兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2012年8月05日(1694号) ピックアップニュース

姫路市夢前町に日本最大規模の産廃処分場計画 協会が視察 美しい環境破壊 許せない

1694_04.jpg

建設予定地(左手奥)を視察した(右2人目から)宗実・清水・松浦・森岡各先生、山中先生(左2人目)、入江(中央奥)、山本(中央手前)市議

 自然豊かな姫路市北部の夢前町で、産業廃棄物最終処分場の建設計画が進められ、地元住民らが反対運動に立ち上がっている。協会環境・公害対策部と姫路・西播支部は6月24日、建設予定地、および姫路市内にある同種の安定型処分場を訪問し、現地視察した。環境・公害対策部から森岡芳雄理事、山中忍評議員、姫路・西播支部から宗実琴子支部長、清水映二副支部長および夢前町・松浦診療所院長の松浦伸郎先生が参加。松浦先生の呼びかけで、姫路市議会で同問題を追及してきた入江次郎市議、夢前町在住の山本博祥、東影昭両市議、地元住民らでつくる「夢前町の自然を愛する会」のメンバーや自治会長も同行した。




素掘りの穴に直接投棄
 建設計画は、姫路市夢前町に産廃業者が「安定型産業廃棄物処分場」を建設するというもの。
 処分場の埋め立て面積は約12万㎡で甲子園球場の約10倍、埋め立て容積は約500万m³。西日本最大級となる。地元も「合意済み」として、業者は兵庫県・姫路市に建設許可を申請している。
 しかし、夢前町に住む松浦先生は「計画はほとんど誰も知らなかった。一部の自治会の役員と業者だけが話をし、協定書を取り交わしてしまった」として、「夢前町の美しい環境が処分場により破壊されてしまい、今後、住民の健康に害を及ぼすのでは」と懸念している。
 住民に説明がないまま計画が進んでいった背景には、06年に夢前町が姫路市と合併し、町の声が行政に届きにくくなったこともある。松浦先生は、「合併前なら、町議会でストップがかかり、認められなかっただろう」と話した。
 建設予定の「安定型産廃処分場」とは、「安定5品目(廃プラスチック、ガラス・コンクリート・陶器くず、がれき類、ゴムくず、金属くず)」のみを廃棄するもの。これら5品目は、化学的に安定し有害物質を含まないとされているため、廃水処理をせず、素掘りの穴に廃棄物を直接投棄する。
 しかし、入江市議は「5品目とその他を厳密に分別することは不可能。全国各地で安定型処分場の建設に対し反対運動が起こり、相次いで建設計画差し止め判決が出されている。日本弁護士連合会が2007年に『安定型産業廃棄物最終処分場が今後新規に許可されないよう求める意見書』を提出している」などと指摘した。
同種の処分場「悪臭ひどい」

1694_05.jpg

同種の宮ケ谷安定処分場(奥)も視察(山中先生撮影)

 一行は、すでに建設されている同種の処分場として、姫路市打越にある宮ヶ谷安定型処分場(地図<2>、右写真)を訪問した。姫路市東部山間で、田が広がるなかにある。夢前町で建設計画を進める成臨興業が同じく運営している。
 この処分場は、容積約50万m³で、受け入れ物質は5品目のうち、金属くず、ゴムくずを除く3品目。25年前に建設され、現在も埋め立てが続いている。
 「安定型」の名目にもかかわらず、昨年9月には、10トントラック10台分の木くずや紙くずなど、埋め立て禁止品目である有機物の混入が確認され、撤去するよう行政指導されている。禁止品目がそのまま埋め立てられていれば、メタンガスなどの可燃性ガスが発生する可能性があったと、姫路市も認めている。
 近くの住民は、「悪臭がひどかったため姫路市に通報し、異物混入が分かった。ここ数年廃棄物の内容を検査しないまま搬入し、埋め立て禁止品目も埋め立てていたようだ。大型ダンプなどが頻繁に出入りし、騒音や振動もひどい。この周辺はすべて田んぼだから、これからどんな影響があるか、考えると非常に怖い」と不安を語った。
 しかし、本年2月に開催された夢前町での住民説明会では、業者は「これまで異物の混入などない」「悪臭などの苦情もない」との説明を行っていたことが明らかになっている。
流域全体に汚染の危険
 一行はこの後、建設予定地を訪問(地図<1>)。建設予定地までの道路脇や田には、「巨大ゴミ処分場建設反対!」ののぼり旗が並んでおり、住民のなかでも計画に対し反対の声が広がっていることがわかる。
 荒神山のふもと、夢前川のすぐ横に建設予定地がある。埋め立てが完了すると、200メートルの高さまで達し、谷一つが廃棄物で埋まってしまうことになる。参加者は、甲子園球場10個分という処分場計画の規模の大きさを実感した。
 山本市議は「ある地域に処分場が一つできると、次々に処分場が増えている実態を懸念している。廃棄物のうち、姫路市のものは1割だけ。あとは外部のゴミを受け入れる。それでいいのか」と疑問を語った。
 さらに、この計画地から約500メートルの距離には、岡浄水場(地図<3>)があり、約4000世帯に水が供給されている。
 入江市議は「岡浄水場は処分場計画地より若干上流にあるものの、取水地点の標高が処分場の排水地点より低く、わずか500メートルの距離なので、飲料水汚染の危険は高い。さらに、下流6キロメートル地点にはもう一つ置本浄水場(地図<4>)があり、川は姫路市内を縦断して瀬戸内海へ注いでいる。過去の例では、今回建設予定の40分の1の大きさの施設でも、5キロメートル下流に浄水場があり、建設が差し止めになっている。神戸市西区の産廃最終処分場群の下流にある明石川で、発がん性物質トリハロメタンが管理目標数値ぎりぎりまで上昇し、明石市が神戸市に放流停止を求めている。この神戸の処分場4カ所の容積をあわせても510万m³。夢前は一カ所で500万m³。汚染は、下流まで広がる可能性が高い」と指摘した。
16自治会中心に「愛する会」
 視察後に行われた意見交換会は、「夢前町の自然を愛する会」メンバーの若い母親たちも加わり、総勢21人が車座になって、産廃処分場について抱える不安や疑問を率直に交換した。
 地元16自治会を中心に「夢前町の自然を愛する会」を立ち上げた山本弘会長は「昨年入江議員の市議会での質問を聞き、子どもたちや孫たちの未来を考え、建設中止の可能性がわずかでも残っているのなら、皆で力をあわせていこうと呼びかけた。のぼり旗を作り、署名をはじめ、5月末までに1万276筆を姫路市へ提出している。その後さらに署名が増え、夢前町の人口を超える2万筆超となっている。6月10日には夢前川河川敷で集会も開き、約600人の方々が集まった」と運動の広がりを紹介し、署名を軸として、さらに幅広い住民へ広げていきたいと語った。
 「会」のメンバーで小さな子どもを持つ母親は「子どもを持つ私たちの世代が抱えている問題。まだご存知ない方にも、どれだけ負の遺産を残すのか知ってもらい、反対の運動に勢いをつけていきたい。ご協力お願いします」と涙ながらに訴えた。
 東影市議は「本当は反対だが仕方なく同意した方も多い。反対・賛成でわかれず、皆で話し合っていかなければ」と夢前町が一致して取り組む必要があると強調。地元自治会長からも、きちんと情報が知らされなかった経過や「決まったこと」と強引に合意が進められた実態が語られた。
 参加した協会役員らも次々に発言し、森岡先生は、「地元が運動の芯になっていくことが不可欠。灘区の神鋼火力発電所建設の反対運動に関わってきたが、大気汚染による被害範囲は広いのに、行政が『地元』の範囲を制限し、運動が広がらない」と述べ、汚染物質が流れる下流域も他人事ではない、「地元」として運動を広げていくことが大事だと強調した。
 山中先生は、香川県小豆島でダム建設問題に取り組んできた経験から、「無記名のアンケート調査が住民意見を反映するのに効果的」とした。
 清水先生は、「問題点を、住民の方に知らせていくことが大切。松浦先生に呼びかけていただき、私たち協会も、いのち・健康を守る医師の団体として、姫路市に建設許可を出さないよう要請することを決めた」と述べ、宗実先生も「夢前川下流に住むものとして運動していかなければならないと思っている。支部でも議論し、これは問題だと会員に署名をお願いした。今、64人分が集まっている。一緒にがんばりましょう」と連帯を表明した。
 松浦先生は、「このままでは夢前町の自然が汚染され、住めない町になってしまう。何とか建設をやめていただくため、あらゆる知り合いに声をかけ、署名をお願いしている。マスコミにも呼びかけ幅広く問題を知らせるなど、さまざまな取り組みが必要だと思う」と今後の展望を語った。
 同会は7月10日・20日にも追加署名を姫路市と県当局へ提出し、署名はのべ2万3170筆に。10万筆をめざしてさらに署名を集めている。詳しくは、同会ホームページhttp://www.yumesizenai.com/まで。
1694_06.jpg
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方