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学術・研究

歯科2014.09.05 講演

歯科定例研究会より シェーグレン症候群に対する唾液腺機能再生療法

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部口腔内科学分野 東  雅之先生講演

1760_6.jpg シェーグレン症候群(SS)は"ドライマウス"や"ドライアイ"などの乾燥症状を主徴候とする自己免疫疾患であり、閉経後の女性に圧倒的に多く発症することが広く知られている。本SSは致死的な疾患ではないため治療の緊急性・優先性は他の疾患、たとえば"がん"に比べるとはるかに低いと思われるが、本疾患患者自身にとれば、日常生活のQOLやADLの著しい低下が惹起されるため、根本的治療を求める声が多いのが現状である。しかしながら、その発症機構についての詳細は全く明らかにされていないため有効な治療法がなく、いわゆる対症療法を行っているのにすぎないのが現状である。
 従来よりわれわれは、本疾患の唾液腺病変の発症機構について研究を行っている。すなわち、アポトーシス(細胞死)細胞やα-フォドリンなどの臓器特異的自己抗原の成立により、唾液腺導管細胞周囲組織においてリンパ球の浸潤が開始される。そしてリンパ球から分泌されたTumor necrosis factor(TNF)-αやInterleukin(IL)-1βなどのサイトカインが唾液腺を構成する細胞のうち、腺房細胞においてのみ転写因子NF-κBを活性化させる。活性化されたNF-κBは、細胞の生存において極めて重要である基底膜を分解する酵素、Matrix metalloproteinase(MMP)-9を活性化させることにより、腺房細胞周囲の基底膜が分解される。これにより腺房細胞はアノイキス(細胞死)に陥り、腺房構造が消失し、唾液分泌低下が惹起されることになる。
 そして上記の唾液腺病変発症機構の作業仮説を、われわれは以下の研究結果から実証した。すなわち、培養ヒト唾液腺腺房細胞、導管細胞、筋上皮細胞をTNF-αにて処理した場合、腺房細胞においてのみNF-κBの活性化がみられ、同時にMMP-9の発現増強が確認された。そこで腺房細胞にNF-κBの恒常的抑制因子である変異型IκB-αcDNAを導入した遺伝子導入細胞を樹立したところ、導入細胞はTNF-αにて刺激してもMMP-9の活性化はみられず、良好な増殖を示した。
 さらに腺房細胞におけるTNF-αによるNF-κBの活性化を抑制する効果は、アルカロイド製剤やプロテアソーム阻害剤においてもみられ、特にアルカロイド製剤においてはTNF-αによるIκB-αの分解を低下させることにより、NF-κBの活性化を抑制することを報告した。そしてシェーグレン症候群モデルマウスを用いてアルカロイド製剤の治療効果を検討したところ、本製剤は腺房細胞のNF-κB活性とMMP-9産生を抑制する結果、基底膜の分解阻止に寄与し腺房構造が安定化されることを明らかにした。
 以上の基礎的研究成果に基づいてわれわれは2012年度より、徳島大学病院臨床研究倫理審査委員会の承認のもと、「シェーグレン症候群患者の唾液腺破壊阻止に対するセファランチンの有効性に関する臨床病理学的研究」を行っている。薬剤の効果に対する評価項目として、1)唾液分泌量、2)CRP値、3)赤沈値、4)抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体、5)口唇腺病理組織像、6)口腔乾燥感につき評価した。なお評価期間は服薬後3カ月とした。
 その結果、対象とした10症例について検討したところ、唾液分泌量については10例中9例に増加がみられた。CRP値、赤沈値、抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体については明らかな変化はみられなかった。しかし、口唇腺病理組織像においては写真1,2に示すように、明らかな腺房構造の回復傾向が確認された。現在症例数をさらに増やしながら臨床研究を継続して行っている。
 一方、正常ヒト唾液腺腺房細胞には水輸送膜蛋白であるアクアポリン(AQP)5の存在が確認されており、腺房細胞からの水分泌に重要な役割を果たしていることが明らかにされている。
 すでにわれわれは、唾液腺に浸潤したリンパ球から分泌されたTNF-αは腺房細胞におけるAQP5の発現低下を誘導することを明らかにしており、そのメカニズムとして、TNF-αはAQP5遺伝子プロモーター領域におけるヒストンH4を脱アセチル化することにより、AQP5遺伝子発現を抑制していることを報告した。
 さらに、AQP5遺伝子は加齢とともに遺伝子プロモーター領域においてメチル化が誘導され、AQP5遺伝子発現が抑制されることを明らかにした。そしてこのメチル化はDNA脱メチル化剤であるデシタビンでの処理により抑制され、遺伝子発現が増強することを報告した。
 このようなAQP5遺伝子のアセチル化とメチル化という遺伝子のエピジェネティク修飾によりAQP5遺伝子発現を増強させることが可能であることが示唆されたことから、今後AQP5遺伝子プロモーター領域におけるヒストンのアセチル化およびDNA脱メチル化を誘導する安全性の高い薬剤を開発することにより、将来シェーグレン症候群に対する新たな治療法の構築につながるものと期待される。
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