歯科2011.04.05 講演
閉塞性睡眠時無呼吸症候群における口腔内装置治療(下) -医科・歯科の連携ー [歯科定例研究会より]
神戸市北区・井尻歯科クリニック院長 井尻 博和先生講演
(前号の続き)
著効した一症例
60歳男性、身長163㎝、体重68㎏、BMI25.6、神戸協同病院より紹介で来院。自宅の八王子市から、神戸市への単身赴任の、定年間際の患者であった。
PSG検査(2007/10/27)の結果は、AI:35.7、AHI:53.3、最低SpO2:75%で、当初CPAP治療を希望されて治療していた。
CPAP治療で、口が渇く、鼻が痛くなる、朝方に耳障り、自分で外してしまう、持ち運びにくい、ということで主治医と相談の上、OA(口腔内装置)治療を希望されて来院。
2008/10/10 OAの型採り(図1)。
2008/10/21 OAの作製・装着(開放型、図2)。
2008/11/15 聞き取り調査により、いびきほとんどなし。自宅の八王子市に戻られたときに、ふすま1枚隔てた隣で寝ている奥様の話では、いびきがほとんどないとのことだったので、OA評価のためのPSG検査を勧め、承諾を得た。
横から見た顔面写真を比較すると、OA装着前(図3)は顎舌骨筋が弛緩しているが、OA装着後(図4)は緊張しているのが分かる。
側方セファロレントゲン写真を比較すると、上気道の面積がOA装着前(図5)より、OA装着後(図6)の方が拡大しているのが分かる。
OA装着前後のPSG検査を比較すると、
AI:35.7→0.7
AHI:53.3→14.9
最低SpO2:75%→88%
という結果であった。無呼吸指数は劇的に減り、無呼吸低呼吸数は15以下に減り、最低酸素飽和度は上昇している。
酸素飽和度において、OA装着前は90%以下の状態がかなりみられるが、装着後ではほとんど90%以上を保っている(図7)。
心拍数において、OA装着前は1分間に80を超えることが多いが、装着後では80以下を保っている(図8)。
いびきに関して、OA装着前と装着後では劇的に減っている(図9)。
睡眠ステージにおいて、OA装着前は就寝直後に寝付けてなく、時間が経ってからノンレム睡眠からレム睡眠に至る正常なサイクルが一度だけみられるが、装着後は就寝直後にすぐに正常なサイクルがみられ、全体では2回認められる(図10)。
睡眠効率において、OA装着前は71.2%が、装着後は84.1%に改善している。
医科・歯科の連携
保険適応でOAを作製するには、PSG検査結果と紹介状が必要で、PSG検査結果において厚労省の診断基準では、AI≧5をSASとしている。したがって、それ以外では原則的に自費となる。
日本睡眠学会の診断基準では、AHI≧15またはAHI≧5で症状がある場合をSASとしており見解の相違があるので、混乱を避けるためにも早期の統一をはかることが望まれる。
いびきが軽減した場合は、可能な限りOA評価のための簡易SpO2検査か、PSG検査を受けていただくことが重要である。いびきが軽減したときの患者の喜び(特にベッドパートナー)は大きいので、そのまま紹介先の病院を再受診しなくなることもあるが、無呼吸、低呼吸が軽減したかどうかは、検査をしてみないと分からない。
当クリニックでは、紹介いただいた医療機関とできるだけ多くの情報を共有することを心がけている。特に100人を超える患者を紹介してもらっている神戸協同病院とは、担当の医師だけではなく臨床工学士とも、すべての紹介患者情報を共有しているので、いびきが軽減してOAの評価のための検査も速やかに行われている。
おわりに
SASにおけるOA治療に関して、AHIが15以下でAHIの変化率が50%以下を著効とするならば、半分以上の方で効果が出ている。その判断に基づくと、中等症から重症度までのCPAP治療が必要なSAS患者の半分近くは、OA治療での対応が可能と考える。
一方で、OAの装着に適応できないためか、AHIが軽減していても睡眠構築が悪く、睡眠効率があまり改善せず覚醒反応が多いケースも見られる。
患者のQOLにおいては、AHIの軽減だけで判断することなく、総合的に診断することも重要であろう。