2011年5月15日(1654号) ピックアップニュース
燭心
憲法記念日の朝、オサマ・ビンラディンが米特殊部隊の手で殺害されたとのニュースを聞いた。底なし沼をのぞき込むような暗い光景を感じたのは、私だけだろうか?▼6年前にニューヨークに行った折、9・11の現場を訪れた。グラウンド・ゼロと呼ばれるその地は、当時はまだ傷跡がえぐれたままの状態で、たくさんの花束が添えられていた。フェンス越しに見た光景がよみがえった。あれから、アフガン、イラクと続く長い連鎖が始まったのだ▼罪のない多くの市民が、飛行機の乗客ともども犠牲になった。突然、肉親を奪われ、日常生活を破壊された人々の悲しみや怒りはいかほどか。ビンラディンの犯した行為は絶対に許し難いものである。しかし、アフガン、イラクの市民を犠牲にしたこの10年のアメリカの行為もまた、同様ではなかったか。ニュースの日、彼の地では歓声があがり、他方の地では報復を誓う声があがったという。憎しみの連鎖の音がする▼がれきの山の前で悲しみにくれる人たちは、私たちの目の前にもいる。先日、東北の現地を訪れた。私たちの16年前の記憶がよみがえる光景が広がっていた。しかし、そこには人々の助け合いの連鎖がある▼ニューヨークでは「憎しみの連鎖を断ち切ろう」と訴える9・11の遺族の方々にも出会った。私たちの国には武力行使を禁じる憲法があると話した時の、ちょっと誇らしい気分を思い出した。そう、希望の連鎖を作り出していくのは私たちだ(星)