2013年3月15日(1713号) ピックアップニュース
政策解説 TPP 安倍政権・自民党の5つのゴマカシ
安倍晋三首相は2月23日の日米首脳会談後に共同声明を発表。その後の記者会見で「会談で聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」とし、記者の質問に答えて「なるべく早い段階で決断したい」と事実上のTPP交渉参加を明言した。
これに対し大手新聞各紙は「安倍首相はこれで、最大の障壁をクリアしたといえる。...参加の決断を急ぐべきだ(毎日新聞)」、「『一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束することは求めない』と確認し、共同声明に盛り込んだ。この合意によって、安倍政権が交渉参加に踏み切る条件は整った(日経新聞)」と一部に関税を残すことが可能となったのだから、TPP交渉に参加をすべきだと主張している。
しかし、自民党・安倍政権のTPPをめぐる対応には五つのごまかしがある。
そもそも、TPPの問題点は関税が残せるかどうかだけではない。TPPは単なる自由貿易協定ではなく、米国企業にとって市場参入の障害とされる「非関税障壁」の撤廃が求められる協定なのである。
医療分野では、これまで以上に米国の規制緩和などを求める圧力が強くなる。具体的には、混合診療の全面解禁や株式会社による医療機関経営の解禁が求められる。実際にTPPのパイロット版と呼ばれる米韓FTAでは、日本と同様に営利病院を禁止する韓国の国民皆保険制度は対象外とされたが、「特区では対象」という一文が盛り込まれたため、六つの特区ではすでに営利病院が設立されてしまった。
また、規制緩和だけでなく、米国の求める新薬の特許権延長などによる薬価の高騰も懸念される。すでに米国とFTAを結んだ豪州では国による薬価の引き下げができなくなっているし、ヨルダンやペルーでは数十%も薬価が高騰した。
ラチェット条項は一度行った規制緩和を元に戻すことを禁ずる条項であり、米韓FTAでも大きな問題となっている。
ISD条項は、投資先の国や自治体の施策・規制によって、不利益を被ったと企業や投資家が判断すれば、国や自治体を相手取って裁判に訴えることができるという規定。米韓FTAでは韓国が裁判を恐れて、排ガス規制を昨年11月に廃止したり、郵便保険の加入限度額引き上げを断念している。
TPPでも、米韓FTAと同様に、関税とは全く関係のない分野でもアメリカの意のままに国内の政策が変更されてしまうという主権制限が行われる可能性が非常に高い。
さらに米国の担当官は日本が交渉参加表明を行っても、9月の交渉会合からしか参加できないとしている。TPPは10月のAPEC会議で交渉完了されると言われており、日本には「聖域」を残すための交渉機会さえないのが実態である。
自民党は医療関係者や国民のこうした懸念に対し、昨年の総選挙で、(1)聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対する、(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、(3)国民皆保険制度を守る、(4)食の安全安心の基準を守る、(5)国の主権を損なうようなISD条項は合意しない、(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえるとする6項目を公約として掲げていた。
しかし、自民党は参加に向けた対応を首相に一任してしまった。昨年の衆院選挙で当選した自民党議員295人のうち205人が、選挙広報に掲載した公約やメディアが行った「候補者アンケート」でTPP参加に反対しており、今回の政府自民党のなし崩しのTPP交渉参加表明は明確な公約違反である。
日米首脳会談後、安倍首相は横倉義武日医会長に電話で連絡し「米国に理解を求めた。国民皆保険は堅持した」と述べたとされるが、実際には、オバマ大統領に説明をしただけで何の確約も得ていない。しかも、安倍首相自身が国民皆保険制度を守るなどとした自民党の6項目の公約を「正確には公約ではない。めざすべき政策だ」としており、「国民皆保険制度を守る」を「公約」から、「めざすべき政策」に格下げしているのである。
今、必要なのはTPP交渉で「聖域」を求めることなどではなく、きっぱりとTPP交渉には参加はしないと明言することである。
そもそも、国会内での審議を抜きに日米会談後にTPP参加表明をしたのは安倍首相の国民の意思を軽視した独断であり、国会内での徹底追及と、7月の参議院選挙での国民の審判が求められている。
これに対し大手新聞各紙は「安倍首相はこれで、最大の障壁をクリアしたといえる。...参加の決断を急ぐべきだ(毎日新聞)」、「『一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束することは求めない』と確認し、共同声明に盛り込んだ。この合意によって、安倍政権が交渉参加に踏み切る条件は整った(日経新聞)」と一部に関税を残すことが可能となったのだから、TPP交渉に参加をすべきだと主張している。
しかし、自民党・安倍政権のTPPをめぐる対応には五つのごまかしがある。
関税の聖域はない
第1のごまかしは、関税の問題だけをとっても、安倍首相のいう「聖域」など存在しないということである。共同声明の本文では「日本が交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされる」とし、11年11月12日にTPP参加国の首脳が表明した「TPPの輪郭(アウトライン)」の達成が求められている。「TPPのアウトライン」には、関税撤廃が原則と明記されているのである。「非関税障壁」として医療が規制緩和の対象に
第2に、「非関税障壁」として、特に医療分野での規制緩和が交渉の対象となる危険性について語っていないことである。そもそも、TPPの問題点は関税が残せるかどうかだけではない。TPPは単なる自由貿易協定ではなく、米国企業にとって市場参入の障害とされる「非関税障壁」の撤廃が求められる協定なのである。
医療分野では、これまで以上に米国の規制緩和などを求める圧力が強くなる。具体的には、混合診療の全面解禁や株式会社による医療機関経営の解禁が求められる。実際にTPPのパイロット版と呼ばれる米韓FTAでは、日本と同様に営利病院を禁止する韓国の国民皆保険制度は対象外とされたが、「特区では対象」という一文が盛り込まれたため、六つの特区ではすでに営利病院が設立されてしまった。
また、規制緩和だけでなく、米国の求める新薬の特許権延長などによる薬価の高騰も懸念される。すでに米国とFTAを結んだ豪州では国による薬価の引き下げができなくなっているし、ヨルダンやペルーでは数十%も薬価が高騰した。
ラチェット条項とISD条項
第3に、非常に危険なラチェット条項やISD条項についても触れていないことである。ラチェット条項は一度行った規制緩和を元に戻すことを禁ずる条項であり、米韓FTAでも大きな問題となっている。
ISD条項は、投資先の国や自治体の施策・規制によって、不利益を被ったと企業や投資家が判断すれば、国や自治体を相手取って裁判に訴えることができるという規定。米韓FTAでは韓国が裁判を恐れて、排ガス規制を昨年11月に廃止したり、郵便保険の加入限度額引き上げを断念している。
TPPでも、米韓FTAと同様に、関税とは全く関係のない分野でもアメリカの意のままに国内の政策が変更されてしまうという主権制限が行われる可能性が非常に高い。
先発国の合意は再交渉できない
第4に、日本がこれからTPP交渉参加を表明した場合、「交渉を打ち切る権利は9カ国のみにある」、「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などとする極秘条件があることが明らかになっている。実際に後れて参加を表明したカナダとメキシコはこの条件を承諾している。さらに米国の担当官は日本が交渉参加表明を行っても、9月の交渉会合からしか参加できないとしている。TPPは10月のAPEC会議で交渉完了されると言われており、日本には「聖域」を残すための交渉機会さえないのが実態である。
自民党山形県連の総選挙ポスター
「TPP断固反対」?自民党の公約違反
第5に、TPP交渉参加は自民党の総選挙公約違反である。自民党は医療関係者や国民のこうした懸念に対し、昨年の総選挙で、(1)聖域なき関税撤廃を前提にする限り、TPP交渉参加に反対する、(2)自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない、(3)国民皆保険制度を守る、(4)食の安全安心の基準を守る、(5)国の主権を損なうようなISD条項は合意しない、(6)政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえるとする6項目を公約として掲げていた。
しかし、自民党は参加に向けた対応を首相に一任してしまった。昨年の衆院選挙で当選した自民党議員295人のうち205人が、選挙広報に掲載した公約やメディアが行った「候補者アンケート」でTPP参加に反対しており、今回の政府自民党のなし崩しのTPP交渉参加表明は明確な公約違反である。
日米首脳会談後、安倍首相は横倉義武日医会長に電話で連絡し「米国に理解を求めた。国民皆保険は堅持した」と述べたとされるが、実際には、オバマ大統領に説明をしただけで何の確約も得ていない。しかも、安倍首相自身が国民皆保険制度を守るなどとした自民党の6項目の公約を「正確には公約ではない。めざすべき政策だ」としており、「国民皆保険制度を守る」を「公約」から、「めざすべき政策」に格下げしているのである。
今、必要なのはTPP交渉で「聖域」を求めることなどではなく、きっぱりとTPP交渉には参加はしないと明言することである。
そもそも、国会内での審議を抜きに日米会談後にTPP参加表明をしたのは安倍首相の国民の意思を軽視した独断であり、国会内での徹底追及と、7月の参議院選挙での国民の審判が求められている。