2014年1月05日(1739号) ピックアップニュース
新春インタビュー 神戸低侵襲がん医療センター 藤井 正彦理事長 患者にやさしい がん治療を
神戸低侵襲がん医療センター
藤井正彦 理事長院長
【ふじい まさひこ】1957年6月24日生。82年3月神戸大学医学部卒、同年6月同大学医学部附属病院放射線科(研修医)、83年1月県立成人病センター放射線科などで研修、89年12月神戸大学病院放射線科助手、90年10月〜91年3月米国Emory大学留学、92年5月三木市立三木市民病院放射線科医長、2000年7月神戸大学病院放射線科講師、01年12月同放射線部助教授・副部長、07年10月同准教授・部長、09年10月神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野准教授・放射線科長、12年10月神戸低侵襲がん医療センター理事長・病院長、13年1月神戸大学客員教授、専門分野は画像診断(腹部、骨軟部)、腹部IVR、電子情報・遠隔画像診断
「小さく見つけて やさしく治す」をコンセプトに昨年4月、神戸ポートアイランドにオープンした神戸低侵襲がん医療センター。開設の理念や病院の特徴などについて、理事長・院長の藤井正彦先生に、神戸大学の同級生である西山裕康協会副理事長がインタビューした。
最先端の放射線治療が受けられる
西山 お久しぶりです。開院おめでとうございます。藤井 ありがとうございます。先生もご活躍のようで。ラジオ関西のご出演(※)、聞きましたよ。
西山 ありがとうございます。早速ですが、この病院を開設された理念や目的を教えてください。
藤井 日本のがん治療は、臓器別診療で手術技術も高いため、今も外科治療が主流です。近年放射線治療も非常に進歩しているのですが、十分な設備が整った施設が数少なく、本当は切らずに治せるがんでも、手術している場合があります。がん患者の高齢化が進んでいく中で、患者のQOLをもっと高めた、最先端の「切らない低侵襲がん医療」を提供していきたいというのが設立の目的です。
当院の特徴として、照射野内の放射線の強度を変化させて、がんの形に合わせた照射を行うIMRT(強度変調放射線治療)や、大量の放射線を短時間に集中して照射する定位放射線治療(SRT)などが可能です。画像誘導下でカテーテル治療などを行うIVR(Interventional Radiology)には、IVR−CT装置を用いています。
西山 私は外科出身ということもあり、がんの放射線治療は、手術と組み合わせてというイメージでしたが、今は放射線単独でも生命予後を損なわないようになってきているのですね。
藤井 ええ。このような高精度の放射線治療を行えるのは全国的にも少なく、県内でも県立がんセンターなど数えるほどです。高精度になれば、肺がんのⅠ期も前立腺がんも放射線単独で治せます。抗がん剤との併用で、頭頸部がんや食道がんも手術と遜色がないレベルになりましたし、肛門がんに対しても使えるようになってきました。
西山 すばらしい進歩ですね。
藤井 高精度の放射線治療ができるのは、画像診断の進歩とコンピューター技術の発展があってのことで、この10年で急激に変わりました。当院には、高精度治療に欠かせない医学物理士も3人いて、重要な役割を担っています。
西山 最先端ということですが、治療は保険診療で受けられるのですか。
藤井 ええ。すべて保険診療で、安心して治療を受けていただけます。
また、治療過程での副作用や体力・気力低下への対応として、口腔ケアやがんリハビリにも力を入れていますし、来春には緩和ケアも開始し、末期のがん患者の受け入れも進めていく予定です。
神戸大学との連携で治療効果を上げる
聞き手 西山裕康 副理事長
藤井 もともと2007年に神戸市から神戸大学に、医療産業都市への参画の呼びかけがあり、杉村和朗神戸大学病院長が、県内で不足しているのは放射線治療ができる施設だと提案されたことがきっかけです。医師の多くは神戸大学から推薦していただき、全面的なサポートを受けています。
西山 新病院に新しい医師・スタッフで、ということで、ご苦労も多いのでは。
藤井 不慣れなことが多かったですが、がんの低侵襲治療という共通のビジョンをもったすばらしいスタッフが集まってくれました。看護師らスタッフも、がん治療にもっと携わりたいという熱い思いで、専門資格を持った優秀な方々が全国から集まってくれ、大変心強いです。
また、神戸市立医療センター中央市民病院とは、開設前から会議を重ね、当院患者さんの夜間・救急などのサポートをお願いし、当院は長期入院の放射線治療の患者さんを受け入れるという方向で、緊密な連携を進めています。
がんと診断される前でも紹介してほしい
西山 われわれのような、一般開業医も、患者さんを紹介していいのでしょうか。藤井 もちろんです。手術では治らないようながん患者でないと紹介できないのでは? 神戸大学を通じないと紹介できないのでは? などと思われているようですが、全くそんなことはありません。
西山 十分に検査できていないがんの疑いがある患者さんでも診ていただけるのですね。
藤井 そうです。当院のコンセプト「小さく見つけてやさしく治す」は、診断から治療まで診るという意味で、専門医が最新のCT・MRI・PET−CTなどを用いて診断します。早期であればあるほど、放射線治療の照射範囲も狭く、治る確率も高いので、どんどん紹介していただきたいです。手術の適応であったり外科的処置が必要になった場合は、神戸大学病院や中央市民病院に紹介します。
西山 まずは紹介ということですね。私も手術の適応がない場合に放射線治療と考えていましたが、認識を改めました。今後の課題は。
藤井 外来化学療法の患者さんをもっと受け入れることです。働きながら治療を希望する患者さんにあわせた時間帯で外来診療を行うなど、ニーズに応え、特色を出していかなければと思っています。
西山 病院は、特別目的会社(SPC)という事業形態で建設されたと聞きました。公立病院のPFI事業に近いと伺いましたが、どんな事業スキームなんでしょうか。企業が病院事業に関与することはありませんか。
藤井 国内初ですが、民間企業が出資したSPCが病院の建物を建てて、SPCに医療法人が賃料を払うという形です。つまり大家と店子のような関係で、企業が診療に口を挟む心配はありません。
西山 では、民間病院として、病院経営をする大変さがありますね。
藤井 ええ。低侵襲のがん治療を推進するのは公的な役割だと思いますが、民間でやることによる難しさがあります。がん医療は慢性期医療ということで、救急医療などと違い、公的サポートがありませんから軌道に乗るまで経営的にも大変です。
放射線治療でいのち救いたい
〈神戸低侵襲がん医療センター〉2013年4月1日、神戸ポートアイランドで開院。一般病床80床。放射線治療、薬物療法、画像診断、カテーテル治療、内視鏡治療、がんリハビリテーション、緩和ケアを通じ、低侵襲で最良のがん医療を提供する
藤井 きっかけは、祖父が医学部6年のとき肺がんで亡くなって、がんを身近に感じたことです。また、祖父と父が広島で被爆しており、放射線を強く意識したことも理由のひとつです。放射線は怖いというイメージが強いですが、医療で活用すれば人の命も救える、がん治療に携わりたい。そう考え、放射線科を選びました。この病院を開設することになり、最良のがん治療で患者を救いたいと、やりがいを感じています。
西山 先生の強い信念、優秀なスタッフ、最新の医療機器により、新しいコンセプトの病院が進みつつあるのですね。今後に期待しています。ありがとうございました。
※ラジオ関西番組出演 10月〜3月の間、毎週木曜日「寺谷一紀と!い・しょく・じゅう」内コーナーに、協会役員が出演し、医療にかかわるさまざまな問題を解説。過去の放送分は、協会ホームページで聞くことができる