2010年8月05日(1630号) ピックアップニュース
患者さんへの思い 歌に乗せて
新聞部の会員訪問 中村 宏臣 先生の巻
歌の力はすごい
西区 中村医院 中村 宏臣先生
[なかむら ひろおみ]1979年3月神戸大学医学部卒、神戸大学第2外科入局、1987年7月米国イリノイ州立大学胸部心臓外科にて研修、1989年7月米国ハーバード大学医学部胸部外科にて研修、90年1月三木市民病院心臓血管外科主任医長、97年6月開業
加藤 先生はこれまでに、オリジナルの歌のCDを3枚出されているそうですね。私も「空という名の人生」をお借りし、聞かせていただきました。先生の声と女性のコーラスがとてもきれいでした。
中村 ありがとうございます。合唱団で歌っていた程度の素人なんですが、聞いていただけて光栄です。
加藤 CDを制作されたきっかけは何ですか。
中村 開業以来、たくさんの患者さんを診てきました。特に、在宅訪問診療には力を入れて。そのなかで感じた思いを、何かで表したいと思ったんです。 往診先の高齢者の方が、昔の歌を聞いて歌って元気になっておられるのを見て、歌の力はすごいなと思い、私も歌で思いを伝えてみようかと。
加藤 どの曲も先生の作詞ですが、どんな思いを込められていますか。
中村 全曲を通し、患者さんの命の大切さ、尊さを伝えたいと思っています。 寝たきりで意志を伝えられない方は、コミュニケーションがとれず、何もおわかりになっていないだろうと思ってしまいがちです。毎回少しずつメッセージを送り続けると、反応してくださるようになります。そんな方を何人も診ているなかで、意識がなくても心は果てしなく続いている、そんな気がしました。充分なケアをしようとの心も込めて、「もっと光の中に」という歌を書きました。
加藤 この曲の「そのささやきさえも すどおりしていくこの体」という歌詞には、そんな寝たきりの方への思いが込められているんですね。この切ない歌詞のあと、「もっと光の中に」と歌っておられるサビの部分で曲調も盛り上がり、希望を感じます。
中村 もう一つ思うのは、今の医療は、薬に頼りすぎているのではないかということです。完璧な健康・治療を追い続けるのでなく、自然と共に、コンチェルト(協奏曲)で生きていこうという思いを2枚目のCD「いのちのコンチェルト」で表したつもりです。
加藤 これらの歌詞は、どんな風に作るのですか。
中村 主に往診時に車の中で、いろいろなことに思いをはせながら、少しずつ作っていきます。
介護スタッフと協力しCD制作
加藤 作曲はどなたがされたのですか。
中村 プロの方にお願いした曲もありますが、主に知り合いの介護職の方に作っていただいています。 診療は、患者さんの生活のほんの一点です。その点をつなげて患者さんを線で診ていくには、看護師やヘルパー、病院などとの多面的な連携によるケアが必要ですが、これが今欠けています。歌をきっかけに、介護関係者とバンドを組み、お年寄りと共に歌うなど、これからさらにつながりを作っていきたいですね。
加藤 CD制作を通じて地域医療の連携も進めておられるのですね。私は歯科医ですが、最近、訪問診療をされる歯科の先生も増え、連携の重要性が増していると感じます。
中村 そうですね。私も、歯科の先生との連携は大事だと思っています。口腔内のケアで、非常に助かっていますよ。実はCD制作にあたっても、ジャケットの写真は、在宅患者さんを通じて知り合った歯科の先生からいただいているんです。
加藤 すばらしいですね。CDはどこで普及されているのですか。
中村 コンサートなどの会場、医院でご希望の方に販売させていただいています。中には夜に聞いて、心が休まると言ってくれる患者さんもおられます。うれしいですね。
加藤 先生の思いが伝わっているんですね。体が動かず、心も沈みがちな高齢の方に、先生のやさしい歌はぴったりだと思います。コンサートも開催されたのですね。
中村 はい。昨年に新神戸オリエンタル劇場を借りて行いました。患者さんが600人以上も来てくださり、本当にありがたい思いでいっぱいでした。
心臓外科から在宅医療へ
聞き手
加藤 擁一副理事長
加藤 先生のご経歴を拝見しましたが、もともと心臓外科の専門医としてご活躍になり、アメリカのイリノイ州立大学やハーバード大学でも研修され、その後開業され在宅へ。なかなか珍しいご経歴ですね。
中村 私は医師になってから、外科・救命・先端医療の三つを目指し、患者さんが生きるか死ぬか、白黒がはっきりつく世界で、がむしゃらにがんばってきました。でも、毎日手術に明け暮れる中で、違うのかな、とふと思ったんです。 以前、88歳の方の心臓バイパス手術に成功し、全国でも珍しいとメディアなどでも少し取り上げられました。後で聞くと、その方は認知症で1年後に亡くなり、その間介護で周囲の方々は大変だったみたいです。他にも手術の副作用などで苦しんでいる患者さんも多くおられます。
加藤 その場だけの救命では、人を救うには不十分だと。
中村 そうですね。もちろん医療が救命を最優先するのは当たり前ですが、医学だけでは人を幸せにできません。人は老いて、一人で立てなくなり、周囲に介護され、亡くなります。だから、医療と介護の両方に携わりたいと開業を決め、在宅医療を始めたのです。 かかりつけ医として、患者さん一人ひとりの生活に関わることができ、とてもやりがいを感じています。
加藤 地域住民に密着するという私たち開業医の原点に立っておられ、心強く思います。
中村 在宅をやっていて思うのは、介護現場の改善が絶対に必要だということです。介護保険導入から10年がたちますが、行政の介入が強く、書類作成も多すぎて、現場の苦労はどんどんひどくなっていますよ。
加藤 本当に。介護報酬も低く抑えられ、人手不足も深刻で、早急に改善が必要です。保険医協会も、介護や医療など社会保障にもっと予算をと運動していますが、なかなか一朝一夕には変わりません。
中村 そろそろ何とかしていかないと、患者さんは待ってくれません。介護だけでなく、在宅医療の評価も低すぎます。一方で患者負担は重く、医療・介護費用が支払えなくなっている方もおられ、本当にお金をいただくのが辛いですよ。
加藤 国民みんなが安心して暮らせる社会にしていかなければいけませんね。
次は国境超えたい
「空という名の人生」
表題曲のほか、「もっと光の中に」「千の風になって」を収録。
1000円。ご注文は電話078-993-0166 中村医院まで
加藤 最後に、今後の目標を教えてください。
中村 4枚目の新しいCDを作りたいと思っています。これまでの曲にも「もっと明るい感じで」など、患者さんから要望が来ていますので、別バージョンで録り直しもしたいです。 そして、次は国境を越えてみようかと思っています。昨年ナイジェリアに1週間行き、現地を見てきました。日本と違い、貧しく医療も足りていないけれど、皆とても元気だったのが印象的でした。今、サンテレビで、「もっと光の中に」を、日本語版と英語版でそれぞれ、日本の介護やナイジェリアの医療の現場の写真と共に流していただいています。NPO法人を立ち上げたので、歌を通じてアフリカの医療援助に携わりたいと考えています。 何より開業医の中で在宅のネットワークができ、地域連携が進むことを願っています。
加藤 新しい歌ができましたら、またぜひご紹介ください。本日はありがとうございました。