2014年7月05日(1755号) ピックアップニュース
インタビュー 在宅医療の現場から(3) 国の在宅施策もっと強めてほしい
姫路市・だいとうクリニック 大頭信義先生
30年ほど前、国立姫路病院で肺がんや心臓の手術をしていましたが、暖房など病棟の環境が整っていなかったこともあり、術後の患者さんが体調を崩してしまっていました。それなら早めに家に帰ってもらおうと、往診を始めました。すると、患者さんが「やっぱり、わが家がいいですね!」と喜ばれ、それがうれしくてね。肺がんは再発率が非常に高いため、再発した患者さんも自宅で診るようになりました。
在宅中心で診療しようと28年前に開業し、3年前から外来を午前中だけにして、訪問診療の時間を増やし、がん患者を中心に月70人の患者さんを訪問しています。年間約60人の方を看取ります。末期のがん患者さんの在宅期間は平均2カ月半で、数日に1日の頻度で訪問する必要があり、夜中でも看取りにかけつけます。そのために、訪問看護ステーションとヘルパーステーションを併設し、多数のスタッフと協力しています。
−−患者さんは、自分の家での生活を望まれるんですね。
そうです。自分の好きなことができ、家族がいる。施設や病院でつまらなさそうな顔をしている方も、表情が全く変わって、生き生きします。たとえば、ある患者さんを訪問したとき、お孫さんが帰ってきて「おじいちゃん、ただいま!」と声をかける。そんなことでも、患者さんが涙を流されたんです。自分がいいと思う場所で日常が過ごせるよう、患者さんを支えていきたいと思っています。
−−国は「入院から在宅へ」と言っていますが、現場に変化はありますか。
国は医療費を減らすために、抽象的なことを言っているだけです。具体性が全くなく、実際に在宅医療を推進しようというような施策はありません。一方、病院からは退院を迫られることが定着してしまいました。今回の改定で、大切な急性期病床を9万床減らしてしまって、患者さんはますます行き場をなくすでしょう。
在宅医療は、介護する人の存在が大切です。介護保険で、家事サービスなどヘルパーさんの力を借りて、家族は安心して患者さんを見守ることができます。介護保険制度導入で、家族の負担が軽くなった点は非常にありがたいですね。ただ、増加している独居世帯や、ご家族が病気を抱えている場合、在宅医療は難しくなってしまいます。
介護保険は、現金給付で利用額に上限があり、若い人は使えないなど、課題も多く、もっと充実してほしいのですが、逆に医療・介護総合法案で、介護保険の利用料自己負担が2割に引き上げられ、多くの方の生活が苦しくなるだろうと心配です。
協会には、いつも政策や財源論の解説、運動をがんばっていただいており、応援しています。
私は、家で暮らすことを望む患者さんのため、患者さんとの距離をより濃厚にし、在宅医療にさらに力を入れていきたいと思っています。