に発現する成長と歯列の変化を予測し、それをふまえて生涯にわたる口腔の健康維持のための効率良い咬合・口腔管理を行うことが、歯科臨床において重要となる。