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学術・研究

歯科2011.11.05 講演

歯科定例研究会より 「予防力」を強化するプロケアの新コンセプト

東京都港区・高輪歯科DCC院長 加藤 正治先生講演

はじめに

 これまでプロケアやメンテナンスといえば、「どのように汚れを落とすか」「傷を付けないようにするにはどうしたらよいか」が話題の中心であった。しかし、プロケアの目指すべき目標は、その先にあると考えられる。
 近年、オーダーメイド医療という言葉が浸透し、歯科においても、個々の口腔に応じたオーダーメイドのプロケアが提唱されるようになってきた。しかし、現実には、どの患者に対しても同じ内容のケアを、毎回繰り返している現場も少なくない。
 そもそも、オーダーメイド医療とは、Personalized Medicineと表され、個性に応じた個別対応の医療を指している。
 今日の歯科医療においては、われわれ医療従事者が様々な視点で、患者の個性を踏まえたケアを提案していく必要がある。患者の個性を特徴付ける要素としては、表1のようなものがある。

1.臨床検査の有効活用

 細菌をターゲットにするためには、見えない相手を見えるようにすることが必要である。位相差顕微鏡は、興味深い動画をわれわれに提示してくれるツールとして有効活用したい。しかし、T.d菌のようにわかりやすい運動性菌や運動性桿菌は確認できるが、P.g菌のような非運動性菌は顕微鏡では確認できない。
 一方、唾液やポケット内から検体を採取する歯周病関連細菌数検査は、P.g菌をはじめとするRed Complex構成菌の定量に利用することができる。
 また、宿主反応を知る手がかりとして、指尖採血による血漿抗体価検査の数値もマークしていくことで、真の意味での予防が実践できると考えている。検査の結果、除菌が必要な症例には、表2に示すようにドラッグリテーナーを用いた除菌法が効果的である。

2.エナメル質のプロフェッショナルケア

 エナメル質のプロフェッショナルケアで目指すべき目標は、研磨ではなく、修復であると考えている。歯面が修復されるためには、あくまで非侵襲的に再石灰化や再結晶化を促進するような手法が理想である。
 表面性状が改善すれば、ステインやバイオフィルムのコントロールも容易になるであろう。また、初期脱灰病変は健全歯質へと回復するであろう。当院では、歯面研磨から歯面修復へ転換し、「削る」から「埋める」方向性を目指したケアを総称してナノケアと呼んでいる。
 ナノケアの第1ステップは、効果を邪魔するものを取り除くことである。具体的には、手用ブラシ類、プラスチックキュレット、さらに振動の力を利用する音波ブラシ等で汚染物質の厚みを減じるようにする。究極の有機系汚染物質溶解剤は、次亜塩素酸ナトリウムである。しかし、周知の通り10%ともなると、その扱いには細心の注意が必要である。
 クラレメディカル社製のADゲルは、増粘剤の添加で白色のゲル状を呈しているため、歯面に塗布しても垂れず識別しやすいため、液体よりは安全に使用できる。ただし、添付文書に記載のない使用法にあたるため、使用の際は歯科医師の判断のもと十分に注意すべきである。
 ナノケアにおいて第2のステップは、ナノレベルの粒子配合ペーストを作用させることである。サンギ社製リナメルは数十ナノレベルのハイドロキシアパタイト製剤で、研磨剤は無配合となっており、もともとPMTCの最終仕上げに用いることがうたわれているが、有機質溶解処理と併用することで歯面修復材としての効果が期待できる。

3.POs-Caの有効利用

 ナノハイドロキシアパタイトによる充填効果をより確実なものにするためには、カルシウム成分を含有するガムの摂取が効果的である。特に結晶、粒子間への浸透を考えた場合には、イオン化して唾液中に溶出してくるものが有利と考えている。
 POs-Ca配合ガムを摂取することは、唾液中にカルシウムイオンが増加することで再石灰化が促進し、そして、その再石灰化は単なるミネラル量の増加ではなく、健全歯質にきわめて近似したハイドロキシアパタイトの結晶となることが口腔内環境下で実証されている。

4.象牙質のプロフェッショナルケア

 象牙質は歯周治療やくさび状欠損、オーバーブラッシング等、様々な原因でセメント質を失って露出してくる。特に歯周治療後の根面露出はメンテナンスの対象部位として器具でふれる機会が多くなりがちであることから、その特性についてよく認識しておくことが必要である。
 クリーニングの流れで、やみくもに根面にダメージを与えることは避けたい。価値の高い根面ケアで目指すべきテーマは、ステイン沈着抑制、バイオフィルム付着抑制、根面齲蝕予防,知覚過敏抑制などである。
 露出根面象牙質の表層の有機質を除去し、ハイドロキシアパタイトを用いて象牙細管を封鎖してアパタイトリッチな表層に改質することができるならば、根面齲蝕、知覚過敏の抑制につながり、臨床的意義は大きい。

5.補綴材料の非侵襲的ケア

 PMTCの普及に伴い、その弊害が問題視されている。
 PMTC、特に研磨剤を用いて磨き上げる行為は、本来補綴材料に当てはめるべきではない。
 表面性状についていえば、ラボで鏡面研磨されて納められた技工物が、口腔内に装着されて補綴物となった瞬間が最高の状態であり、いかに維持していくかがメンテナンスのポイントになる。補綴物に傷をつけないケアを心がけることで、長期的な予後に差が出てくることは、十分に実感できることである。
 すでに荒れてしまっている補綴物表面に対しては、可能な限りの口腔内再研磨を施すことが必要となる。

おわりに

 今回取り上げたテーマは、エナメル質、象牙質、補綴物表面の微妙な変化である。個性を特徴付ける要素を考慮しながら、「観察力」と「判断力」をもって自己評価を繰り返し、予防の本質を追究していただけたら幸いである。

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