2011年11月25日(1672号) ピックアップニュース
燭心
今月14日は世界糖尿病デーだった。まだ広く知られてはいないようだが、インシュリン発見者のフレデリック・バンティングの誕生日にちなんで2006年に国連が定めた。今年はインシュリン発見から90周年にあたる。日本でも東京タワーや通天閣などがシンボルカラーの青でライトアップされた▼手元に岩波書店の『インシュリン物語』がある。学生時代に読んだ本だからすっかり黄ばんでいるが、中身はまだ新鮮で感動的だ。当時、恐ろしい死の病だった糖尿病の究明に取り組む2人の若者の物語だ▼1921年の夏、医学部長に頼み込んで夏季休暇の間だけ借りた研究室の片隅での悪戦苦闘は物語に詳しい。後にノーベル賞を受けることになるが、なぜか相方のチャールズ・ベストが選にもれた。バンティングが即座に賞金の半分をベストに分けると声明したエピソードも残されている▼話は変わるが、保険医協会の休業保障審査委員をしていて、糖尿病が理由の休業が多いことに驚かされる。開業医特有の多忙やストレスも引き金になっているのだろう。バンティングらのおかげで糖尿病は死の病ではなくなったが、私たちの生活に大きな影響を与える病気であることに違いはない▼先の国連決議でも発展途上国での患者の急増が危惧されている。グローバリズム、貧困や格差の問題が見え隠れする。和食の良さが見直されているという。TPPが話題の昨今だが、食文化や健康という面からもよく考えてみたい(星)