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学術・研究

歯科2015.07.26 講演

歯科定例研究会より 矯正治療期間のコントロール

東京都中央区・銀座矯正歯科院長  深澤 真一先生講演

 矯正治療における患者の希望は、
(1)矯正装置を見えないようにしたい
(2)歯を抜きたくない
(3)矯正装置の装着期間を短くしたい
などがあります。
 ここ数年、矯正学は飛躍的に進歩して、これらの患者の希望に対応できる選択肢が増えました。
(1)装置を見えないようにしたい
→リンガル装置、透明マウスピースなど
(2)歯を抜きたくない
→アンカーインプラント、遠心移装置(GMD、カリエールなど)など
(3)装置の装着期間を短くしたい
→外科処置併用、レーザー、アクセルデントなどは矯正の教科書プロフィット著書のContemporary OrthodonticsのFifth editionにくわしく記載されています(図1)。
装着期間を短縮する方法
 今回は、この中の矯正装置の装着期間を短くしたいという患者の希望に対応する方法として、外科的な刺激について述べました。
 外科的な刺激の方法には
・Corticotomy・Osteotomy・Ostectomy
・Corticision・Piezocision
・Piezopuncture
などがあり、これらの外科処置を組み合わせることにより、矯正治療期間をコントロールしていきます。
 現在、世界的に最もポピュラーな外科法は、PAOO=AOO=WilckodonticsというCorticotomy変法ですが、私はこの方法ではなく、寿谷法Corticotomyを行っています。
 寿谷法Corticotomyと、PAOOとの違いは、Corticotomy後に骨移植をするかしないか、の違いです。私がなぜ寿谷法Corticotomyを併用しているかというと、私が寿谷先生に出会った1995年に先生は、寿谷法Corticotomy併用による矯正治療例を500例と、約20年以上の経過症例を持っていたこと、そして直接寿谷先生からご指導いただける環境にいたことからです。
寿谷法Corticotomy併用矯正
 寿谷法Corticotomy併用矯正の利点は寿谷の著書の中で以下のように述べております(図2)。
Corticotomy併用矯正の利点
Ⅰ 骨髄は完全に維持され、十分な血液補給が確保される。
Ⅱ 自家骨の増殖により骨移植は不要。
Ⅲ 歯槽基底部の水平的、垂直的移動の範囲の拡大。
Ⅳ 矯正力による疼痛、歯根吸収、後戻り、歯頸部歯肉退縮等の軽減。
Ⅴ 浸潤麻酔下で行われる処置で、そして特別な器材を必要としない。
Ⅵ 敏速な歯牙移動が可能。
 上記の利点について、19年間寿谷法Corticotomy併用矯正を行ってきた私の臨床経験と、これまで発表されている論文から検証すると、Ⅰについては問題ないと考えられます。
 Ⅱ、ⅢについてはWilckoらは、すべてのケースで骨移植を行うべきだと言っていますが、私の経験やニューヨーク大学のAlikhaniらの研究より、歯槽骨の増大を必要としないケースには必要がないと考えられます。
 Ⅳについては多くの論文で歯根吸収の軽減が述べられています。そしてその理由として、ヒアリナイゼーションの減少が今のところ有力です。後戻りの軽減については論文上では検討されておらず、私の経験から1年間しっかりと保定を行えば、安定する傾向にありました。
 Ⅴについても問題ないと思われます。しかし、最近ではピエゾサージェーリーという、軟組織は切れず骨硬組織のみ削合できる安全な骨切削装置を使用しています。
 Ⅵについては論文上、最も根拠がありました。そして私の経験からも術後3〜4カ月に著しく歯が動き、6カ月後までに徐々に減速しました。
 Ⅵの根拠におきましては論文上四つの仮説があります。
A 骨ブロックで移動
B Regional Acceleratory Phenomenon(RAP)
C サイントカインセオリー
D Systemic Acceleratory Phenomenon(SAP)
 Aの仮説については、Wilckoらは否定していますが、Chungらの圧迫骨短縮法から否定することはできないように思われます。また寿谷もこの仮説を支持していました。
 Bの仮説については1983年にFrostが提唱し、Wilckoらが2001年のRapid Orthodontics with Alveolar Reshapingの論文の中で引用し根拠としています(図3)。
 Cのサイントカインセオリーは、2013年のAlikhaniらのEffect of micro-osteoperforations on the rate of tooth movementの論文の中で取り上げられました。歯根膜の炎症によりサイトカインの分泌が促進され、そのことにより破骨細胞の増加が起きることから歯が速く動く、という仮説です。
 DのSAPは1991年にSchillingにより発表されたもので、骨折の治癒エリアから離れた部位でRAPによる骨芽細胞の活性の増加が報告されました。
 以上から外科的侵襲により歯が速く動くことは多くの論文からも証明され、私の臨床でも確認できました。しかし歯が速く動くメカニズムは、未だ分かっていません。
まとめ
 今回の講演の結論としましては、矯正治療期間のコントロールは、不正咬合の状態に対応した簡単ないくつかの外科処置により行うことができます。ただし外科処置を併用することにより歯の動きは促進されますが、治療期間のコントロールには術者の矯正学的技量が不可欠であると考えます。このことはVincent G Kokichも論文で同様の見解を述べています。
 最後に今後の展望として外科的刺激のみだけではなく物理的、化学的な刺激を加えることにより、より低侵襲でより確実に治療期間をコントロール(短縮)した矯正治療ができるようになるのではないかと考えています。
(7月26日講演より)

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