歯科2015.11.29 講演
歯科定例研究会より
医科歯科連携に必要なくすりの知識 おくすり手帳から全身状態を推知する(上)
医療法人 明和病院 歯科口腔外科 部長 末松 基生先生講演
地域包括ケアの推進に伴い、さまざまな統計と予測データが公表されている。今後10年で肺炎死は急増するため、在宅で総合的な口腔管理を必要とする高齢者の潜在的歯科マーケットは急拡大し、また15年後には医院へのウォークイン患者は平均2割減少するという。社会の歯科ニーズは従来の形態回復から機能改善(摂食嚥下)にパラダイムシフトするであろう。イノベーションの鍵は総合診療力と医科多職種との調整力である。医科歯科連携をスムーズに行う重要な共通言語が「医科処方薬」と「検査値」であり、「おくすり手帳」から疾患を推知する独自の方法論は、2014年の本会での講演や月刊保団連ですでに述べた。
医科の薬は日進月歩であり、この2年でも大きく変化したので今回の講演でupdateするとともに、10年後の医科歯科連携現場を想定して検査値解釈を交えたロールプレイを行った。紙面の都合で以下には薬剤関連のみ述べる。
まず、典型的生活習慣病患者に対する標準処方を表1に示す。なお、以下はあえて商品名を使用し、薬剤名末尾のGは特許切れで相当数が後発品に置換されている薬剤である。
この手帳(表1)を見た場合は「高血圧症、高脂血症、糖尿病に加え脳梗塞リスクを抱えており、動脈硬化がある」と読む。引き続き「歯周病リスクが高く、応急的な抜歯に備えて血圧測定と、術後の止血材と縫合の準備が必要」というところまで診察以前に察知でき、スケーリングも出血に注意するよう事前に指示ができる。
A)降圧薬(表2)
依然、ARBがシェアのトップを占めている。また心房細動のエビデンスが整ったことでα/β遮断薬の処方が増加している。ARBとCCBは併用可能なことから先発メーカーの特許切れ対策として合剤が販売されシェアを伸ばしている。ミカムロ(ミカルディス+アムロジン)、エックスフォージ(ディオバン+アムロジン)などである。B)糖尿病薬(表3)
糖尿病は抗高血糖治療から抗糖尿病治療へのパラダイムシフトが完了した。かつてアマリール+アクトス+ベイスンの併用が定番であったが、現在はDPP-4阻害薬が新患の7割に処方される標準治療薬である。低血糖になりにくくHbA1cが改善可能であることが根拠であり、メトグルコと少量のアマリールが付加された剤処方が標準となっている。「痩せる糖尿病薬」としてSGLT2阻害薬が登場したが、今のところ脱水関連の副作用で伸びていない。腎臓については確実に問診する。CKD(慢性腎臓病)や人工透析の有無をチェックし、抗菌薬とNSAIDsの減量処方の必要性を検討する。またHbA1c値を問診し、術後感染や根管治療・歯周治療抵抗性の可能性を説明する。(次号に続く)