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学術・研究

歯科2022.08.21 講演

歯科定例研究会より
磁性アタッチメントの臨床 (2022年8月21日)

朝日大学歯学部口腔機能修復学講座 歯科補綴学分野局部床義歯学研究室 教授 都尾 元宣先生講演

磁石の歴史と磁性アタッチメントの開発
 「マグネット」・「磁石」はなくてはならない物で、冷蔵庫や黒板に付着しているだけではなく、モーターなど多方面において用いられています。
 磁石の発見と誕生には諸説ありますが、その歴史は古く、紀元前3000年頃ギリシャのマグネシア地方の岩石の中から、鉄を引き寄せる磁鉄鉱を発見したことにさかのぼります。また、昔の中国の慈州が磁鉄鉱の産地で、「慈石」と呼ばれ、指南車、羅針盤へと使用されるようになりました。
 日本での「慈石」については奈良時代の文献に記載されているそうです。その後「慈石」から「磁石」に変化したと言われています。
 世界で初めて日本人が人工的な新合金から永久磁石を開発しました。特に1984年に日本の企業によって「ネオジム磁石」が開発され、強力な磁石ができるようになりました。1960年代頃より磁石の吸引力や反発力を応用して、義歯の支台装置としての試みが世界各国で行われましたが、磁石の形態や大きさおよび耐久性(酸化)などの問題により、支台装置として臨床応用されるまでには至りませんでした。
 しかし、日本で新しい磁石と軟磁性材料の開発やコンピューターシミュレーションによる磁気回路設計技術、そしてレーザー溶接や生産ロボットによる精密加工・組付け技術などの改革により、1992年医療用器具として厚生省より認可を受けた歯科用磁性アタッチメントが開発されました。
 そして、30年以上の臨床応用により維持力・小型化・耐久性・生体親和性の向上など種々の改良が行われ安心・安全な支台装置として中医協総会で審議され、2021年9月から保険収載されることが承認されました(表2)。
磁性アタッチメントの特性
 部分床義歯の支台装置(クラスプやアタッチメント)は摩擦抵抗を利用して義歯の脱離力に抵抗していますが、磁性アタッチメントは磁石のN極とS極の吸引力を利用した支台装置で、臨床における成功するための特性を以下に示します。
(1)漏洩磁場を起こす開磁気回路ではなく、漏洩磁場の少ない閉磁気回路を用いているため、アタッチメント周囲組織に磁場による影響は少ない。
 しかし、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)撮影において禁忌とされています。MRIの禁忌について表1に示します。禁忌には全く撮影のできない絶対禁忌と、条件や環境を考慮することで撮影可能な相対禁忌があります。磁性アタッチメントは義歯を装着せず、必要に応じてキーパーも除去することにより撮影は可能となります。患者さんには磁性アタッチメント装着義歯を使用していることを示すカードを所有しMRI検査時に提示するよう説明する必要があります。
(2)磁性アタッチメントに用いている磁石は永久磁石で理論的には磁力は低下しませんが、長期使用によるヨーク(磁石の酸化防止用のケース)の摩耗や破損が原因で磁石の酸化による磁力の低下・喪失がおこります。メーカーは約5年ぐらいと説明していますが症例により異なります。
(3)磁石構造体とキーパーに間隙が生じると磁力が低下します。0.1㎜の間隙で吸着力は半減します。間隙の生じる原因としては義歯への磁石構造体装着時のミスまたは誤差により生じます。特に複数の磁石構造体(磁性アタッチメント)を装着するときは1個ごとに各ステップを確実に行うことが大切です。
磁性アタッチメント義歯の設計
 磁性アタッチメント義歯の設計で重要なことは下記のとおりです。
・残存歯と粘膜にバランス良く支持を与える。
・顎堤形態(吸収の程度)を考え義歯の水平動揺を防止する床形態により把持効果を得る。
・水平的動揺防止のため十分に咬合調整を行う。
・マクギールコンセンサス(McGill consensus statement)などから必要最小限の磁性アタッチメントを使用する。
・患者さんが満足するような磁性アタッチメントの臨床応用を行う。
 そして長期的に良好な予後のため、定期的診査と口腔衛生指導は重要です。

 今回の歯科定例研究会では、磁石の原理から磁性アタッチメントの臨床応用について症例を交えながら解説いたしました。先生方の有床義歯治療が患者さんのQOL向上につながることを願っております。

(8月21日、歯科定例研究会より)

表1 MRI禁忌
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表2 有床義歯の磁性アタッチメントの保険適用について
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