兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2015.04.19 講演

「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会 市民講座(4月19日)より
メディアに惑わされない食生活(上)
〜氾濫する食情報と宣伝広告の問題性を考える〜

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群馬大学名誉教授  高橋久仁子先生講演

1.はじめに
 健康に関連する食情報がマスメディアや産業界から大量に提供されてすでに久しい。虚実入り交じるこの種の情報は少なからぬ人々の食生活に影響を与え、時に食生活を混乱させる。
 過不足なく食べることの重要性を軽視する食情報の多くには、虚偽や誇張が入り交じる。食品や「健康食品」の宣伝広告文言にはある種の罠が仕掛けられている。このような状況をフードファディズムという概念で整理し、氾濫する食情報を適切に読み解くヒントにすることを提案したい。
2.横行するフードファディズム
 食べものや栄養が、健康や病気へ与える影響を過大に信じたり評価することを「フードファディズム(Food Faddism)」という。適正と過大の範囲を判断することは難しいが、体への好影響や悪影響をことさらに言い立てる論である。
 食生活と健康が密接に関わることは事実であるが、それは長い間の食生活の状況が長い時間をかけて健康状態に反映されていくことである。今日食べた、ある「体に良い(悪い)」食べものが、明日の健康をすぐに左右するわけではない。直ちに悪影響が生じるのは食中毒や有毒物の混入、あるいは食物アレルギーのような例外的な場合である。
 それにもかかわらず、それさえ食べれば健康が約束される「魔法の食品」や、逆にそれを食べると病気になる「悪魔の食品」があるかのような文言が横行している。フードファディズムはおよそ次のような三つのタイプに分けられる。
(1)健康への好影響をかたる食品の大流行
 「それ」さえ食べれ(飲め)ば万病解決、あるいは短期間で減量可能と吹聴される食品が大流行すること。
 過去約30数年を振り返ると「紅茶きのこ」(1975年頃)、「酢大豆」(88年頃)、「ココア」(96年頃)、「にがり」(03年頃)、「寒天」(05年夏)、「白インゲン豆」(06年5月)、「納豆」(07年1月)、「バナナ」(08年9月)、「トマトジュース」(12年2月)等があった。発祥や大流行に至る経緯は必ずしも明らかではないが、「寒天」「白インゲン豆」「納豆」「バナナ」は健康情報娯楽テレビ番組が、「トマトジュース」は学術論文のマスメディア報道がその発端となったことがはっきりしている。
(2)量の無視
 その食品に含まれる「有益・有害成分」の量には言及せず「○○に良い」「××に悪い」と主張すること。「これを食べると△△に良い」というマスメディア情報や「健康食品」産業界からの情報の多くが該当する。同時に食品中にごく微量存在する有害物質に関して、有害性を発揮するだけの量を摂取することはあり得ないにもかかわらず、健康への悪影響があるかのように言い募る情報も該当する。
(3)食品に対する期待や不安の扇動
 個人の状況を勘案せず、ある食品を体に悪いと敵視したり、別の食品を体に良いと推奨・万能薬視すること。極端に偏った特殊な食事法の推奨もある。「自然・天然」「植物性」は良いが「人工」「動物性」は悪いとの決めつけも見られる。したがって、農薬と化学肥料を使用した食品、精製度の高い食品(白砂糖、精製塩、精白小麦粉、精白米)、インスタント食品類、うま味調味料類、炭酸飲料などは目の敵にされる。一方、黒砂糖や蜂蜜、低温殺菌牛乳、"有精卵"の推奨も見られる。
3.マスメディアとフードファディズム
 健康を主なテーマとする「健康雑誌」の種類は多く、食品の効能・効果を満載した本や食に対する不安を煽る本が次々と出版される。「健康」を娯楽の材料とする健康情報娯楽テレビ番組も数多い。「売れる情報」には視聴者・読者の関心を引くために虚偽や誇張、事実誤認等のフードファディズムが多々紛れこむ。
 健康情報娯楽テレビ番組は内容に科学的裏づけがあるかのように印象づけるために学術論文をしばしば引用する。しかしながら元の論文と照合すると結果の一部分だけを強調していたり、結果の解釈に虚偽がある例は珍しくない。番組の構成に都合のよいことだけが利用・強調される。
 07年1月に「納豆で痩せる」という放送内容に捏造のあったことが発覚して「発掘! あるある大事典Ⅱ」という人気番組は終焉(しゅうえん)したが、健康情報娯楽テレビ番組の問題性はこれだけのことではない。
4.「健康食品」の問題性
 何らかの健康効果を期待し、経口摂取する製品を「健康食品」と総称している。そのうち医薬品を連想させる形態の製品を「栄養補助食品」「サプリメント」と呼び分けることもあるがなんの決まりもない。
 「健康食品」の"有益性"に関する情報は、科学的根拠の有無に関わらず産業界や宣伝広告を含めたメディアから大量に提供されている。しかし、"有害性"に関する情報に消費者が接する機会は乏しい。
 「健康食品」およびその宣伝広告が包含する問題性を、演者は次のような10項目に分類している。(1)有害物質の含有、(2)医薬品成分の含有、(3)一般的食品成分でも病態によっては有害、(4)抽出・濃縮・乾燥等による特定成分の大量摂取が問題を惹起、(5)高齢者の代謝に過剰な負担、(6)医薬品利用者での薬剤との相互作用、(7)食生活の改善を錯覚、(8)生活習慣見直し不要の錯覚、(9)治療効果の過信で医療を軽視、(10)非食品の食品化、である。この他、経済被害も無視できない。
 巧妙な宣伝広告は「ふつうの食事」だけでは「何か」が足りないかのように思い込ませ、健康維持に「健康食品」は欠かせないと、消費者の購買欲をそそる。しかし、「体に良かれ」との思いで摂取した「それ」が、実は「よけいなモノ」かもしれないのである。
 「健康食品」は有望市場とみなされ、食品業界も医薬品業界も熱いまなざしを注ぐ。そして「健康食品」で「健康が買える」かのような宣伝広告が巷を闊歩し、消費者の誤解・錯覚につけ込むが「健康食品」で健康は買えない。場合によっては不健康を買い込む。
 また、製品によっては「某国では医薬品」であることを「効果」の証のように宣伝する。しかしこれは、国によっては「医薬品」として扱う物質を、規格・基準も副作用注意もなく「健康食品」として使うのは危険、と受け止めた方がよい。
 食品はその味わいを楽しみ、何らかの形で健康に寄与するものである。保健機能だけが語られる製品を「食品」の範疇に含めると混乱が生ずる。
5.特定保健用食品(トクホ)の「効果」は限定的
 特定保健用食品(トクホ)は消費者庁の審査に合格した製品であり、許可された範囲内で保健効果を記載できる。従って「トクホである」ことはヒトを対象に行った実験で一定の「効果」があったことを意味するが、その「効果」は非常に小さい。医薬品ではなく食品だから当然である。
 「体脂肪が気になる方へ」と表示し、「腹部脂肪を減らす」とグラフ付きで宣伝する2商品、および「脂肪の吸収を抑える」と宣伝するトクホコーラ飲料の「効果」を紹介する。
(1)クロロゲン酸コーヒー飲料
 12週間にわたり継続飲用した結果、「おなかの脂肪が9.3㎝2低減」との線グラフを宣伝に使っている。被験者の平均腹部全脂肪面積は350㎝2とのことで脂肪の減少率は「9.3/350=0.0266」、すなわち2.7%。体重は75.8㎏が1.5㎏減少。
(2)ケルセチン配糖体飲料
 この飲料を継続飲用した結果、「8週目から体脂肪の低減が認められました。」とあり、減少を示す折れ線グラフは載っているが、飲用開始時の脂肪面積の記載がない。出典論文を読むと、飲用開始時の平均腹部脂肪面積は292.26㎝2で、8週目の変化量が「−10.58㎝2」であり「10.58/292.26=0.036」、すなわち減少率3.6%。「減少した」と宣伝のグラフでいいながら飲用開始時の面積を書かないのはお粗末である。体重は69.74㎏が0.14㎏減少。
(3)トクホコーラ飲料
 トクホのコーラ飲料が2012年、相次いで2商品発売され「脂肪の吸収を抑える」と派手に宣伝しているが、両商品とも難消化性デキストリンが5g添加されている。どの程度「脂肪の吸収を抑える」のか、根拠となった論文を読むと「糞便中の脂質の量が難消化性デキストリン15g入り飲料を飲んだ群では1.44g、飲まなかった群では0.77gで、この差は統計的に有意である」とのこと。しかし、コーラ1本中の難消化性デキストリンは5gである。「1.44-0.77=0.67」gの3分の1、すなわちたった0.22gの糞中脂質量が多いことを理由に「脂肪の吸収を抑える」と宣伝している。
 トクホの「効果」の小ささが消費者に伝えられていない。
(次号につづく)
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