2010年9月05日(1632号) ピックアップニュース
燭心
縁側に葦簾(よしず)で日陰を作り、打ち水をする。蝉の大合唱に混ざり涼しげな風鈴の音が、時折の風に吹かれチリンチリン。時間はゆったりと過ぎる。真夏の日差しは痛いほどに強く、家の中が真っ暗で何も見えないほどだ。井戸で冷やしたスイカを頬張る。種はペッペと庭に吐き出す。シャツに汗とスイカの汁がにじむ▼夕方になるとゴロゴロと遠雷の音。にわかに空が暗くなり激しい夕立に見舞われる。あわてて干していた梅干を取り入れる手伝いをする。突然、天を切り裂くような雷。みな怖がって家の中へ。何かのおまじないか、蚊帳をつって中に入り身を寄せる▼幼き頃の思い出だ。落語の枕にある金魚売りの声が聞こえてくるような、のんびりとした時代だった。蚊帳が雷よけになるとその時はみな信じていて、なぜか四隅を全部張らず、一つだけは床にたらしていた記憶がある。蚊帳もすでに歴史的遺物となった▼現在、状況は一変した。密封型住居、環境の変化、ヒートアイランド現象など暑さの質が異なる。ここ一、二年のこと、三宮駅周辺で突然の熱風と強い日差しで、鳩がよたよたと動けなくなっているのを何度か目撃した。鳩も経験に学ぶのか、猛暑の続く昨今、姿が見えなくなった。どこかに避難したのか。熱中症の救急搬送や死亡者が激増していることは周知のこと。独居老人や貧困層が多い。クーラーがない、電気代が心配と、これはもはや社会問題、政治の介入が必要なレベルだ(無)