2012年7月25日(1693号) ピックアップニュース
政策解説 「社会保障制度改革推進法案」って何? 社会保障を解体 消費税増税しても給付は削減
消費税増税法案とともに、「社会保障制度改革推進法案」(以下、推進法案とする)が強行採決され、6月26日衆議院を通過した。この法案は、民主、自民、公明の3党が合意して、国会に突如提出したもの。自民党の要求に民主党が屈したとされているが、実態は昨年5月に厚労省が発表した「社会保障制度改革の方向性と具体策について」で、「共助を重視した社会保障の機能強化」など、今回の推進法案と同じ方向が打ち出されており、民主党政権の目線も同じと言える。その内容は憲法25条を骨抜きにするためのロードマップであり、国民だましの落とし穴が幾重にも仕込まれている。資料に掲載した原文(下記・一部割愛)をぜひともお目通しいただきたい。
社会保障給付費が年々増加していることは事実である。しかし、もともと低すぎる社会保障費が、高齢化とともに自然増になっているにすぎない。日本の経済力と対比した社会支出は、現在も先進国中最低水準である(図1)。先進国最低水準の社会保障費が、財政悪化の主犯などというのは、冤罪というべきである。
財政を悪化させている最大の原因は、税収自体が大幅に減少していることである。1990年に50兆円あった税収は、2010年にはわずか30兆円にダウンし、20年間に20兆円も減少した。その間、GDPは452兆円から479兆円へと、増加しているにもかかわらず、税収は逆に6割にまで落ち込んでいる(図2)。
その一番の原因は、政府自身が「小さな政府」をめざし、新自由主義政策をとり、法人税率引き下げと金融資産優遇の税制改革を行ったことである。大企業はそのおかげで266兆円もの内部留保金をため込むことができたのである。
所得の再配分ができず低所得者ほど負担が重くなる消費税は、社会保障の財源としてもっともふさわしくない。
消費税増税で国民に苦痛を与えておいて、消費税の苦痛か、社会保障の削減かという、「二者択一」を国民に迫ろうというのだ。
法案は、「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援」することが国家の責任であるとしている。
しかし、社会保障を規定した憲法25条には、「家族相互」や「国民相互」などという言葉は存在しない。なぜそのような言葉が、改革のキーワードとして登場するのか。これが、基本的人権保障として社会保障から、戦前並みの「相互扶助」への歴史的逆行であることは明らかである。
例えば、戦前の国保法(1938年)は、第1条で「国民健康保険ハ相扶共済ノ精神ニ則リ疾病...ニ関シ保険給付を為ス」として、「相扶共済」を明記していた。しかし、1958年に新しい国民健康保険法ができたとき、第1条から「相扶共済」は削除され、「国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と書き改められた。「相互扶助」から「社会保障」へが、世界と日本の歴史の到達なのである。
今回の「推進法案」は、まさに戦前並みに「相互扶助」を復活させようというものにほかならない。それは国家責任からの逃避であり、社会保障を解体させる憲法違反の道である。
社会保障のための消費税増税をうたい国民を欺きながら、同時にこのような「改革推進法」で、社会保障の解体をめざそうというのが、政府と民自公3党のもくろみなのである。推進法案は憲法25条を空洞化させ、国民皆保険医療を限りなく後退させる法案である。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、近年の急速な少子高齢化の進展等による社会保障給付に要する費用の増大及び生産年齢人口の減少に伴い、社会保険料に係る国民の負担が増大するとともに、国及び地方公共団体の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化していること等に鑑み、所得税法等の一部を改正する法律(平成二十一年法律第十三号)附則第百四条の規定の趣旨を踏まえて安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るため、社会保障制度改革について、その基本的な考え方その他の基本となる事項を定めるとともに、社会保障制度改革国民会議を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。
(基本的な考え方)
第二条 社会保障制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。
二 社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行い、税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現すること。
三 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすること。
四 国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点等から、社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本的な考え方にのっとり、社会保障制度改革に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(改革の実施及び目標時期)
第四条 政府は、次章に定める基本方針に基づき、社会保障制度改革を行うものとし、このために必要な法制上の措置については、この法律の施行後一年以内に、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議における審議の結果等を踏まえて講ずるものとする。
第二章 社会保障制度改革の基本方針
(公的年金制度)
第五条 政府は、公的年金制度については、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとする。
一 今後の公的年金制度については、財政の現況及び見通し等を踏まえ、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。
二 年金記録の管理の不備に起因した様々な問題への対処及び社会保障番号制度の早期導入を行うこと。
(医療保険制度)
第六条 政府は、高齢化の進展、高度な医療の普及等による医療費の増大が見込まれる中で、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)その他の法律に基づく医療保険制度(以下単に「医療保険制度」という。)に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとする。
一 健康の維持増進、疾病の予防及び早期発見等を積極的に促進するとともに、医療従事者、医療施設等の確保及び有効活用等を図ることにより、国民負担の増大を抑制しつつ必要な医療を確保すること。
二 医療保険制度については、財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等を図ること。
三 医療の在り方については、個人の尊厳が重んぜられ、患者の意思がより尊重されるよう必要な見直しを行い、特に人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備すること。
四 今後の高齢者医療制度については、状況等を踏まえ、必要に応じて、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。
(介護保険制度)
第七条 政府は、介護保険の保険給付の対象となる保健医療サービス及び福祉サービス(以下「介護サービス」という。)の範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るとともに、低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制しつつ必要な介護サービスを確保するものとする。
(少子化対策)
第八条 政府は、急速な少子高齢化の進展の下で、社会保障制度を持続させていくためには、社会保障制度の基盤を維持するための少子化対策を総合的かつ着実に実施していく必要があることに鑑み、単に子ども及び子どもの保護者に対する支援にとどまらず、就労、結婚、出産、育児等の各段階に応じた支援を幅広く行い、子育てに伴う喜びを実感できる社会を実現するため、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための即効性のある施策等の推進に向けて、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
第三章 以下略(傍線は編集部)
国民をあざむく四つの落とし穴
(1)財政悪化の責任を社会保障に転嫁
落とし穴の第1は、「目的」で「国の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化している」と描き、給付の削減を堂々と掲げていることである。つまり、社会保障を財政悪化の主犯に仕立て上げているのである。社会保障給付費が年々増加していることは事実である。しかし、もともと低すぎる社会保障費が、高齢化とともに自然増になっているにすぎない。日本の経済力と対比した社会支出は、現在も先進国中最低水準である(図1)。先進国最低水準の社会保障費が、財政悪化の主犯などというのは、冤罪というべきである。
図1 社会支出の国際比較(対GDP比)
その一番の原因は、政府自身が「小さな政府」をめざし、新自由主義政策をとり、法人税率引き下げと金融資産優遇の税制改革を行ったことである。大企業はそのおかげで266兆円もの内部留保金をため込むことができたのである。
図2 国内総生産(GDP)と主要3税合計の推移
(2)一般会計からの支出を 限りなく削減
第2の落とし穴は、「基本的な考え方」で「主要な財源には、消費税収入を充てる」としていることである。社会保障のためなら消費税増税に賛成するという善意の人を取りこもうとするもくろみが明白である。これは「主要な」というところがミソで、逆に言えば一般会計からの支出を限りなく削ろうとする狙いが込められているのである。所得の再配分ができず低所得者ほど負担が重くなる消費税は、社会保障の財源としてもっともふさわしくない。
(3)納税者の「痛み」を理由に「給付削減」
第3の落とし穴は、給付の「重点化」や「効率化」 (実態は混合診療の導入や医療保険の定額負担増導入) と称して、あからさまな給付削減を掲げているのだが、それを国民の要求のように描いていることである。いわく「税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現する」というものである。消費税増税で国民に苦痛を与えておいて、消費税の苦痛か、社会保障の削減かという、「二者択一」を国民に迫ろうというのだ。
(4)社会保障から相互扶助へ逆行
第4の落とし穴は、こうした社会保障給付の削減が憲法に違反していると非難されないよう、社会保障の理念を変質させていることである。法案は、「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援」することが国家の責任であるとしている。
しかし、社会保障を規定した憲法25条には、「家族相互」や「国民相互」などという言葉は存在しない。なぜそのような言葉が、改革のキーワードとして登場するのか。これが、基本的人権保障として社会保障から、戦前並みの「相互扶助」への歴史的逆行であることは明らかである。
例えば、戦前の国保法(1938年)は、第1条で「国民健康保険ハ相扶共済ノ精神ニ則リ疾病...ニ関シ保険給付を為ス」として、「相扶共済」を明記していた。しかし、1958年に新しい国民健康保険法ができたとき、第1条から「相扶共済」は削除され、「国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と書き改められた。「相互扶助」から「社会保障」へが、世界と日本の歴史の到達なのである。
今回の「推進法案」は、まさに戦前並みに「相互扶助」を復活させようというものにほかならない。それは国家責任からの逃避であり、社会保障を解体させる憲法違反の道である。
社会保障のための消費税増税をうたい国民を欺きながら、同時にこのような「改革推進法」で、社会保障の解体をめざそうというのが、政府と民自公3党のもくろみなのである。推進法案は憲法25条を空洞化させ、国民皆保険医療を限りなく後退させる法案である。
社会保障制度改革推進法案
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、近年の急速な少子高齢化の進展等による社会保障給付に要する費用の増大及び生産年齢人口の減少に伴い、社会保険料に係る国民の負担が増大するとともに、国及び地方公共団体の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化していること等に鑑み、所得税法等の一部を改正する法律(平成二十一年法律第十三号)附則第百四条の規定の趣旨を踏まえて安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るため、社会保障制度改革について、その基本的な考え方その他の基本となる事項を定めるとともに、社会保障制度改革国民会議を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。
(基本的な考え方)
第二条 社会保障制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。
二 社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行い、税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現すること。
三 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすること。
四 国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点等から、社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本的な考え方にのっとり、社会保障制度改革に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(改革の実施及び目標時期)
第四条 政府は、次章に定める基本方針に基づき、社会保障制度改革を行うものとし、このために必要な法制上の措置については、この法律の施行後一年以内に、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議における審議の結果等を踏まえて講ずるものとする。
第二章 社会保障制度改革の基本方針
(公的年金制度)
第五条 政府は、公的年金制度については、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとする。
一 今後の公的年金制度については、財政の現況及び見通し等を踏まえ、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。
二 年金記録の管理の不備に起因した様々な問題への対処及び社会保障番号制度の早期導入を行うこと。
(医療保険制度)
第六条 政府は、高齢化の進展、高度な医療の普及等による医療費の増大が見込まれる中で、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)その他の法律に基づく医療保険制度(以下単に「医療保険制度」という。)に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとする。
一 健康の維持増進、疾病の予防及び早期発見等を積極的に促進するとともに、医療従事者、医療施設等の確保及び有効活用等を図ることにより、国民負担の増大を抑制しつつ必要な医療を確保すること。
二 医療保険制度については、財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等を図ること。
三 医療の在り方については、個人の尊厳が重んぜられ、患者の意思がより尊重されるよう必要な見直しを行い、特に人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備すること。
四 今後の高齢者医療制度については、状況等を踏まえ、必要に応じて、第九条に規定する社会保障制度改革国民会議において検討し、結論を得ること。
(介護保険制度)
第七条 政府は、介護保険の保険給付の対象となる保健医療サービス及び福祉サービス(以下「介護サービス」という。)の範囲の適正化等による介護サービスの効率化及び重点化を図るとともに、低所得者をはじめとする国民の保険料に係る負担の増大を抑制しつつ必要な介護サービスを確保するものとする。
(少子化対策)
第八条 政府は、急速な少子高齢化の進展の下で、社会保障制度を持続させていくためには、社会保障制度の基盤を維持するための少子化対策を総合的かつ着実に実施していく必要があることに鑑み、単に子ども及び子どもの保護者に対する支援にとどまらず、就労、結婚、出産、育児等の各段階に応じた支援を幅広く行い、子育てに伴う喜びを実感できる社会を実現するため、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための即効性のある施策等の推進に向けて、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
第三章 以下略(傍線は編集部)