歯科2022.12.11 講演
歯科定例研究会より
質の高い歯科衛生士業務の実践
~院内で取り組む歯周基本治療からSPTの要点~ (2022年12月11日)
株式会社T style 代表取締役・歯科衛生士 十時 裕子先生講演
本研究会への想い
2021年は、「成果を上げる歯周治療とSPTの実践~患者マネジメントとチーム連携の重要性~」というテーマで歯周治療に関わる要点をダイジェスト版で講演させていただいた。今回は内容をさらに掘り下げ、基本から応用まで、質の高い歯科衛生士業務を忠実に実践していただく秘訣についての講演となった。歯科医師と歯科衛生士が連携してチームで取り組む歯周治療のポイントについて、ぜひ、院内での歯周治療やリコール継続の再考としても参考にしていただけると幸いである。
歯科衛生士の仕事の可能性
私たち歯科医療人は、日頃から患者さんのモチベーションを高めて良質な歯科医療に理解を示してもらうことを発信する立場である。このため、まずは自身の仕事へのモチベーションやライフワークバランスを整え、パフォーマンスの高い仕事ができるためにも自身のセルフコントロールが重要である。本講演では歯科衛生士のライセンスを仕事でどのように活かすか? 仕事に対する可能性を自身の経験談を用いて伝えた。歯科衛生士の仕事は、資料採取、各種検査、スケーリング、PMTC、SRPというような施術に関する仕事と、口腔衛生指導や患者教育・各種説明などといった患者モチベーションやコミュニケーションに関する仕事に分かれる。これらについてバランスよくスキルの研鑽を行い、臨床に活かしていけるかで質や臨床の内容も大きく変わる。
歯周治療の流れと要点確認
歯科医院に来院される患者さんの主訴は、歯周病に関連することだけでなく、様々である。そのため、初回の医療面接の段階から患者の治療に対する想いを十分にヒアリングすることが重要で、治療に対する協力度や理解度も変わるため、信頼関係の構築が重要となる。患者マネジメントは初診時の医療面接や口腔衛生指導から始まり、現在の病態への理解や原因の解決に結びつくような患者教育が重要である。歯科医師・歯科衛生士で情報共有を行いながらチーム医療として取り組む歯周治療においては、患者主体で共に歩むことも、一つのチームの形と考えている。
口腔衛生指導のポイント
日々の生活習慣の中で長期的に継続していける口腔衛生指導が、歯周治療の成功への成否や予後にもつながる。口腔衛生指導の本位は、ただブラッシングの方法を指導するだけでなく、どのようにしたら患者さんがセルフケアを継続的に実践に移して結果が伴うかの行動変容をキーポイントとして実践できるかである。「磨いている」と「磨けている」の違いを患者に理解してもらうためにも、積極的にプラーク染色(赤染め)を行うことを推奨する。また、磨き残しを先に指摘しがちであっても、良き点や努力した経緯について先に褒める言葉かけや、行動を認め、その後、苦手な部位やリスク部位について改善指導につながる助言を行う手順が、患者さんと良好な信頼関係を作る上でも大切である。口腔衛生指導は一度にたくさんの情報を伝えるのではなく、次回以降のアポイントの中でもフィードバックを重ねて、個々のレベルや口腔内の衛生状況の反映具合に合わせて進行することが結果的に長期継続にもつながる。快適な歯周治療のポイント
歯科医院には「痛い、怖い」というネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃるため、このような心境や過去のトラウマからも歯科医院と疎遠になりがちなこともある。このため、スムーズに信頼関係を構築するには患者に合わせた対応や、優しく温かい笑顔は重要で、診療に対する安心感を与えて治療に対する理解や協力を得ることが患者マネジメントとして配慮すべき点である。施術においては「痛くない・不快でない施術のポイント」をおさえて、患者の気持ちの理解を繰り返し院内でも相互実習などを通して無意識な側面にも目を向けて、プロとしてトレーニングを重ねる必要がある。
また、患者のセルフケアのレベルはモチベーションや生活習慣への定着が大きく関係し、歯科衛生士はコーチの役割のような立場で患者の現状把握を行って、歯科的行動変容を促すようなアプローチを患者に合わせて行うことが大切である。
院内で取り組む効果的なSPTの実践
SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)とは、病状が安定となった歯周組織を維持するための治療として扱われている。歯周基本治療では患者教育や原因除去を主体としてきたが、今後はいかに歯周組織の安定の維持や治療をしていけるかを目的とするため、長い期間の歯周治療を経てSPTへと移行できた患者は、新たな目標設定をして病状の悪化を防ぐ対策に一緒に向き合うことが鍵となる。SPTに関わる業務内容は歯科衛生士が占める役割が大きく、歯科衛生士の技術面での実力や患者マネジメント力も大きく関係してくる。患者の協力と適切なプロフェッショナルケアのバランスが長期的で継続した管理につながるため、SPTの効果的な実践においてもチーム医療が重要となる。
(2022年12月11日、歯科定例研究会より)