2013年8月25日(1727号) ピックアップニュース
日常診プレ企画「東日本大震災 いま、被災地の課題」 被災者の生活再建すすまず 被災地の看護師・民生委員に現状をきく
仮設住宅暮らしのつづく住民の苦しみが切々と語られた
本企画は、日常診療経験交流会プレ企画「東日本大震災--いま、被災地の課題」で、岩手県一関市の菊地優子看護師と宮城県気仙沼市の民生・児童委員である小野道子氏を招いて開かれ、32人が参加した。
菊地氏は、被災地特例措置として認められた「一人訪問看護ステーション」を震災直後に立ち上げ、仮設住宅居住者などの医療・看護支援を続けてきた経験を語り、小野氏は、自身も被災し仮設住宅に居住しながら、民生委員として毎日、仮設住宅を訪問し行っている相談活動を紹介した。
両氏は、報道などでは復興が強調されているものの、津波で住居を奪われた被災者は、高台の土地が高騰し仮設住宅から出て行けず追い詰められ、精神疾患や自殺が増えており、復興からほど遠いと語った。
医療体制では、医師不足が深刻であること、宮城県では被災者の医療費窓口負担免除措置が3月末で打ち切られたことで、入院費が払えず仮設に戻ってくるなど、被災者に負担がのしかかっていることなどが紹介された。
被災地コンサート 音楽でやすらぎを
協会は7月13〜15日に被災地コンサートと生活と健康を語る会を、福島県南相馬市、岩手県一関市、陸前高田市、宮城県気仙沼市の仮設住宅など6カ所で開催した。民族音楽家のロビン・ロイド氏による演奏が行われ、仮設住宅居住者らが参加した。協会からは川西敏雄副理事長、広川恵一理事、滝本桂子・長光由紀薬科部世話人が参加した。南相馬市・大町病院では猪又義光院長らとの懇談も行った。
首相に抗議声明 〝復興予算流用やめ医療費免除復活を〟
協会理事会は7月27日、「東日本大震災被災者の医療費免除復活を求める声明」を採択し、安倍首相に送付した。復興予算が、自衛隊輸送機購入費、ベトナムへの原発輸出の調査委託費など、被災者支援とは関係のない事業に使われていることが次々と明らかになるなかで、あらためて被災者のための復興予算の実行を求めたもの。「流用」された総額は2兆円に達するとの報道を紹介し、被災地の医療費負担免除措置に要する予算は350億円、保険料減免とあわせれば1142億円であるとして、被災者の医療費負担免除措置の復活を強く求めている。
〈菊地看護師からのメール〉 でっかい防波堤よりちっちゃくても自分の家を
被災者の実態を語る
菊地看護師(左)と小野氏
震災当初から、国や周囲の皆様の恩恵をたくさんいただいてきた負い目。同じ被災者や周囲から、天災じゃないかと言われればそれまで。「2・5年間も助けられてきたじゃないか、これからは自立を考えよ」。確かにそう...もう何も言えません。
しかし現実は復興どころか復旧すら全く進んでいません。当初は周囲がマスコミが騒ぎました。今はそれも激減し、まさに見捨てられたゴーストタウンです。
外出も減り、3畳と4畳半の部屋に閉じこもる生活が増え、孤独死が目立ちます。市では内密に処理し突然死と報告され、本当の病名は分かりません。確かに食生活の乱れによる脳梗塞・心筋梗塞もあるかもしれませんが、それはほんの一部で、8割以上が絶望による自殺と震災関連死だと聞いています。
精神科に通院している患者さんも自己負担(3割)が大きく、通院を止め薬も止めてしまっている状況です。今後、ますます精神状態が不安定になることを予測し、民生委員の小野道子さんは、腰痛を我慢しながら、心配な人の部屋を回って歩いています。せめて自分の担当仮設から自殺者を出したくない一心で、見守りをしています。
復興税が成立しましたが、どこに何に使われるのか? 優先順位は? 皆目検討が付きません。
宮城県は、被災3県で1県だけ、医療費の自己負担免除措置を3月で打ち切りました。村井知事には、たかが1割かも知れません。
しかし、「一人暮らしの要介護3(歩行障害)の被災者は、ヘルパー訪問の回数を減らし、高価なデイサービスはもちろん使えず、自力でお風呂に入ろうと転倒(仮設の風呂場には15㎝以上の段差)。頭部外傷を負い縫合処置を施行。入院を勧められたが入院費が払えず、仕方なく仮設に戻り、民生委員のお世話をいただきながら生活している。微々たる年金のために生活保護にもなれない」...これは、ほんの一例です。
どんなサービスにも自己負担がつきまとい、国が掲げる衣食住という最低生活の社会保障は表向きだけ。やむなく住所を岩手に移す住民もいます。
現状を知事は知っているのでしょうか? 震災から立ち直ったかのような力強い報道を流しテレビでかっこいいことばかり取り上げ、まるで北朝鮮のよう...。そのギャップが被災者・弱者をますます萎縮させ、本音を言えない環境にしてしまっています。
でっかい防波堤より、ちっちゃくてもいいから、でっかい屁もたれる自分の安住の家が欲しい。それが被災者の本音なんです。
今、被災者を支えているのは、国や政治家より、隣人とボランティアの支えです。漁業・観光で生活してきた人たちの自然を破壊し、コンクリートで埋め尽くそうとしている国の方針に、弱者は「未来も夢もなくなった。生きてても周りに迷惑かけるだけ」と悲壮な考えになってきています。
それを捨て身で食い止めようとがんばり続けているキーパーソンが、高齢の小野さんであることは地域住民が周知しています。だからわれわれ医療支援団は彼女らに引きつけられ気仙沼に行くんです。決して中断できない。
これからまた、長い長い寒い冬が到来します。仮設の冬は地獄です。
今回の旅は、頑張り屋の小野さんへの大きなプレゼントでした。彼女の張りつめていた全身の糸が切れました。今まで涙ひとつ見せたことがない彼女の大粒の涙が全てを物語っていました。
今回の全てが満足です。本当にありがとうございました。
菊地 優子