兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2010年10月25日(1637号) ピックアップニュース

09年国保自治体アンケート 未交付率・短期証・資格証発行数ともに過去最悪 高額保険料で滞納世帯増

 協会が毎年実施している「国保自治体アンケート」で短期保険証の発行率がついに6%を超えるとともに、資格証明書も1%を超えた。同アンケートは県下全自治体を対象に協会が88年以来実施しているもので、18年連続ですべての自治体から回答を得ている。

 1637_01.gif


 国民健康保険保険証の更新時期である2009年12月1日現在の保険証の「未交付数」は5万5934人。全交付対象世帯に占める割合は6.6%。08年の5.9%を上回り過去最高の水準となった。
 「短期保険証」発行世帯は5万1578世帯で、08年の4万7559世帯からさらに増加している。被保険者世帯比でも6.09%と、ついに6%を超えた。
 「資格証明書」発行世帯も8千941世帯で、被保険者世帯比1.05%と、昨年の0.74%を大きく上回り、1%を超えた。
 政権交代後も、保険料(税)滞納者への対応の厳しさは増している。
 アンケート結果は、マスコミ各社へも発送する。


解説
国庫補助を元に戻し非正規雇用の是正を

滞納世帯にペナルティー
 厚生労働省の発表によれば、国民健康保険の09年度保険料(税)滞納世帯数は445万4千世帯で、加入世帯の20.8%に上っている。
 国保法では、滞納世帯に対してペナルティーが科されることになっている。納付期間を過ぎ、督促を行っても納付しない場合は、通常の保険証よりも有効期限の短い(6カ月~1カ月)短期保険証の対象となる。
 さらに、納付期限から1年が過ぎると、被保険者資格証明書の対象となる。資格証明書は、医療機関を受診した際、いったん全額を自己負担しなければならなくなるというもので、97年(00年施行)の国保法改定で、発行が義務化された。
 その後、世論の反発を受け、08年の国保法改正で中学生以下の子どもがいる世帯への、10年の改正では高校生以下の子どもがいる世帯への資格証明書発行ができなくなった。しかし、該当する子どものいない世帯では、自治体の義務として資格証明書の発行が行われている。
 現在、短期証交付世帯は120万9千世帯、資格証明書は31万1千世帯にも上っている。さらに、「失業後、手続きできなかった」「非正規雇用の際、加入させてもらえなかった」などの理由で、国保の資格証明書すらない「無保険者」さえ生まれている。

受診抑制で死亡も
 全日本民主医療機関連合会(民医連)の調査により、患者が資格証明書や「無保険」によって医療機関への受診が遅れ死亡したケースが、47例に上ったことが明らかになった。
 これは、民医連加盟の1700余りの医療機関からの報告であり、氷山の一角にすぎないと思われる。

所得200万円で30万円超の負担
 なぜ、国保料の滞納がこれほどまでに広がっているのか。それは、被保険者世帯の所得に対し、国保料が高すぎるからである。
 「所得200万円の現役世代の父母と子2人家族」というモデルで算出した保険料は、国保が全市町村平均で32万5165円、協会けんぽ世帯の14万6202円、組合健保世帯の全組合平均10万1828円で、国保が突出して高い(表2)。

削減続く国庫負担
 高額の国保料はどのようにして決められているのか。
 国保会計は大きく、国による負担と加入者の保険料負担で賄われている。医療給付費の見込み額を算出し、国庫負担分など公費負担分を差し引き、残りを加入者の保険料として案分する仕組みである。
 国庫負担が収入に占める割合は79年に64.2%を占めていたが、その後、法改定によって徐々に引き下げられ、07年度には25%まで減らされた。その分、保険料負担が重くなっているのである。
 さらに、保険料の算出は、所得の多寡によって賦課される「応能負担」と所得に関係なく賦課される「応益負担」に分けられ、それぞれ50%ずつとしている自治体が多い。
 つまり、国保会計において、保険料約半分は、支払い能力に関係なく賦課されているのである。
 また、国保加入世帯の所得の低下がある。国保加入世帯の平均所得は01年に190万9千円だったが、07年には166万9千円になっている。
 背景には、国保加入者の職業構成のうち、無職者と非正規の被用者の急増がある。これは構造改革と大企業のリストラで失業者と非正規雇用者が増大し、社会保険から国保に移ってきたためである。
 現行法では、正規、非正規に関わりなく「1日の予定労働時間や1カ月の所定労働日数が職場において同種の業務に従事する他の労働者のおおよそ4分の3以上であること」、また「2カ月を超える労働契約で就労する人」は、社会保険に加入させることが義務づけられているが、企業が保険料負担を避け、加入させないという実態がある。

憲法違反の国保料
 日本国憲法では、第25条において「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利を保障している。
 これは、すすんで各人の生存を保障すべきだとする社会権規定であるばかりでなく、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利を、国などの公権力が侵害できないことを規定する自由権規定でもある。
 だとすれば、「健康で文化的な最低限度の生活」を脅かすような、所得の4分の1,5分の1という保険料設定は憲法違反であると考えられる。とりわけ、生活保護基準以下(258万5400円[1級地-1で20~41歳の父母と小学生、中学生の子ども2人])の世帯にも、国保料が賦課されている現状は、大きな問題である。
 また、国保法第1条には「社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と明記されている。国保は、他の医療保険に入れない人が最後に入る強制加入保険である。だからこそ、国が国民皆保険を実現する保障になっているのである。

国保再生のために
 国保を再生させるために、国は国庫負担を以前の水準にもどし、保険料を低く抑える必要がある。
 例えば、保団連の「医療保険再建プラン『保険証1枚』で安心してかかれる医療制度をめざそう」(04年)は、国保の国庫負担割合を45%に戻し、8607億円増やすことにより、6割程度まで国保料を引き下げることは可能だとしている。
 大企業のリストラや労働者の非正規雇用への切り替えによって、これまで社保に加入していた労働者が失業者や非正規雇用労働者として、国保に移っている。これをやめさせ、大企業に正規雇用を増やさせることで、国保の財政悪化を是正することが必要である。
 また、当面の課題としては、非正規労働者に社保加入を認めない大企業の姿勢を正し、非正規労働者を社保加入にさせることが大切である。
1637_02.gif
1637_03.gif

バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方