歯科2012.06.15 講演
保険診療のてびき ―657― 歯科用コーンビームCT画像を用いた下顎埋伏智歯根尖と下顎管との位置関係についての検討―パノラマX線写真と歯科用CT画像における比較(下)―
三田市・大槻歯科医院 大槻 榮人先生
共同研究 奈良県立医科大学口腔外科学講座 大阪歯科大学高齢者歯科学講座
(前号からのつづき)
下顎智歯抜歯は、日常頻繁に行われる処置でありながら、偶発症の多い処置でもある。抜歯に伴う下唇の感覚麻痺やしびれを予防するためには、十分な術前検討を行う必要がある。
埋伏している下顎智歯の位置や下顎管との関係について、通常パノラマX線写真が用いられる。しかし、パノラマX線写真は2次元データであり、しかも断層撮影のため、本当の立体的位置関係とは異なる場合も多く、十分な情報が得られにくい。
近年、歯科用コーンビームCT(CBCT)の普及に伴い、顎顔面領域でも立体的な高解像度の画像が得られるようになってきた。そこで、本研究ではパノラマX線写真で下顎智歯が下顎管に近接している症例に対し、CBCT検査を行い、両所見の関連性について検討したので報告する。
対象と年齢分布
研究対象は、2008年2月から2009年11月まで、当院を受診した患者さんのうち、パノラマX線写真で下顎智歯が下顎管に近接していると判断された症例で、CBCT検査を行った167例283歯である。
男性58例104歯、女性109例179歯で、左右側別の男女比は図1のとおり、平均年齢は29.7±11.1歳であった。患者の年齢分布は、20~29歳がもっとも多く153例、19歳までが34例、30~39歳が39例、40~49歳が32例、50~59歳が19例、60歳以上が6例であった。
下顎智歯と下顎管の位置関係
パノラマX線写真上で下顎智歯と下顎管の位置関係を詳しく調査するために、下顎智歯根尖と下顎管との距離について、天野らの報告に準じて分類した(6月5日付参照)。
図2に示すように、Ⅱbすなわち根尖が下顎管に重なっているが下顎管幅の2分の1以下のものが283歯中107歯、次いでⅡaの下顎管幅の2分の1以上重なっているものが81歯であった。智歯の根尖が、下顎管を超えて下方にあると判断されたⅠは22歯であった。
次に、下顎埋伏智歯抜歯の難易度との関連について調査した。図3に示すような吉増の分類の結果、Cが最も多く283例中123例、次いでBが89例、Dが43例であった。
パノラマ所見とCBCT所見の比較
パノラマX線写真は2次元のデータであり、パノラマ写真から智歯と下顎管との立体的位置関係は把握できない。そこで、コーンビームCT(CB MercuRay、日立製作所;CBCT)を撮影し、パノラマX線写真で得られる所見とCBCT所見との比較を行った。
下顎智歯と下顎管が完全に交叉しているⅠでは、パノラマ所見とCBCT所見は86.3%一致しており、両者が完全に離れているIVでも一致率は73.3%と高かった。しかし、下顎智歯と下顎管が接しているⅢでは、一致率は44.8%と低く、両者が交叉しているⅡa、Ⅱbでは58.0%、66.4%であった(図4)。
次に、パノラマX線写真上で重要な白線の有無について調べた。白線は、下顎管の管壁を映すもので、白線の消失は智歯と下顎管との近接を示す所見となる。これをCBCT所見と照らし合わせてみると、パノラマ写真上で白線消失と判断された172歯中118歯は、CBCT上でも智歯根尖と下顎管が接触していることが認められ、一致率は68.6%であった
。
しかし、パノラマで白線が確認できた111歯でも49歯は、CBCT上では根尖と下顎管は接触していると認められた(55.9%)。両者の所見についてx2検定を行うと、有意差が認められた。つまり、過半数はパノラマとCBCTの所見が一致するが、逆に半数近くはパノラマとCBCTの所見が異なることが明らかとなった(図5)。
まとめ
以上より、パノラマX線写真で得られる所見とCBCTで得られる所見に、有意な違いがあることが明らかとなった。CBCTを撮影することにより、パノラマX線写真ではわからない下顎智歯根尖と下顎管の立体的関係の所見を得ることができる。
下顎智歯の抜歯を行う前に、これらの所見を参考に患者に対しインフォームド・コンセントを行う必要があると思われた。