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兵庫保険医新聞

2011年1月05日(1643号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 隠岐 充啓先生の巻 真剣を握れば 無心に

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待合室でもある道場で居合を披露する
隠岐先生。鋭い目つきで仮想敵を見つめる

 室町時代から続く日本古来の武術、居合を、40年以上続けている東灘区・隠岐医院の隠岐充啓先生に、多田梢副理事長が魅力を聞いた。

居合...敵の不意の攻撃に対し、一瞬をおかずに刀を抜き、敵に乗ずる隙を与えないで勝つ剣技。室町時代、奥州出羽の国に生まれた林崎甚助重信を祖とし、現代居合道の主流である無双直伝英信流、夢想神伝流ほか、多数の流派が派生した。
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聞き手 多田 梢副理事長
仮想敵との戦いを表現

 多田 和風の待合室は、道場にもなるんですね。早変わりして驚きました。
 隠岐 なかなかいいでしょう。普段は診療後、週2日ポートアイランドの稽古場に通って練習しているのですが、開業の際に、医院でも練習できるようにと工夫したんです。
 多田 居合を生で見たのは初めてです。先生の優しく温厚なお顔が、剣を持った途端、きりっと引き締まり、とても素敵でした。
 隠岐 ありがとうございます。居合は、室町時代から続く日本独自の武術です。剣道と違い、真剣を使って一人で行うのが特徴です。流派もさまざまあり、私は無双直伝英信流です。
 多田 対戦ではなく、一人で行うんですね。
 隠岐 ええ。仮想敵と言い、敵を想定した型が組み立てられています。順番にご説明しますと…
(真剣を握り、型を披露)
 まずは「刀礼」、刀を床に置いて礼をします。各々技は、これから敵が正面から攻撃してくるという想定です。どこを切るかが決まっていて、この場合、敵の目をパッと切ります。
(抜刀し、右から左へ水平に切りつける)
 切ったら終わりではありません。気を抜かず、相手が起き上がってきたときに備えて構えます。これを「残心」と言います。そして、気を張ったまま、刀についた血をふるい落とす動作「血振り」をし……納刀。納刀は、攻められたら反撃できない一番危ない瞬間です。だから、すばやく行うことが肝要です。
 多田 わぁ!(拍手)
 隠岐 これが一番基本の型で「横雲」と言います。その他、全部で43の型があります。
 多田 型の想定は、攻められた場合ばかりですか。
 隠岐 ほとんどそうですね。隣に座っている敵に攻められたとき、狭い路地の場合など、多様な場面があり、綿密に動きが決められています。変わったものでは、だまし討ちのような型もありますよ。実際やってみせますと…
 (床に正座して)まず相手と対座しているという想定で、おじぎをします。相手もおじぎで顔を伏せたところを、すかさず腰にさしてある刀剣を抜いて、パッと切る。これは「上意討ち」と言って、主君から相手をしとめて来いと命が下った想定です。
 多田 面白いですね!
 隠岐 そうでしょう。知らない人には、ただ刀を振り回しているだけに見えるかもしれませんが、いかに敵の動きまで見えるよう表現するか。日々の鍛錬の積み重ねです。
 多田 抜刀と納刀以外は、ゆっくりした動きに見えますが、汗びっしょりになられていて、集中力と体力が必要になるんですね。
 隠岐 そう、短い時間でも消耗しますよ。

緊張感が何よりの魅力

 多田 居合を始められたきっかけは。
 隠岐 大学のオリエンテーションで居合のクラブを見学して、真剣を使うし面白そうだな、と。高校では剣道をしていましたし、小さい頃からチャンバラが好きだったので、剣へのあこがれがあったのでしょう。大学以来、趣味として続けてきて、気がつけば40年になります。ようやく五段になり、全国あちこちである段位別の大会では優勝できるようになりましたが、まだまだ至らないところばかりです。
 多田 先生をとりこにする魅力はなんでしょうか。
 隠岐 なんといっても真剣を使う緊張感が、一番の醍醐味です。少しでも気を抜くとケガをしますから、始めたら他のことは何も考えず、集中します。診療などで、どんなに忙しいときも、真剣を握れば無心になれるんです。
 多田 普段でも、殺気を感じて体が動いたということはないですか。
 隠岐 なかなかそういうことはないですが(笑)、雑踏でも人の交わし方がうまくなりますね。居合は腰の高さのブレを嫌い、顔の位置が変わらないよう歩くので、周りがよく見えるんですよ。よく「姿勢がいいですね」とも言われます。

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自慢の愛刀もじっくり見せてもらった
コレクションの楽しみも

 多田 居合では皆、真剣を使うのですか。
 隠岐 初心者はまず木刀を使い、居合刀という模擬刀で2~3年練習した後、真剣を手にします。
 多田 真剣ですと、ケガが怖いですね。
 隠岐 私も指を切って、数針縫ったことがあります。友人が稽古中、ケガをして血だらけになり、中央市民病院に行って「刀で切った」と説明したら、やくざと間違えられたなんてことも(笑)。でも、ちゃんと集中していたら、ケガをすることはないですよ。
 多田 そういえば私も小さい頃、刀を見たことがあります。わが家に代々伝わる大事なものと聞いていたのですが、興味をもってこっそり箱を開けてみました。刃が光り、ひやっとしたのを覚えています。
 隠岐 「伝家の宝刀」、先祖伝来の刀ですね。居合をしていると、刀の良し悪し、いつの時代にどこで作られたなど、見る目が養われます。刀への愛情が湧いてきて、コレクションも楽しくなります。私は観賞用や短刀もあわせると11本持っています。
 多田 11本も!
 隠岐 ええ。大会などで、刀を観賞しあうのも楽しいんですよ。
 多田 最後に、今後の目標を教えてください。
 隠岐 最高位の八段をめざすことです。今が五段なので、長い道のりですが、じっくり続けていきたいと思っています。
 居合は、5歳から90歳まで男女問わず、同じ土俵で勝負できるのがいいところです。スタッフや患者さんにも紹介していますが、医師の先生方にもおすすめです。診療の休み時間でも一人で稽古でき、気分転換になりますし、コレクションの楽しみもあります。ぜひ始めてみてください。
 多田 本日は、ありがとうございました。

【おき みつひろ】
1949年生まれ。元鍼灸師。84年、35歳で富山医薬大学入学。2008年東灘区で開業。日本東洋医学会元指導医。漢方と鍼灸の融合治療をテーマとする
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