2010年9月15日(1633号) ピックアップニュース
新高齢者制度解説(2) 国保〝広域化〟で保険料引き上げ
高齢者医療制度改革会議が発表した新高齢者医療制度「中間とりまとめ」は、新制度案と同時に、市町村の国民健康保険を広域化することも提案している。高齢者医療制度でなぜ国保の広域化が問題になるのか。そこには新たな国庫負担削減策と保険料負担増がたくらまれている。
2段階の広域化
「中間とりまとめ」は、国保について「市町村国保の財政基盤を考えれば、再び市町村国保が高齢者医療の財政運営を担うことは不適当である」「したがって、市町村国保の中の、少なくとも75歳以上の高齢者医療については、都道府県単位の運営とすることが不可欠」「また、市町村国保の財政基盤を考えると、高齢者のみならず全年齢を対象に、国保の広域化を図ることが不可欠で」「全年齢を対象に都道府県単位化を図る」と、75歳以上の高齢者と全年齢の2段階で広域化する方針である。
高齢者医療制度の議論が、なぜ国保の広域化につながっているのか。
「中間とりまとめ」は、「小規模な市町村の国保は、保険財政が不安定になりやすく、運営の広域化を図ることが長年の課題となっている」と指摘している。高齢者医療制度とは別に、もともと国保を広域化したかったというのが、政府の思惑なのである。
繰入金に頼る国保
しかし、国保財政の実態は、広域化すれば解決するなどというものではない。
国保財政が困難な原因は、第1に国庫負担が大幅に削減されていることである。
国庫負担は1980年には国保収入の5割以上を占めていたが、2008年では25%まで削減されている(図1)。これが国保財政を苦しめている最大の元凶であることは明らかである。
また、市町村国保の財政実態は、黒字保険者が赤字保険者を救えるような状況にはない。2008年度に赤字の保険者の割合は45%で、黒字保険者が55%であるから、一見すると広域化で平準化すればよいように見える(表・上)。
しかし、これは赤字補填のための一般会計からの繰入金を入れた後の話である。繰入金を入れる前の赤字保険者数は公表されていないが、黒字保険者の黒字額1116億円に対し、繰入金は2585億円。繰入金を除いた国保全体の収支は、93億円の黒字から一気に2492億円の赤字に転落する(表・下)。市町村国保は、繰入金なしに黒字の保険者などありえないのである。
大阪府の橋下知事が各市町の繰入金なしで保険料を統一すると公言したが、そのツケは加入者の保険料負担増にならざるをえない。
財政難の第2の原因は、加入者の低所得化が進んでいることである。
07年度の国保加入者「所得階級別世帯数」によれば、「所得なし」が27%、「所得ありから100万円未満」が23%で、半数が「100万円未満」である(図2)。これは規模の大小を問わず、全国に共通する傾向だ。
むしろ規模が大きくなるほど保険料は高額化する傾向で、規模5千人未満の保険料は16万7千円なのに、規模が大きくなるほど保険料はアップし、20万人以上の国保では19万6千円にも及ぶ。
国民健康保険は、すべての国民が何らかの医療保険制度に加入する国民皆保険制度の基盤である。高齢者が増加すれば医療費が高額化する一方で、低所得の加入者が増加し保険料が高額化することは、構造的な矛盾といえる。
加入者の保険料に負担を転嫁したり、広域化でいくら穴埋めしようとしても、埋めきれるものではない。国民皆保険が国家責任である以上、国庫負担を抜本的に増やす以外に解決の道はありえない。
(次号につづく)