兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2011年10月05日(1667号) ピックアップニュース

燭心

 東日本大震災後、初めて東京を訪れた。節電PRによる、少し明るさの落ちた街や、止まったままのエスカレーターを覚悟していたのだが、杞憂に終わった。40階の窓から見る夜景は、台風後の澄み切った空気のせいか、くっきりと美しかった▼上京の目的は、バイエルン国立オペラを観ることだった。半年前から2演目の切符を手に入れた。震災後、一時は多くのアーティストの来日が危ぶまれたが、キャスティングの多少の変更で予定通り開催▼この日の演目は、ワーグナーの「ローエングリン」。リチャード・ジョーンズの演出である。白鳥の騎士「ローエングリン」が青いTシャツを着て、白鳥を抱いて登場する。大工という設定である。エルザ姫が作業用ズボンを着て、レンガの積み上げ作業をしている。かなり思い切った演出だとは聞いていたが、唖然とした。2009年7月5日、ミュンヘン・オペラ祭でジョーンズ演出のこのオペラの初演後、観客の激しい怒号で劇場が揺れたという。むべなるかな▼オーケストラも指揮も歌手も申し分なく、舞台装置と衣装を見ると、目を閉じて聴いていた。中世のロマンティックな伝説の情景を想像しながら▼しかし、帰宅途上の新幹線の車中で考えた。甘美で陳腐なローエングリンなら、いつでも観ることができる。ジョーンズの挑戦的な演出に出会えたことは、幸運だったと。もうひとつの演目、「ナクソス島のアリアドネ」の演出も楽しみになってきた(硝子)

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