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学術・研究

歯科2023.08.20 講演

歯科定例研究会より
CTデータから考える埋伏智歯の診断、治療、管理 (2023年8月20日)

福岡県・やましろ歯科口腔外科院長 山城 崇裕先生講演

はじめに
 2012年歯科用コーンビームCT(CBCT)検査が保険導入されて10年が経過しました。CTの撮影によって詳細な診断や治療計画の立案が可能になり、解剖学的構造を患者に示すことで下顎智歯抜歯におけるインフォームドコンセントがより円滑に行えるようになりました。
 また、CTで解剖学的特徴を確認することで、術後の合併症を減らすことができるようになったと思います。
 そのような中、私の歯科医院で蓄積した1000症例以上のパノラマX線写真・CTデータを解析してみると、今まで考えもしなかった下顎智歯の特徴がわかってきました。今回、現在まとめた下顎智歯の特徴、抜歯の適応、抜歯の難易度、術後合併症についてお話しする機会をいただきましたので、以下にご報告いたします。
パノラマX線でみられる下顎智歯の特徴
 まず、最初にパノラマX線写真でみられるう蝕や智歯周囲炎の罹患の状態を年齢別に調べました。下顎智歯のない症例も母集団にいれて、分母をパノラマX線写真を撮影した患者×2として割合を導いたところ、60歳以上で残っている下顎智歯は21.4%、そのうち、60歳以上で垂直に萌出して機能する下顎智歯は10.2%、60歳以上で正常に萌出しておらずトラブルがない下顎智歯が4.63%でした。
 もちろん、今後う蝕の少ない子どもたちが成長してトラブルを起こす下顎智歯の確率がかなり下がってくると考えられますが、現在のところはこのような状況です。骨性に埋伏している下顎智歯に遭遇すると、保存的に様子を見たくなりますが、骨性に埋伏していても歯石がついたり、う蝕になったりする症例が散見されますので、骨性埋伏智歯でも油断すると将来抜歯をせざるを得ない状態になります。
 親知らずによるトラブルはう蝕や智歯周囲炎だけでなく、歯列不整を誘導することや第2大臼歯歯根の外部吸収を引き起こすことがわかっております。抜歯の適応となるこれらの症状を最小限にするような管理が必要になります。
下顎埋伏智歯抜歯の難易度に関わる要素
 われわれは、智歯抜歯の難易度を考えて自分で抜歯するのか、高次の医療機関で抜歯してもらうのかを考えなければなりません。下顎埋伏智歯抜歯の難易度に関わる要素を以下に列挙いたします。
 (1)歯根の形態(歯根の数、長さ、太さ)、(2)埋伏歯の深さ、(3)下顎第2大臼歯から下顎枝前縁までの距離(埋伏歯遠心部の骨の被覆状態)、(4)埋伏歯の傾斜角度、(5)下顎管との距離、(6)開口量、(7)う蝕の有無、(8)下顎第2大臼歯遠心傾斜、(9)年齢、(10)第2大臼歯の状態。
 この中で、抜歯の適応に大きくかかわる歯根の形態と年齢についてCTデータで解析しました。20代前半では歯根肥大がほとんどありませんが、20代後半から漸増し、45歳以上では80%近くが歯根の肥大を認めました。歯根の肥大に伴って、歯根が完成した時は2根であった下顎智歯が単根に癒合する症例が多いことも確認できました(図1)。
 この歯根の形態の変化は抜歯の難易度に大きく関係し、歯根分割や骨削合が必要になる症例が年齢とともに増えてくることが抜歯所見から考察できます。この歯根分割や骨削合の必要性は24歳を超えてくると著明に増えてくることから、24歳を超えると抜歯の侵襲が大きくなることが考えられました。侵襲を少なくすることや下歯槽神経知覚異常などの合併症を減らすためには、若い時に抜歯をすることがとても重要ではないかと考察しております。
下顎智歯の発生や解剖の理解
 抜歯を円滑に進めるためには、下顎智歯の位置や咬合面を向ける方向が重要な要素だと考えます。この下顎智歯の位置や咬合面を向ける方向を考えるうえで、下顎智歯の発生や解剖を理解することはとても重要です。
 下顎智歯は下顎枝内に発生します。下顎枝は歯列弓の外側にありますので、下顎枝に発生した下顎智歯は歯列弓に並ぶために第2大臼歯遠心舌側向きでやや上向きに咬合面を向けて萌出を開始します。このまま歯根が完成するにつれて咬合面が上を向き、歯列弓に並ぶと正常な萌出が完成しますが、何らかの理由で萌出が障害され、水平に埋伏したり、舌側向きのままであったりすると、萌出異常として抜歯の適応となります(図2)。
 下顎智歯は、歯列弓の延長線上に埋伏するパターンと歯列弓より外側に埋伏するパターンとありますので、埋伏するパターンによって切開線の位置を変えなければなりません。この埋伏状態をCTで確認できれば、術前の検討がスムースに行えます。しかし、CTは高価な機器ですのでパノラマX線写真で位置や方向を推察するポイントをお話ししました(図3)。
終わりに
 下顎智歯はどんなに深くても歯石が沈着する症例がみられます。下顎智歯を抜歯しない方針にするのであれば、必ず徹底的なプラークコントロールを勧めて下顎智歯を守らなければ、高齢になった時の抜歯の難易度がかなり高くなります。今回は特に、若いうちに抜歯をすることが抜歯後の合併症を減らすことに繋がるということを強調してお話しいたしました。

(2023年8月20日、歯科定例研究会より、小見出しは編集部)

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