歯科2024.08.25 講演
歯科定例研究会より
2024年度診療報酬改定と臨床の実際
~CAD/CAM冠・CAD/CAMインレーなどの非金属修復の臨床~
(2024年8月25日)
坪田デンタルクリニック院長 東京歯科保険医協会会長 坪田 有史先生講演
歯科接着の効果
歯科医療における接着は、最小限の侵襲による治療などが可能となり、健全歯質の保存や歯髄保存の可能性が高くなる。また、歯と人工物の分子レベルでの一体化が図られる。とくに間接法による歯冠修復・補綴において、接着による応力分散、異種材料との接着などにより、歯冠修復物・補綴物(以下、修復物)の脱離・脱落への対策はもちろんのこと、歯の延命や疾病予防に繋がる多くの効果がある(図1)。すなわち、臨床で歯科接着として信頼性の高い材料を使用することが必然となっている。間接法による接着
修復物の装着での接着性は、接着性レジンセメント(以下、レジンセメント)に対して支台歯サイドと修復物サイドの二つの接着面、そしてレジンセメント自体の物性に影響される。支台歯サイドの接着面は、ケースによってエナメル質、象牙質、金属、コンポジットレジンが対象となる。他方、修復物サイドの接着面は、金属(貴金属、非貴金属)、セラミックス系(ガラス、ジルコニア)、レジン系がある。レジン系の中でも保険収載されているCAD/CAM冠やCAD/CAMインレーで使用されるCAD/CAM冠用材料、さらに2023年12月に保険収載された特殊な材料であるPEEK材など、接着の対象は多種多様である。それらの材料の接着面への対応が必要であるため、使用材料のメーカー指示を確実に遵守する。
間接法で製作した修復物をレジンセメントで接着することにより得られる臨床的なメリットを図2に示す。その主なメリットは、「高い接着力」、「辺縁封鎖性の向上」、「脆性材料の補強効果」である。
「高い接着力」により、修復物の保持力が向上し、装着後の脱離・脱落への予防策となる。さらにレジンセメントを活用することにより、接着性がない、あるいは接着力が低い装着材料を使用するよりも保持形態の設定などがない形成デザインにすることができる。その結果、可及的に健全歯質の保存ができ、ケースによってはフィニッシュラインを象牙質でなくエナメル質に設定することができる。
すなわち、象牙質に比較してう蝕抵抗性が高いエナメル質を保存できるケースが増えることとなり、ケースによって全部被覆冠でなく部分被覆による修復物を選択することが可能となり、術後の2次う蝕の発生への抵抗性が増す。さらにブリッジの支台装置として適応症であれば接着ブリッジ支台が選択可能となる。したがって、レジンセメントの活用により、Minimal Intervention Dentistryのコンセプトを実践できる可能性が拡がる。
CAD/CAM技術による保険収載
表1に歯科接着を背景に保険収載された間接法による歯冠修復、歯冠補綴の技術を示す。この表からCAD/CAM技術による修復物が経年的に次々と保険収載されていることが分かる。2014年度診療報酬改定において、先進医療のルートから小臼歯限定でCAD/CAM冠が初めて保険収載され、その後、条件付きで上下顎第一大臼歯、前歯部まで適用拡大されている。さらに2022年度改定でCAD/CAMインレーが新たに保険収載され、そして大臼歯限定で「PEEK」が2023年12月1日に期中収載された。
2024年度改定において、CAD/CAM冠・CAD/CAMインレーの適応が拡大され、条件付きであるが、上下顎第二大臼歯にも適用可能となった。また大臼歯において、CAD/CAM冠用材料(Ⅲ)を使用して支台築造と歯冠修復物が一体化した金属歯冠修復であるエンドクラウンが新たに保険適用となった。他方、3/4冠、4/5冠、全部被覆冠、レジン前装金属冠の金属修復物がクラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象外となった。
行政がさらに推進すると考えられる保険診療における脱金パラの流れは、世界情勢や社会情勢などが不安定な状況を背景にして、投機目的などがあり、金属の素材価格が安定せず、財源的に歯科の社会医療費に影響を及ぼすためと推察される。近い将来、非金属歯冠修復のさらなる適用拡大が進められ、保険医療材料から金パラを完全に外す方向で考えているのではと危惧される。
保険材料であるCAD/CAM冠用材料の接着
CAD/CAM冠用材料は、レジンによるマトリックスと多量の無機質フィラー(シリカ)から構成され、レジン成分は高度に重合しているため、未反応モノマーはほとんどなく、接着は簡単ではない。臨床で術後の脱離・脱落の対策として、接着の効果をできる限り得るためには、試適、調整、研磨後、接着直前にアルミナブラスト処理・超音波洗浄あるいはスチームクリーナーによる洗浄、エアーによる乾燥、その後各メーカー指示のプライマー処理を行ったのちにレジンセメントで接着し、確実に硬化させる。また、PEEK冠の被着面はシラン処理が効かないため、接着させることが困難である。しかし、修復物被着面の接着は重要であるが、それ以上に窩洞や支台歯への接着が重要であり、被着面の清掃やプライマーボンドなどによる前処理を確実に行う必要がある。すなわち、すべての操作を正確に行うことがその歯の延命に繋がる。
(8月25日、歯科定例研究会より)