歯科2022.06.12 講演
歯科定例研究会より
支台築造の基本からファイバーポストレジンコアまで (2022年6月12日)
坪田デンタルクリニック院長 東京歯科保険医協会会長 坪田 有史先生講演
今回、レジン支台築造の現在における基本的な考え方ととくに保険治療におけるファイバーポスト併用レジン支台築造(ファイバーポストレジンコア)について解説し、症例を交えて私が使用している材料と臨床上のテクニックについて研究会で紹介しました。本稿は、事後報告として講演内容の要旨を記します。
1.はじめに
支台築造は歯質欠損を補い、歯冠補綴装置を装着するための適正な支台歯形態へ回復させることが目的であり、その臨床的意義は高いといえます。歯冠補綴を行った根管処置歯の術後トラブルの中で、築造体ごとの補綴装置の脱落、二次う蝕、歯根破折が高い頻度で発生することが報告されています。とくに歯根破折は、支台歯が保存困難になる可能性が高く、できるだけ回避したいトラブルの一つです。
支台築造法の一つであるレジン支台築造は、主に象牙質への接着の信頼性が向上したことが背景にあり、その選択頻度が高くなりました。さらにファイバーポストレジンコアは、主に歯根破折への対策、ならびに審美性の向上やメタルフリーを目的として活用されています。
2.鋳造支台築造とレジン支台築造
現在、根管処置歯の支台築造では、金属鋳造による支台築造(鋳造支台築造)とレジン支台築造が選択されています。表1に鋳造支台築造とレジン支台築造の比較を示します。残存歯質量の点からみると健全歯質を失う便宜的形成が必要となる鋳造支台築造に比較して、健全歯質が保存できる成形材料であるレジン支台築造の方が有利です。しかし歯肉縁下に歯質欠損が及ぶケースでは、確実に象牙質接着を獲得しなければならないレジン支台築造よりも鋳造支台築造の方が有利なケースがあります。また、物性の違いから、強度自体はレジンよりも金属の方が有利ですが、弾性係数はレジンよりも金属の方が高いため、歯質側に過度な応力集中が発生し、歯根破折のリスクとなります。そのほか、様々な点から両者にはメリットとデメリットがあるため、ケースに応じて支台築造法を選択する必要があります。
3.ファイバーポストの臨床上のメリット
ファイバーポストレジンコアは、歯根破折の対策として有効であること以外に、CAD/CAM冠などのジャケットクラウンの審美性の向上、メタルフリーの獲得など、臨床上多くのメリットがあります(表2)。また、歯内療法の成功率が100%でないため、残念ながら支台築造や歯冠補綴後に根管治療が必要となるケースがあります。その際、ファイバーポストはラウンドタイプのダイヤモンドポイントで金属ポストよりも容易に削れるため、その視点からも有効性が高いと言えます。また、さらに高い咬合力や側方力への抵抗性を向上させる必要があるケースでは、コア部に対して複数本のファイバーポストを使用することは効果的です。しかし、保険請求上では1根管にファイバーポスト1本のみの算定となります。
4.根管処置歯の支台築造の臨床ガイドライン(表3,4)
根管処置歯の歯冠補綴において、とくに重要な因子はフェルールが獲得できるか、またその量が重要です。良好な歯科接着を前提として、根管処置歯を歯冠部残存歯質量、とくにフェルールが獲得できる歯冠部残存壁の数によって支台築造の臨床ガイドラインを作成しました。この臨床ガイドラインは、歯肉縁上の残存壁数により5クラスに分類しています。残存壁数の判定基準は、歯質の厚径が1㎜以上、高径2㎜以上とし、残存壁が全周にあれば4壁残存(クラスⅠ)、全周で厚径が1㎜未満、高径2㎜未満ならば、0壁残存(クラスⅤ)となります。なお、残存壁の高径は、過去の研究でフェルール効果が得られる数値として1.5~2.0㎜と示されており、本臨床ガイドラインでは上限の2.0㎜を採用しています。お示しした臨床ガイドラインを支台築造の選択の際に参考にしていただければ幸いです。
5.おわりに
約6年半前の2016年1月から「ジーシー ファイバーポスト」が公的保険に収載され、それまで保険外治療(自費治療)でのみ使用されていたファイバーポストを保険治療として国民に広く使用することが可能となりました。その後、複数の製品が特定保険医療材料として認可され、選択肢が増えました。それらの製品から適切なファイバーポストを選択し、複数ある接着界面を理解して臨床応用することにより、患者のためにファイバーポストの有効性を活用していただくことを望んでいます。(6月12日、歯科定例研究会より)