兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2014年5月25日(1751号) ピックアップニュース

参議院で武村副理事長が意見陳述 神戸医療産業都市から日本版NIHの危険性語る

1751_4.jpg

医療の目的は経済成長ではなく、国民の健康を守ることと訴える武村副理事長

 参議院内閣委員会で5月15日、健康・医療戦略推進法案と独立行政法人日本医療研究開発機構法案に関する参考人質疑が行われ、協会から武村義人副理事長が参考人として陳述した。協会から国会に参考人を派遣するのは故・桐島正義元理事長に続いて2人目。
 両法案は、日本医療研究開発機構(日本版NIH)の設立などを通じて、医学分野での基礎研究をいち早く実用化し、日本の産業競争力を高めるとしており、安倍政権の成長戦略を具体化するもの。
 武村副理事長は、地域医療に従事する開業医の立場から両法案の問題点について意見陳述をした後、各会派からの質疑に応じた。
 武村副理事長は、神戸医療産業都市の問題点を示し、経済成長のために医療分野で先端的研究開発を推進するという両法案の問題点を指摘した。
 神戸中央市民病院が、先端医療センターの臨床部門としての役割を担うために、減床の上、移転された結果、救急受け入れ停止時間が増加したことなどを挙げ、法案が成立すれば、臨床研究中核病院で臨床研究に力を入れるあまりに地域医療が立ちゆかなくなるおそれがあると訴えた。
 また、神戸医療産業都市では、法案の狙いと同様、医療ツーリズムの推進が行われていることを挙げ、「限りある医療資源が外国人富裕層の自費診療に優先的に振り向けられれば、国民皆保険制度の根幹を揺るがすことになりかねない」と懸念を表明した。
 こうした武村副理事長の意見陳述を受け、同じく参考人である永井良三自治医科大学学長や濱口道成名古屋大学総長も、医学の発展の目的は経済成長ではなく、患者の命と健康を守る点にあることや、国立大学病院の目的は国民医療の向上であり医療ツーリズムを本格的に受け入れることはできないことなどを表明。武村副理事長の指摘した問題点について十分注意すべきであると国会議員に訴えた。
参議院内閣委
参考人質疑での武村義人副理事長の意見陳述 要旨
先端研究のため地域医療こわすな
 私は日々、内科の医師として、地域でさまざまな疾患を抱える患者を診ている観点から、「健康・医療戦略推進法案」(以下、推進法)と「独立行政法人日本医療研究開発機構法案」が地域医療にどういった影響を及ぼすのか話す。
 「推進法」の第4条の説明では、「神戸医療産業都市構想」が具体例として、あげられている。神戸市の医療産業都市構想は、そこに記載されているように、高度医療技術の研究・開発拠点を整備し、医療関連産業の集積を図るとされている。
研究開発に公立病院を利用
 神戸市は、医療産業都市構想の臨床部門の核とするため、神戸中央市民病院を先端医療センターの隣に移転させた。
 つまり、先端医療センターで開発を進める医療技術の、臨床研究などの被験者を集めるという目的と、先端医療センターで臨床研究を行っている最中に、患者さんの容態が急に悪化した場合に、救急医療を施すという目的のために、神戸中央市民病院を先端医療センターに隣接させたのである。
 これは、法案にある「世界最高水準の医療」を開発するために、公立病院を利用していることに他ならない。
 そのために、市税や、移転による一般の患者さんの利便性、移転に伴う病床削減による地域の救急などが犠牲になっている。
 さらに、「推進法」の第1条では、経済成長のために、医療分野での先端的研究開発を行うとされている。医学の進歩発展は当然、必要だが、その目的は人々の健康を守り、病気から救うことで、経済発展のためではない。
 「推進法」の第11条の説明では、臨床研究中核病院として10の病院が選定されているが、こうした病院で臨床研究に力を入れるあまり、現在担っている地域医療における役割がないがしろにされてしまうのではないかと危惧している。
海外の患者のため地域医療が犠牲に
 2点目だが、「推進法」第14条では、研究成果を海外に輸出したり、外国人患者受け入れ支援を行うとしている。
 神戸医療産業都市でも、KIFMEC(神戸国際フロンティアメディカルセンター)や16年に新設されるアイセンターと呼ばれる眼科病院で海外からの患者受け入れを行う計画だ。
 しかし、KIFMECで行うとしている生体肝移植は、すでに日本では保険適用されているし、アイセンターで行うとされる白内障や緑内障の手術も保険適用されており、公定価格が決まっている。そのため、医療機関が自由に価格を設定できる海外の患者を、公的医療保険による一定の診療報酬しか得られない国内の患者よりも優先する可能性がある。
 医療の国際展開を急ぐあまり、国民、地域住民の共有財産である医療資源を海外の患者に優先的に振り向けることになれば、本末転倒である。
実用化急ぐあまり医療事故を隠蔽
 もう一点、先端医療センターと神戸中央市民病院で、2004年10月に狭心症の患者さんに対して、再生医療を含む最適な治療法を判断するという目的で、ノガシステムという医療機器が使用された際、心肺停止となり、緊急手術で一命を取り留めたという医療事故が起こった。
 しかし、両病院は、この事実を公表しないまま、2007年11月に再びこの医療機器を使用して、心臓血管再生医療を実施した。その後、神戸新聞社の情報公開請求などで2009年になってやっと、市民の知るところとなった。
 やはり、再生医療など新たな医療技術の実用化をあまりに急げば、医療事故を起こしたり、その事実の隠蔽が起こるということだ。

1751_5.gif

図 限りある医療資源を研究開発等に集中するあまり、地域医療がないがしろにされる

バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方