兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2011年10月05日(1667号) ピックアップニュース

会員インタビュー 小田泰史先生(西宮市) 女子サッカー なでしこジャパン 勝利"噛みしめる"選手の歯をケア

1667_06.jpg

小田先生(左)と田中先生(右)が
掲げているのは、INAC神戸と、
なでしこジャパンのサイン入り
ユニフォーム

 なでしこジャパンのワールドカップ(W杯)優勝の陰に口腔ケアあり--。出場選手のほぼ半数を要する「INAC神戸」のスポンサーであり、噛み合わせや歯の治療を通じて選手たちのプレーを支えてきた小田デンタルクリニック(西宮市さくら夙川)の小田泰史先生に、Jリーグ「ヴィッセル神戸」のサポーターでもある田中孝明理事(神戸支部長)がインタビューした。

噛み合わせ調整でプレーを支える

 田中 なでしこジャパンのW杯優勝は本当に見事でした。来年のロンドンオリンピックの出場も決まり、女子サッカーのさらなる活躍が期待されますね。
 小田 本当ですね。最後まであきらめないプレーに勇気をもらいました。なでしこ人気がブームに終わらず、今後も多くの方々に女子サッカーを応援してもらえれば私もうれしいです。
 田中 先生の歯科医院では、なでしこをはじめ、多くのスポーツ選手たちの噛み合わせの調整をされているそうですね。阪神タイガースやJリーグのヴィッセル神戸、柔道、K-1の選手まで多彩だとか。
 小田 ええ。トップアスリートたちは自分のパフォーマンスを少しでも向上させるため、食事やトレーニング方法など、あらゆることを工夫しています。その一端として、私は噛み合わせなど口腔ケアをお手伝いさせていただいています。
 田中 スポーツによって噛み合わせの調整に違いはありますか。
 小田 スポーツの種類や場面ごとに使用する筋肉に違いがあるので、噛み合わせも変わってきます。プロ野球選手はマウスピースを使用しますが、選手によっては打撃用、守備用、走塁用と使い分けています。瞬発力が必要な場面、持久力が必要な場面など、用途ごとのマウスピースを、選手がしっくり感じるまで試行錯誤を繰り返しながら作ります。
 田中 サッカーの場合はどうですか。
 小田 サッカーは、コーチング(選手同士の声のかけあい)があるのと、非常に呼吸が荒くなるスポーツなので、マウスピースは苦しくて使用できません。そのため、微妙な加減で歯を削り(こすり)ながら噛み合わせを調整するんです。

1667_07.jpg

(写真:上)INAC神戸のユニフォームの左肩に記された「Oda & Head Nurse Koike Dental Clinic」のロゴ
(写真:下)院内に飾られている選手たちとの写真。左上が澤選手と小田先生。右は海堀選手と婦長

INAC神戸のスポンサーに

 田中 女子サッカーなでしこリーグのチームである「INAC神戸」のスポンサーには、どういった経緯でなられたのですか。
 小田 もともと様々なスポーツの独立リーグなどに知り合いがいて、いろいろ協力してきました。INACは去年の8月くらいにスポンサーになってくれと頼まれました。その後、澤穂希をはじめ選手たちもクリニックに患者として来るようになったんです。チームも選手も全然お金がないんですが、他チームは働きながらサッカーをしているのに対して、INACはサッカーに専念できる環境です。選手たちは「給料が少なくてお金はないけどサッカーだけで食べていけるので、ありがたいと思っているんです」と。それで「わかった! ほな協力させてもらうわ!」と、付き合いが始まりました。
 田中 選手たちの実直さとサッカーへの一途な思いに動かされたんですね。
 小田 そうなんです。今シーズンからは正式にスポンサーになりました。選手たちは「先生いいんですか。試合の様子はいっさいテレビには映らないんですけど」と。まぁ、それでもええよということで。実際、開幕戦でもテレビに映らず入場者数は300人。「うわ~、寂しいなぁ」って思いましたね。
 田中 INACのユニフォームの左肩に先生のクリニックの名前が入っていますが、文字が小さすぎて「小田歯科」ってわからなくないですか。
 小田 露出を目的にしていませんので。話のネタにはなりますが、患者は全く増えなかったです(笑)。

なでしこたちの素顔

 田中 先生のクリニックには選手たちとの写真がたくさん飾られていて、すごく仲が良さそうですね。
 小田 一緒に食事に行ったり、婦長の誕生日パーティーに選手全員が来てくれたり、仲良くさせてもらっています。うれしかったのは、リーグ開幕戦で大野忍選手が「先生、私、初ゴールを必ずとるから。そのときは先生と婦長にメッセージを送るから」と宣言して、本当に初ゴールをとったんです。スタンドで観戦していた僕らの場所も確認していて、合図を送ってくれました。あれには婦長も感激して舞い上がってましたよ。
 田中 普段の選手たちは、どんな様子ですか。
 小田 すごく礼儀正しく、素直な子たちです。皆、神戸の下町の狭くて安い部屋で、質素に暮らしています。日焼けした真っ黒な顔にノーメークで、でっかいスポーツバッグを担いで、ダボダボのトレーナーを着てクリニックに来るんです。でも、ひとたびピッチに立てばすごくカッコいいんです。魅力的ですよね。人間もよくできていて、純粋で汚れていません。本当にサッカーが好きな子たちなんです。
 田中 陰で応援してきたINACやなでしこジャパンが大ブレイクして、小田先生にとってはうれしい反面、複雑な心境なのでは。
 小田 確かに遠くに行ってしまった感もありますが、彼女らはまったく天狗にはならなかったですね。「また治療おいでや~」「は~い」っていう感じで。W杯決勝戦のとき、「がんばれよ」ってメールしたら川澄奈穂美選手から「今、待機中です。死ぬ気でがんばります。絶対勝ちます」と普通に返ってきたので、ビックリしました。国民栄誉賞受賞の生放送中に選手たちに電話してみたんです。誰も出なかったので、留守電に「受賞おめでとー!」って入れておいたら海堀あゆみ選手から後でかかってきて、「46歳の歯科医が、しょうもないことせんといてください!」と、たしなめられました(笑)。

女子サッカーの将来展望は

 田中 今季のINACはリーグ全勝中で好調です。
 小田 なにせ今季は代表メンバーが7人もいますからね、相当強いですよ。
 田中 男子の場合はW杯で盛り上がって帰ってきてもJリーグの観客数は変わらなかったんですけど、女子は、なでしこリーグも一気に入場者数が増えましたよね。観ている人の層がJリーグと違うのかなという気がしました。
 小田 そうなんです。家族連れや、おじいちゃん、おばあちゃんなんかが、やっぱりブームに乗って観に来ているんでしょうね。本当にサッカーが好きな人って、女子ではなく、男子を観ると思うんです。でも、観に来ていただくきっかけは何でもいいんです。せっかく神戸になでしこジャパンの選手が7人もそろっているのですから、「W杯MVPになった澤選手を見たい」とか(笑)。
 田中 女子もパス回しとか華麗ですけどね。
 小田 もちろん上手さはありますが、継続して会場に足を運んで応援してもらうにはどうすればいいか、これから真剣に考えなければいけないでしょうね。
 田中 先生ご自身はスポーツはされないんですか。
 小田 学生時代はボクシングと日本拳法をしていましたが、今は一切していません。田中先生はサッカーをされているんですよね。ポジションはどこですか。
 田中 フォワードです。あまり動けませんが(笑)。
 小田 いいですねぇー。僕も急造チームを作るんで、ぜひ一緒に試合しましょうよ。ただし僕は監督役で。申し訳ないですが、田中先生を徹底マークさせていただきます。
 田中 どうぞお手柔らかに(笑)。本日はありがとうございました。

小田泰史先生ご講演 “なでしこ”を世界一に導いた歯医者さんのお話
日 時 2012年2月19日(日)15時~
会 場 保険医協会会議室
主 催 保険医協会神戸支部
お申し込み
お問い合わせ
電話078-393-1817 田村まで
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方