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学術・研究

歯科2023.03.12 講演

歯科定例研究会より
今から始める!新しい嚥下障害予防トレーニング (2023年3月12日)

神鋼記念病院 耳鼻咽喉科部長 浦長瀬 昌宏先生講演

激増する嚥下障害に必要な予防訓練
 いったん老化で嚥下障害になってしまうと、元通りに食べられるようになるのは、かなり難しいです。なぜなら、栄養摂取が不十分になると、体力・理解力が低下し、嚥下機能を改善しようとしても高度な訓練をすることはできないからです。
 今後、高齢化により、嚥下障害の患者が激増することが予想されます。将来のことを考えると、嚥下障害になる前に、高齢者が自分自身で嚥下機能を維持改善できるよう、しくみを作ることが重要です。
 私は、耳鼻科勤務医をしながら、嚥下障害の予防法を確立し、それを普及させる活動を行っています。具体的には、トレーニングを指導できる講師を養成したり、YouTube(嚥下トレーニングチャンネル)で指導法を公開したりしています(一般社団法人嚥下トレーニング協会のホームページを参照ください・図2参照)。
嚥下障害予防トレーニングの指導のしかた
 嚥下動作で最も重要なのは「喉頭(のど仏があるところ)が上に動くこと」です。嚥下動作の原理から考えれば、喉頭をしっかり上に動かす訓練をすれば、従来の訓練より効果的に嚥下機能を高めることができます。
 できるだけ早い段階で、意識的に喉頭を動かす訓練をしましょうというのが、私が行っている提案です。しかし、「喉頭を動かそう」と説明しても、すぐにできる人はほとんどいません。たいていの人は、反射的にしか喉頭を動かせず、どうしたらいいか分からなかったり、意味が理解できなかったりします。しかし、それは、嚥下機能が低下しているからではありません。多くの人は喉頭を動かすコツがつかめていないのです。ですから、最初は、意識的に喉頭を動かすコツ(図1)をつかめるよう指導します。
(1)飲み込む動作を頭と体で理解する(think swallowの徹底)

 飲み込み動作は、まばたきなどとは違い、動きは目立ちにくいので、理解されにくいという要素があります。
 ですから、のどの中の映像やアニメーションを使って、どのようにして飲み込んでいるかを理解してもらいます。そして、鏡で首の前を見てもらいながら、飲み込んでもらいます。また、実際にどのように飲み込むかを意識しながら、水を飲み込んでもらいます。頭と体の五感を総動員して、嚥下動作を理解・体感してもらうのです。それでも分かりにくければ、「多めの水を一口で飲む」「連続して水を飲む」といった嚥下動作に負荷をかける練習を行います。
 予防の段階では、実際に水を飲み込んで練習するのが有効です。それらを徹底すると、どのように飲み込んでいるかが理解できるようになります。
(2)飲み込む動作を意識的に再現し、力を入れて飲み込めるようにする(努力嚥下)

 飲み込む動作を意識できれば、力を入れて飲み込めるように練習します。予防では、「飲み込み方」を徹底的に指導することが大切です。
 指導する時には、「意識して飲み込んでください」と促すだけでは不十分で、何を意識すればいいかを説明することが大事です。
 意識するポイントは三つです。
・首の前 のど仏が上に動く。
・あごの下 飲み込む瞬間、あごの下が固くなり、出っ張ることを感じ、どこの筋肉に力を入れるのかを理解する。
・口の中 口の中の空間をできるだけなくす。
 それらを意識的に行い続けることで、力を入れて飲み込むことができます。
(3)別の動作で、喉頭を動かす

 コツがつかめていない人は、どうしても喉頭を動かせるかどうか不安になりがちです。そこで、別の動作で喉頭を動かします。人は嚥下動作以外でも無意識で喉頭を動かしています。
・大きな声で低く「オー」と言ってから、甲高く「ヒー」と言い換える。
 「オー」で喉頭が下がり、「ヒー」で喉頭が上がります。
・舌を前に出して、その位置から思い切り舌を後ろへ引く。
 これらの時に大切なのが、首の前を触り、喉頭が動いていることを確認することです。触ることで、どのようにして喉頭を動かしているかを意識することができます。
(4)喉頭を上げた状態で止める

(メンデルソン手技)
 飲み込む動作以上に喉頭を動かすことができれば、嚥下機能の予備能を高めることができます。予備能とは余裕をもってできる能力のこと。たとえば、歩行機能の予備能が高ければ、走れたり、階段を昇れたりできるので、ふつうに歩くことは容易です。それと同じように、普段の嚥下動作以上に喉頭が動けば、苦労せずに飲み込めるようになります。喉頭を意識的に動かすコツがつかめれば、喉頭を強く動かし、予備能を高める練習をしていきます。
 喉頭を上げた状態で止めます。水を飲んでそのまま止めるほうが指導しやすいです。喉頭を上に動かすコツがつかめていない場合は、水の一口量を少し増やして飲み込んでみると、分かりやすくなります。何回も繰り返して、数秒から長くて10秒止められるまでトレーニングを続けます。
 飲み込む動作は、自分の力でしかできません。この訓練を始めるのは早ければ早いほど習得が楽になります。自分は無関係と思わず訓練をはじめてみてください。

(3月12日、歯科定例研究会より)


図1 嚥下動作で意識するポイント
2037_03.gif

図2 嚥下トレーニング協会の活動
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