2010年10月15日(1636号) ピックアップニュース
燭心
龍馬ブームにあやかってという訳でもないが、この夏休みに高知を旅行してきた。記録的な猛暑にもかかわらず、大勢の人が龍馬博に押しかけていて、NHKドラマの影響力の大きさを感じた次第。坂本龍馬と言えば、幕末を颯爽と生き抜いたイメージが強い。福山雅治さんがそこを魅力的に演じているのも人気の原因だろう▼かく言う私も、若いころ司馬遼太郎氏の「龍馬がゆく」などを読み感銘を受けた一人だ。明治維新前夜、青雲の志で近代国家建設の礎となった人々の物語は、「変革の時代」と言われた70年代初頭の高揚した雰囲気とも合っていたのだろう▼ちょっと違う視点で見る人もいる。精神科医の野田正彰さんが最近の新聞に書いておられた。「土佐、江戸、京、長崎と、なんであんな行く先々で美人の女性にもてるのだろう」これは野田センセイのやっかみかもしれないが(海軍創設者ということで)「軍国主義に利用されたことを忘れないでほしい」「坂本龍馬というイメージが過去にどう利用されてきたかを、ちゃんと知ってほしい。小説やドラマで都合のいい部分だけを切り取ったり、危機の時代になるとナショナリズムをあおるような形で、フィクションもないまぜに語られたりする」▼傾聴に値する一言だ。さて、龍馬の時代から1世紀半。泉下から見た今の世界はどうか。「いつまでも武力で争っている時代じゃないぜよ」懐に手を入れた得意のポーズで、そうつぶやいているのではないか(星)