兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2010年11月05日(1638号) ピックアップニュース

すべての国民に良質の歯科医療を

1638_03.jpg [あだち りょうへい]1978年大阪歯科大学卒業。81年から27年間、神戸市立病院に在籍(中央市民13年、西市民14年)。95年の阪神・淡路大震災では被災者の歯科診療に奔走する。08年に現職。10年から、ときわ病院歯科口腔外科部長兼務。「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会・世話人を務める。主な編著書に『一歩進んだ口腔ケア』など

神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科教授
足立 了平先生にインタビュー

聞き手 吉岡 正雄副理事長

 「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会世話人の足立了平先生(神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科教授)は、15年前の阪神・淡路大震災以来、口腔ケアと全身疾患の関係を訴え続けている。同会代表世話人の吉岡正雄協会副理事長が、保険でより良い歯科医療をめざす運動の意義などをインタビューした。

口腔ケアと大震災の教訓

吉岡 先生は西市民病院の口腔外科時代に、阪神・淡路大震災の被災者支援に携わりました。その時の経験から、口腔ケアの大切さを痛感されたとのことですが。
足立 ええ。震災直後、避難所に医療班は来ていたのに、歯科医師班が全く来なかったことをとても奇異に思っていました。被災者には、口内炎や2次感染で口腔が腫れていたり歯周病急性発作などの感染症の患者さんがとても多く、中には重症化して口が開かず入院させないといけない方もおられたのです。
吉岡 避難所では水不足のため口の清掃は不備になりがちでしたし、何より当時は「口腔ケア」という発想がまだ定着していなかったですね。
足立 そうなんです。震災後に健康悪化で亡くなられた「震災関連疾患死」の被災者は922人いましたが、最も大きかった死因は肺炎で、関連死された方の4人に1人にあたる223人でした。その内、3~6割が誤嚥性肺炎だと私は思っています。
 高齢の方は人前で義歯を外したがらないので、洗浄せずに義歯をはめたままの状態で寝食を過ごし、口腔ケア不足で口の中の細菌が増加します。さらに避難所生活による体力低下も加わって、誤嚥により細菌が肺の中に入りやすくなるのです。震災直後から口腔ケアがしっかりできていれば、肺炎死を50人ぐらいは減らすことができたのではないかと思うのです。
吉岡 阪神・淡路大震災での口腔ケアの教訓を、以降の災害で発信されたそうですね。
足立 2004年の新潟県中越地震の直後、地元の大学歯学部などへ、誤嚥性肺炎予防のために口腔ケアが必要だとFAXを送りました。それだけが効を奏したわけではありませんが、震災関連死35人のうち肺炎死亡は1人にとどまりました。その後の能登、玄界沖、宮城の地震でも同様に口腔ケアの必要性を発信しました。
 現地を訪れたところ、学校の体育館で避難するという阪神・淡路大震災時とほとんど変わらない環境でしたが、口腔ケアがシステマチックに行われていました。
 また、私が所属する大学の口腔保健学科では歯科衛生士を養成していますが、「危機対応実践力養成プログラム」を導入し、災害時の口腔ケアについても力を入れて教えています。

歯科医師へのニーズは増える

吉岡 先生は、「健康長寿」を保つためには歯科医療が果たす役割があると、各地で講演されています。
足立 健康長寿を達成するためには、咀嚼機能の維持が大事になります。80歳で20本の歯を残そうという8020運動がありますが、平均では80歳で7本しか残っていない現状です。
 本当に8020を達成するには、現状の歯科医師数では足りません。長い目で見て医療費削減に寄与することが期待できるので、歯を残す努力、咬合を維持する努力をきちっとやるべきです。定期健診を受けている人は歯の喪失が少ないというデータがありますが、日本では1.5%の人しか実践されていません。そうなると歯科医師へのニーズはさらに増えてきます。
吉岡 在宅医療をされている内科の先生からも、口腔ケアができていない患者さんがたくさんいると聞きます。
足立 最近では在宅訪問歯科も増えてきてはいますが、まだまだ少なく、全歯科医師の20%未満です。その点で訪問内科医からの口腔ケアの要請に応えきれていません。
 口腔と全身疾患との関係について、医科では十分には知られていません。歯科からの発信がまだまだ少ないからだと思います。普段から医科と歯科が連携し、シンポジウムを催すなど続けていけば、口腔ケアの重要性はもっと浸透しやすくなると思います。

「保険でより良い歯科」をめざして

吉岡 先生には「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会の世話人になっていただいています。この運動への思いをお聞かせください。
足立 授業の一環で学生をシカゴとロサンゼルスに連れて行き、地元の歯科衛生士や教員・学生らと交流したとき、うちの学生が「訪問診療には行かないのですか」と聞くと、シカゴの歯科衛生士は「なぜですか」と聞き返したんです。医療保険に入っておらず、治療費を払えない階層の人たちのところへわざわざ行く必要はないというのです。
 アメリカの歯科衛生士は歯周治療の技術は高いものがありますが、その裏側には、皆保険がないために歯科医療から切り捨てられた大勢の人々がいます。帰国した学生のレポートには「日本には国民皆保険制度があり、けっしてアメリカに劣っていない」と書いてありました。
吉岡 学生にとって歯科医療の技術だけでなく、制度についても学べた貴重な経験ですね。
足立 本当に嬉しかったですね。一方で、日本には皆保険制度がありますが、歯科ではまだまだ保険医療が不十分と言わざるをえません。
 個人的に病院歯科に従事してきた経験から言えば、例えば顎顔面補綴については、私はインプラントを保険導入すべきだと思っています。ガンの治療で顔が大きく崩れたり顎の骨をとると、咀嚼ができなくなる患者さんもいます。そういう方の口腔機能を維持するための欠損補綴には、インプラントが適しています。下顎の最後方臼歯の1歯欠損は保険でインプラントを認めるとか、前歯1本欠損でも両側はノンカリエスだったらインプラントを認めるとか、できるだけ歯を削らない方法で保険がきくようにすべきではないかと思います。
 安全性が確立し、一般に普及された歯科医療を保険収載し、すべての国民が良質の歯科医療を受けられるようにすることは、健康長寿を実現する上で極めて大切なことです。
吉岡 ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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