2011年4月25日(1653号) ピックアップニュース
新聞部インタビュー 小野市民病院副院長 松本 學先生 若い選手支え花開かせたい
聞き手 鈴田 明彦理事
スポーツに打ち込む若者をケガで挫折させたくない--。そんな思いでスポーツ外来を開いている市立小野市民病院副院長の松本學先生に、ラグビーチーム「関西ドクターズ」のチームメイトでもある鈴田明彦理事(灘区・歯科)がインタビューした。
トップアスリートから医師へ
鈴田 先生とは大学時代にラグビー部で知り合って以来、今も関西ドクターズでお世話になっています。
松本 こちらこそ。年代も診療科もばらばらな先生たちが、ジャージを着たら、上下関係も忘れて遠慮なく、ゲームに真剣になるのが楽しいですよね。私が左肩を脱臼して「医者を呼んでくれ」と言っても、皆そのままゲームして終わってから、やっと診てくれるくらい夢中で(笑)。
鈴田 先生は、ご自身がスポーツをされるだけでなく、国体に帯同されるなどスポーツドクターとしてご活躍されていますが、きっかけは何ですか。
松本 もともとは選手側でした。高校・大学と陸上の混成競技をやっていて、能力のある選手がケガでつぶれていくのをたくさん見てきました。私も高校時代、肉離れで大会出場も難しくなったことがあるのですが、佐藤整形外科という医院で親切かつ適切な治療を受けることができ、高校3年には全国インターハイで優勝できました。
鈴田 すごいですね。
松本 その後、メキシコオリンピックを狙い、慶応大学に進学したのですが、残念ながら最終予選までで出場はかないませんでした。そこで改めて将来を考え、選手を支える医師になろうと決意したのです。
鈴田 それで、兵庫医大に入られたんですね。それだけ実績があったら、スポーツドクターとしてたくさんオファーがあるのではないですか。
松本 インターハイで知り合った選手が県の体育協会の理事をしているなど、顔見知りは多いため、今も国体の帯同などお手伝いさせてもらっています。
スポーツ外来で学生を診療
鈴田 小野市民病院でも、スポーツ外来を設置されているんですね。
松本 ええ。学生を中心に金曜日15時半から予約制でスポーツ選手を診ています。小野市は小さい街ですが、陸上オリンピック選手の小林祐梨子選手の出身地ですし、近くには社・西脇工業とスポーツが強い高校があり、患者は近隣の学生が中心です。
鈴田 一口にスポーツ外来と言っても、競技特性がありますから難しくありませんか。
松本 私は、陸上・ラグビー・サッカーなどが専門ですが、アーチェリーやダンスなど、知らない競技の選手が来た時には、患者さんに教えてもらいながら治療します。たとえばアーチェリーでは、矢が風に負けないようにするため、より強い弓に変えて無理をしてフォームが崩れてしまうと、肩や手首を痛めることがあるとか。そうやってさまざまな競技を、私が勉強させてもらっています。
鈴田 歯科では、スポーツ選手にマウスガードを作ることがあります。ラグビーと空手なら、噛みしめて力がかかる部位が違うので、競技によって厚みを変えるなど、奥が深いようです。
松本 最近、阪神の藤川球児投手などメジャーな選手がつけるようになって、マウスガードの認知度も上がっていますね。
若い選手の力 伸ばせるよう
鈴田 スポーツ外来の患者は主に学生ということですが、皆、プロやインターハイを目指しているようなトップ選手でしょうか。
松本 そんなことはありません。確かにスポーツの頂点というと、オリンピックや世界大会になりますが、どんなレベルでも、選手みんなが咲かせるべき自分の花を持っていると、私は思っています。それが小さい花でも、その人があきらめずに持っている力を出しきり、花を咲かせるお手伝いをしたいのです。
鈴田 ケガをしても、選手はつい無理しがちですね。特に、若いうちは。
松本 ええ。でも、若い学生のうちに、医者のかかり方やケガとの付き合い方を知ってもらい、故障で挫折する選手がいなくなれば、選手の才能が花開くと思うんです。
鈴田 選手経験のある松本先生には、相談もしやすいでしょう。
松本 今年いくつ試合があり、一番大事な試合はどれかなどじっくり聞き、そこから逆算して、治療方法や出場する試合を一緒に考えていきます。ある高校では、スポーツ手帳を作って、傷害の診断名や状態、してはいけないことを書き、コーチと親に見てもらって、疑問を書いてもらう。そして、また私が回答する…と治療計画を共有する工夫もしています。個人情報ということでは問題もあるかもしれませんが、情報の共有も大切です。無理をせず、長期的に治療計画を立てれば、多くのケガは1年あれば復帰できることが多いです。
鈴田 丁寧に相談しながら、選手も安心して治療できますね。
松本 ケガが見つかれば、医師は杓子定規に「絶対安静」と言ってしまいがちです。しかし、3年間一生懸命に部活を続けてきて、最後の試合前にケガした子にそう言えるか。プロ志望なら、長期的展望を持ち我慢しようと説得しますが、卒業後はもう競技を続けず本当に最後だという場合、本人やコーチらと相談の上でOKを出すこともあります。選手にのめりこみすぎなのかもしれませんが、競技にかける思いが分かるだけに、一律にダメとは言いたくないんです。
合併で救急対応の中核病院に
鈴田 先生からよく小野市民病院のお話を聞いていたので、本日病院にお邪魔でき、うれしいです。住民目線のあたたかい病院ですね。もうすぐ三木市民病院と合併して新しい病院ができると聞いたのですが。
松本 ええ。小野市民病院は、スポーツ外来以外にも小児救急や形成外科に力を入れています。ただ、医師数が36人と少なく、麻酔科がないため、救急対応が難しいのが課題です。そのため、三木市民病院と合併し、2013年に450床の病院ができる予定です。ヘリポートとER体制を持つ2・5次救急の病院です。
鈴田 救急対応が強化されるんですね。
松本 そうですね。麻酔科の先生も神戸大学が派遣してくれることになり、医師も患者さんも従業員も、皆をひきつけるようなマグネットホスピタルというのがコンセプトです。
鈴田 地域密着型の中核病院ということですか。
松本 ええ。やはり患者さんからは、24時間いつでも何でも診てもらえる病院が望まれていると思いますので、院長も私も、病院全体で力を入れていきたいと思っています。
鈴田 病院とスポーツ外来の今後が楽しみです。また、今後も関西ドクターズではよろしくお願いします。
松本 こちらこそ、よろしくお願いします。スクラムを組んでがんばっていきましょう。
鈴田 本日は、ありがとうございました。